はじめに|「自由設計」の理想と現実
「間取りも外観も、自分の好きなように決められる──それが注文住宅の魅力ですよね?」
そう話す方は少なくありません。
たしかに、建売住宅とは違い、家族の暮らしに合わせて設計できる。それが注文住宅の大きな魅力です。
しかし、実際に設計を始めると多くの方が「自由設計のはずなのに思ったより制限が多い」と気づきます。

では、本当に自由に設計できるのは誰に依頼したときなのでしょうか?
何が「自由」を妨げ、どうすれば“本物の自由”を取り戻せるのか?
一級建築士の立場から具体的な事例やプロセスを交えて深掘りします。

完全自由設計とは何か? 理想と限界の交差点
自由設計とは、施主のライフスタイルや価値観をもとに、ゼロから間取りや空間構成をつくり上げる手法です。
ただし、多くの場合、「完全に自由」というわけではありません。
実際には以下のような制約が立ちはだかります。
・法的制約(建ぺい率・容積率・斜線・高さ制限など)
・敷地条件(形状、高低差、周辺建物、道路幅)
・インフラ(給排水・電気・ガス)
・コストや工期
このような制限の中でも、自由自在に最適解を導くのが建築家です。

ハウスメーカー・工務店・設計事務所、どこが一番自由なのか?
多くのハウスメーカーや工務店が「自由設計」を謳っています。
けれども実際には、その多くがあらかじめ用意された規格プランをベースにした「セミオーダー方式」であり、完全な自由設計とは言えないのが実情です。

なぜ、結局セミオーダーになってしまうのか?
それは、真の自由設計には、敷地条件・法規制・構造・動線計画など、複雑な要素を整理しながらプランを構築する高度な設計力が求められるからです。それゆえ「そのご要望には構造上対応できません」「規格外なので追加費用が…」といった理由で、結果的に自由度が制限されていくことが多くあります。

一方、設計事務所や建築家は、すべてを白紙から組み立てる“完全自由設計”を本質から担える存在です。
間取りや動線だけでなく、土地の形状・光や風の流れ・家族の生き方に至るまで、あらゆる条件を読み解きながら設計に落とし込みます。
つまり、「暮らしに合わせて家をつくる」ことが本当に可能となるのは、こうした設計の専門家に依頼したときだけとも言えるのです。

分かりやすく、ハウスメーカー・工務店と建築家・設計事務所の違いを表にまとめました。
比較項目 | ハウスメーカー・工務店 | 設計事務所・建築家 |
---|---|---|
設計自由度 | △ 規格プランベース | ◎ 白紙から完全自由設計 |
デザインの個性 | △ システム化された意匠 | ◎ 個性に合わせた唯一無二の提案 |
対話の深さ | △ 担当営業を介した対応 | ◎ 専門家が直接ヒアリング・提案 |
構造・素材の選択肢 | △ 標準仕様あり | ◎ 柔軟に選定・組み合わせ可能 |
工期・コスト | ◎ 短期・価格帯が明確だが、コスパは中身次第で精査が必要。 | △時間がかかる。こだわりたい方はコストパフォーマンスが◎ |

工務店・ハウスメーカーとの違いは、こちら↓の記事でも詳しく解説しています。
【設計事務所・建築家の特徴、メリット・デメリットなどを徹底解説!】
【「建築家の設計事務所」と「設計士のいる工務店」の決定的な違いとは?】

「自由」を妨げる制約──でも、武器にもなる?
ここで、設計の「自由」を妨げるとしたら、どのような制約があるのか?を解説するとともに、制約を武器に変換する設計手法をご紹介します。
法的制約:形状と高さを操る
建築基準法により、道路や隣地などからの斜線制限で、建物高さが制限されることがあります。この時、外観だけでなく、天井が低くなることもありますが、そんな時こそ、勾配天井で空間にリズムを生み出す好機です。 採光制限がある場合は、ハイサイドライトや吹き抜けを使って明るさを確保。 防火地域では、あえて無機質な素材を使い、そのシャープさをモダンなデザインに昇華するなど、変幻自在の設計力で法的制約は武器に変換することが可能です。

敷地条件:クセを個性に変える
変形地、高低差、旗竿地など、一般的に「悪条件」とされる土地では計画の自由度が制限されると考えていませんか?そんな時こそ、建築家の出番です。 例えば、高低差のある敷地では、スキップフロアを活かして視線の抜けと広がりを演出。 旗竿地なら、通路を長いアプローチに変換し、期待感を演出することも可能です。

コスト制約:「削ぎ落とす美学」
限られた予算では、デザインが制限されると考える方も多いことでしょう。しかしながら、素材・空間構成の工夫次第で、質の高い空間を設計することは可能です。 「多くを足す設計」ではなく「必要なものだけを研ぎ澄ます設計」によって、 コストと美しさを両立させることができます。 住まいの魅力は、モノで決まるわけではありません。
こちら↓の記事で詳しく解説しています。ぜひ参考にして下さい。
【“Less is More.” シンプルで魅力的な住宅。実現する設計デザイン。】

設計プロセス:対話の中から生まれる「自分だけの答え」
設計力とは「良い見た目をつくること」でもなければ「図面を描く能力」でもありません。
設計とは、対話によって、住まい手の理想・価値観・感覚を丁寧に引き出し、それを空間に翻訳するプロセスです。
具体的には、次のようなプロセスになります。
ステップ1:ヒアリング
設計の出発点はヒアリング、ここからはじまります。「朝はどこで過ごしたいですか?」「休日の昼下がりは、家でどう過ごしますか?」 とにかく聞くこと。建築家は、要望の「その先」にある本音を掘り起こします。

