はじめに|家づくりって、まずどこから始めるべき?
「まずは工事契約から」──そう思っていませんか?
しかし実は、その前に交わす「設計契約」こそが家づくりの本当のスタートです。
設計契約とは、ハウスメーカー・工務店・設計事務所などに設計を正式に依頼するための契約で、注文住宅の計画を進めるうえで欠かせないプロセスのこと。
しかしながら、「設計契約」の存在すら知らずに進めてしまい、後から後悔する方も少なくありません。
そこでこの記事では、設計契約の意味や重要性・流れ・費用・注意点まで、一級建築士がわかりやすく解説します。

設計契約とは?その目的と役割
設計契約の定義(誰と結ぶ?何のため?)
設計契約とは、建築会社と施主(あなた)との間で締結される「住宅の設計を依頼するための法的な契約」です。
この契約を交わすことで、建築会社は対価を受け取り、設計という専門行為に責任を持ちます。
つまり、ただの仕事依頼ではなく、法的な責任と信頼に基づくプロジェクトの始動となるのが「設計契約」です。

工事請負契約との違いは?(契約内容・時期・目的)
設計・計画をはじめるにあたっての契約が「設計契約」。それに対して、工事をはじめるにあたっての契約を「工事請負契約」といいます。両者には、次のような違いがあります。
項目 | 設計契約 | 工事請負契約 |
---|---|---|
タイミング | 計画の初期段階 | 設計完了後 |
契約相手 | 設計・計画を依頼する会社(工務店・ハウスメーカー・設計事務所など) | 工務店・ハウスメーカー |
契約内容 | プランニング・設計業務 | 工事の実施・施工 |
主な目的 | 住まいの構想と計画づくり | 図面に基づく建築工事 |
設計事務所との設計契約では、間取り・法規・構造・仕様に関する設計図を描くだけでなく、予算調整・見積精査・施工者の選定までを建築家が担います。施工契約とは全く別物であり、「家づくりの質」を左右する根幹となります。
工事請負契約については、こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【工事請負契約とは?注文住宅で後悔しない工事契約の流れ・費用・注意点|一級建築士が解説】

「設計料=設計に責任を持つ」という仕組み
一部の住宅会社や工務店では、「設計料は無料です」「設計事務所より安くできます」と言われることがあるかもしれません。
しかしそれは、あくまで工事契約を取るための営業活動であり、設計そのものに法的な責任があるわけではありません。
一方で、建築家や設計事務所との「設計契約」は、設計料が発生する代わりに、図面の内容に責任を持つ契約です。
図面にミスがあれば、設計者自身が責任を負います。

「住宅会社や工務店の無料設計」と「設計契約」、両者の違いを分かりやすく表にしました。
設計契約と無料設計の比較表
比較項目 | 設計契約 | 無料設計 |
---|---|---|
法的責任 | あり(契約に基づき責任を負う) | なし(営業提案扱い) |
設計の精度 | 高い(法規・施工・コストすべてを考慮) | 簡易的・標準化されていることが多い |
中立性 | 高い(施主側の立場で提案) | 自社施工に誘導されやすい |
契約目的 | 「暮らしを実現する設計」のための契約 | 「工事契約を取るための設計」 |
無料設計は一見お得に見えますが、図面の内容に責任が発生しない以上、建築士側に法的・技術的な保証義務はなく、ミスがあっても責任を問うのが難しいケースもあります。
一方で、設計契約では、図面・法規・構造すべてに設計者が責任を持つことになり、設計の質が担保されるのです。
つまり、設計契約とは「図面の質」と「安心」を保証する仕組みなのです。

設計料を「コスト」でなく「価値」として捉える
ここで家づくりで大切な視点を整理しておきましょう。
注文住宅では、「設計料が高いか安いか」という細部に執着する視点では
「自分たちの予算で、どこまで理想を実現できるか」俯瞰的に考える視点が何より重要です。
設計料を削っても、結果的に理想が叶わなければ意味がありません。
限られた予算を、どう使えば、より安心で理想的な住まいを実現できるか?──
この視点こそが、家づくりを成功に導くカギになります。

設計事務所は、実はコストパフォーマンスが高い?
実際に、設計事務所や建築家に設計料を支払った方が、*「結果的にコストを抑えられた」「住まいの満足度が高かった」というケースは少なくありません。
・余計な仕様を省いた、機能的かつ美しい設計
・将来のメンテナンスコストまで考慮された素材選定
・相見積もりによる適正価格の施工会社選び
こうしたアプローチが、トータルコストを下げる要因になっているのです。
こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【建築家・設計事務所が最もコストパフォーマンスに優れる!?設計料・費用面を解説!】

設計契約の流れとステップ
ここからは、設計契約の流れとステップを解説します。まずは、簡単な表にしましたので、こちら↓をご覧ください。
設計契約の流れとステップ(早見表)
ステップ | 内容 | ポイント |
---|---|---|
① ヒアリング・提案 | 価値観・暮らし方・敷地条件をヒアリング。簡易プランで相性確認。 | 建築家との相性チェック |
② 基本設計・概算見積 | ゾーニング・間取りの検討。概算見積で予算調整。 | 設計契約がスタートする段階 |
③ 実施設計・見積精査 | 詳細図面・仕様の確定。施工見積を依頼し内容を精査。 | 建築家が価格の妥当性をチェック |
④ 施工会社の選定 | 工期・対応・品質などから最適な施工会社を選定。 | 中立的な立場で助言 |
⑤ 工事請負契約へ | 図面・仕様・見積が確定後、工事契約を締結。 | 納得した状態で着工へ |
続いて、それぞれのステップごとに、より詳しく解説していきます。

①ヒアリング・提案
まずは施主の価値観やライフスタイル、敷地条件を丁寧にヒアリングします。建築家とイメージを共有しながら、お互いの相性や方向性を確認するフェーズです。この段階では「本当に任せられる相手か」を見極める意味でも大切な時間でもあります。

②基本設計・概算見積・設計契約
ヒアリングをもとにゾーニング(空間構成)や動線計画を検討し、全体のプランを練り上げます。加えて、建築コストの概算見積やCGなどのイメージを提示し、予算とのバランスを調整します。
設計契約は、この段階で行うケースが多いです。

③実施設計・見積精査
詳細な構造図・設備図・仕上げ材の指定などを含む「実施設計」を進めていきます。同時に、工務店への見積依頼と内容精査も行います。
見積内容に不明点や不適正があれば、設計者が調整・交渉を行い、施主に代わって価格や内容の妥当性を確認します。

④施工会社の選定
工期・品質・実績・対応力を総合的に見て、信頼できる施工業者を選びます。建築家はあくまで中立的立場からアドバイスを行い、「最適なパートナー選び」を支援します。このシステムを設計施工の分離発注といいますが、詳しいメリット・デメリットなどについては、こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【設計と施工の分離発注とは?メリット・デメリットと注意点】

⑤工事請負契約へ
すべての図面・仕様・見積が整った上で、ようやく施工会社と工事契約を結びます。この段階では、施主の不安が取り除かれ、納得した上で着工を迎えられます。
より詳しい建築家・設計事務所との家づくりの流れについては、こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【建築家・設計事務所との家づくりの流れ・手順を解説!相談・依頼~完成以後まで!】

設計契約の費用と相場|内訳と支払いタイミングまで丁寧に解説
ここからは、設計契約の費用と相場を解説します。
家づくりにおいて、「設計料っていくらかかるの?」「いつ、どのタイミングで払うの?」という疑問を持つ方は多いと思います。
結論から言えば、設計料は「総工事費の10〜15%前後」が目安。ただし、その内訳や支払いスケジュールは、意外と知られていません。
設計契約では、家が完成するまでの各ステップに応じて、段階的に設計料を支払うのが一般的です。

以下に、設計料の内訳と支払いタイミングをセットでまとめました。
設計料の内訳と支払いタイミング(早見表)
項目 | 内容 | 支払い時期 | 割合目安 |
---|---|---|---|
基本設計 | プラン提案・ゾーニング・概算見積 | 設計契約時 | 約20〜30% |
実施設計 | 詳細図面・法規対応・構造設計 | 実施設計完了時 | 約30〜40% |
設計監理 | 工事中の現場確認・設計通りか確認 | 工事契約時または引渡し時 | 残額(30〜50%) |
※支払いの割合やタイミングは、設計事務所によって異なります。契約書に明記されているかどうか、必ず事前に確認することが大切です。

設計契約がないと、なぜ後悔するのか?
ここからは、設計契約がないと、なぜ後悔してしまうことになりやすいのか?設計契約の重要性について解説します。
「とりあえず契約」のリスクとは
「無料でプラン出します」「お見積もりだけでもOK」──
そんな言葉に惹かれて話を進めた結果、あとになって後悔したという声は少なくありません。
設計契約がないまま家づくりを始めると、計画の精度が甘くなり、工事の信頼性や費用の妥当性もすべて不安定になります。いきなり多額の「工事契約」をすることになり、非常に危険だといえます。

仕様が曖昧なまま進むと、トラブルの温床に
図面の精度が低いまま工事が始まると、
・「仕上がりがイメージと違う」
・「ここにコンセントが欲しかったのに…」
・「思ったより音が響く」
といった施工段階での食い違いやトラブルが発生します。
こうした問題の多くは、仕様が明確に文書化されていなかったことが原因です。
後悔しない家づくりの第一歩は、全ての設計内容を明確にする契約を結ぶことにあります。

設計者が責任を持たない契約は、非常に危険
そもそも「設計契約」がない、もしくは不明確なまま設計が進んでいると、万が一のミスや不具合が起きたときに、誰に責任を求めてよいか分からなくなってしまいます。
住宅は、一生に何度もない高額な買い物。だからこそ、「誰が・どこまで・何に対して責任を持つか」を契約の中で明確にしておくことが絶対に必要です。

建築家・設計事務所と設計契約を結ぶ3つのメリット
ここからは、建築家・設計事務所と設計契約を結ぶメリットをご紹介します。メリットは次の3つです。
① 図面・見積・契約書の整合性が取れる
② 施工業者選びに中立性が生まれる
③ 「契約のための契約」ではなく、「暮らしを描く契約」になる
それぞれ詳しく解説します。

① 図面・見積・契約書の整合性が取れる
建築家が図面・仕様・見積を一貫して管理することで、「聞いてない追加費用」や「見積と図面の食い違い」といったトラブルを防げます。
すべてが連動して設計されるため、曖昧さがなく、完成までの計画がぶれません。
これは、設計契約を結んでいるからこそ実現できる仕組みです。

② 施工業者選びに中立性が生まれる
建築家は施工会社とは独立しているため、営業目的ではなく、施主にとって最善の施工者を選べる立場にあります。
複数の工務店から見積を取り、価格だけでなく品質・対応力も総合的に判断できるのは、中立な立場の建築家がいるからこそです。

③ 「契約のための契約」ではなく、「暮らしを描く契約」になる
設計契約は、「工事のため」ではなく、「どんな暮らしを、どんな空間で実現するか」を考える契約です。
建築家は、間取りやデザインだけでなく、暮らしの価値観や日常の過ごし方まで一緒に設計します。
ただ図面を引くのではなく「人生そのものを形にするプロセス」、それが建築家との設計契約の本当の意味です。

Q&A|注文住宅の設計契約に関する-よくある質問-
Q. 設計契約は途中でキャンセルできますか?
A.はい、可能です。
途中で契約を解消する場合は、それまでに実施した業務に応じて、設計料の一部精算が発生します。
契約時に「キャンセル時の扱い」が明記されているかどうかを、必ず確認しておきましょう。

Q. 設計料はどのタイミングから発生しますか?
A.原則として、設計契約を結んだ時点から費用が発生します。
ただし、ヒアリングやプレ提案までは無料とする事務所もあります。
どこからが有料で、どこまでが無料なのか、業務範囲と報酬のラインを、契約前に明確にしておくことが大切です。

Q. ハウスメーカーとの違いはなんですか?
A.大きな違いは、次の3つです。
・設計の自由度:ハウスメーカーは規格化されたプランが中心
・中立性:設計者が施工会社に所属している場合、提案が偏る可能性あり
・責任の所在:建築家は契約に基づき、図面に法的責任を持つ
建築家との設計契約では、ゼロベースで暮らしに合った空間づくりができ、中立的な判断が受けられるのが魅力です。
その他のメリットについては、こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【設計事務所・建築家の特徴、メリット・デメリットなどを徹底解説!】

Q. 設計契約だけでも相談可能ですか?
A.もちろん可能です。
設計だけを建築家に依頼し、施工は別の工務店に任せる「セパレート契約」も増えています。この方法により、設計の質・価格の透明性・施工の競争性がすべて高まるため、納得感の高い家づくりを実現できます。

Q. 工事費と設計料、両方にお金をかける余裕がないのですが…?
A.家づくりの予算は限られているのが普通です。だからこそ、設計段階にしっかり費用をかけることで、後の無駄なコストややり直しを防ぐことができます。結果的に、総額を抑えながら満足度の高い家になるケースも多いため、設計料は「費用」ではなく「価値」として捉えるのが正解です。

Q. 最初から設計契約するのが不安です。試してから決められますか?
A.多くの建築家は、初回相談や簡易プラン提案までは無料または低額で対応しています。
「まずは話だけ聞いてみたい」という方でも、気軽に相談できる環境が整っています。不安な場合は、プレ契約など、段階的な進め方も可能です。お気軽にご相談ください。

おわりに|設計契約とは、安心して家づくりを始める「はじまりの約束」
注文住宅の設計契約は、ただ図面を描くための形式的な手続きではありません。
それは、建築家と施主が向き合い、これから描いていく「暮らし」を共に背負うための約束です。
図面、仕様、予算──
家づくりには多くの要素がありますが、いちばん大切なのは「納得して進めること」
設計契約は、そのための土台となります。

私たちは、「契約を急がせない設計」を大切にしています。
ひとつひとつの選択を、ご家族の未来から逆算して丁寧に積み上げ、安心して“家づくりを始められる状態”をつくることこそが、設計の役割だと考えています。

ご相談をご希望の方へ
「契約の前に、まずは納得できるプランや考え方を聞いてみたい」
「設計から施工まで、一貫して信頼できる人に任せたい」
そんな想いをお持ちの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
土地のこと、資金のこと、工務店選びのこと──
すべて、代表の建築家が責任を持って伴走いたします。
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注文住宅の契約、全般については、こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【注文住宅の契約とは?失敗や後悔しない流れ・費用・注意点まとめ|設計契約と工事請負契約の違いとは?】

参考リンク|設計契約・工事請負契約についてもっと知りたい方へ
この記事では、設計契約と工事請負契約の違いや流れについて解説しましたが、より専門的な資料を確認したい方は、以下の公的機関による情報もご参照ください。
国土交通省|建築設計業務・報酬基準
- 建築設計業務委託契約書(案)PDF
→ 設計契約における契約書の構成や項目例を確認できます。 - 設計・工事監理等に係る業務報酬基準(告示)
→ 設計料・監理料の目安となる、国交省による報酬算定基準です。 - 建築設計業務委託の進め方PDF
→ 設計契約までの進行や手続きの概要がわかる公式ガイドです。
国土交通省|工事請負契約の基礎資料
- 民間建設工事標準請負契約約款(乙)PDF
→ 個人住宅などで使用される標準契約書の例です。 - 建設工事標準請負契約約款に関する解説ページ
→ 工事契約に関する考え方や留意点を国交省が解説しています。