ステップ2:コンセプト設計
次に、コンセプト・全体の方向性を決めます。暮らし方に沿った空間配置、光の取り込み方、音や視線の流れまで考慮して、 「空間体験」を間取りに落とし込んでいきます。

ステップ3:詳細設計と調整
間取りが完成すれば、構造・断熱・動線・照明計画・造作家具など、細部を設計していきます。 ここでも対話を重ね、積み上げていくことで「自分たちらしい住まい」が輪郭を帯びていきます。

総括:建築家との設計は、対話を重ねることで一緒につくりあげる
このように実は建築家との家づくりは、建築家に依頼して全部任せるのではなく、一緒につくりあげていく共同作業に他なりません。決まった正解がない分、自由設計には迷いも伴うことでしょう。 だからこそ、信頼できる建築家と共に「選びながらつくる過程」こそが、自由設計の本当の価値なのです。

「暮らし」が生む納得感|建築家・設計事務所に依頼した場合
ここまで、設計事務所・建築家に依頼した際の「完全自由設計」について解説しました。ここからは、それがどのような時に納得感として感じられるのかご紹介します。
注文住宅の真価は、引き渡し後の「暮らし」に表れます。
・朝日が差し込むダイニングで、子どもが自然と集まる
・リビングにいても、キッチンから家族の気配が伝わる
・風が通る中庭で、休日にコーヒーを飲む時間が生まれる
こうした日常の中での、小さな感覚や発見こそが、暮らしの質を左右します。
ハウスメーカーでは「効率的な空間」はつくれても、こうした「気配」「空気感」「余白」までを繊細に設計できるのが建築家ならではの強みです。生活するにつれて、納得感が積み重なる住まい、それが設計事務所の注文住宅です。

よくある失敗例とその回避策
ここからは、自由設計にまつわる失敗例とその回避策をご紹介します。
失敗1:土地を先に買ってしまった
希望の間取りが入らなかったり、法律の問題や、地盤などの問題で大幅に余計なコストがかかり、後悔する方は多いです。「もっと相談しておけば…」と計画が崩壊することもあります。
【対策】
基本的に無料ですから、土地探しの段階から建築家に相談することです。「設計目線」で敷地を見ることが重要です。
こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【土地と建築会社、どちらを先に決めるのが正解?失敗しない注文住宅・土地探しの秘訣】

失敗2:要望を詰め込みすぎた
回遊動線・吹き抜け・大空間…設計力を伴わずに、理想をすべて盛り込めば、バランスの悪い家になってしまいます。実際に住んでみると「落ち着かない」「掃除が大変」「音が響く」などの不満が募ることになるかもしれません。
【対策】
まずは優先順位を整理し「残すもの」と「削るもの」を建築家と一緒に決めましょう。
理想をすべて盛り込むのも大変宜しいですが、ととのえること・調和させることも大切にしましょう。

失敗3:建築費が高い会社に依頼してしまった
設計の自由度が高いと評判の工務店やハウスメーカーに依頼したものの、想定よりも遥かに高額な見積もりが出て、泣く泣くプラン変更。素材や設備、外構まで大幅に削ることになり「自由設計どころではなくなった」と落胆することに。
【対策】
自由設計をうたう工務店・ハウスメーカーの場合、建築費が高コストになることも少なくありません。費用感や標準仕様の内容を事前にしっかり確認し、コストのバランス感覚が合うかどうかを見極めることが重要となります。ただし、こだわりの詰まった注文住宅を望む場合は、設計事務所・建築家の方がコストパフォーマンスに優れる可能性が非常に高いです。こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【建築家・設計事務所が最もコストパフォーマンスに優れる!?設計料・費用面を解説!】

失敗4:設計者との相性ミス
設計者の美意識と自分たちの暮らしの感覚が合わない、設計者のレスポンスが悪いなどが原因で、打ち合わせがストレスに。
【対策】
過去の実績を見て、言葉や提案の「トーン」が合う人を選ぶことが大切です。デザイン性だけでなく、人間性も大切にしましょう。設計事務所・建築家との相性の見極め方については、こちら↓の記事で詳しく解説しています。

Q&A|よくある質問
ここからは、建築家・設計事務所の「自由設計」に関する、よくある質問と回答・Q&Aをご紹介します。
Q:建築家に頼むと費用が高いのでは?
A:設計料は発生しますが、建築の完成度・満足度・将来の資産価値を考えると、費用対効果は高いです。 外観や断熱性、収納計画などが計画的に整理され、住んでからの追加工事や後悔も減ります。

Q:自由設計って、本当に自由なの?
A:制約はありますが、その中で最適解を導けるのが建築家です。「自由」の質が違います。 何もかも好きにできるわけではなく、「選ぶ自由」を支えるのが設計力です。

Q:設計打ち合わせは面倒?
A:決めることは多いですが、「自分たちの暮らしを言葉にし、形にする」貴重な体験です。 多くの方が「設計の時間が一番楽しかった」と語ります。

Q:土地が難しい条件でもお願いできる?
A:むしろそうした敷地ほど、建築家の力が発揮されます。 変形地・狭小地・高低差のある土地などこそ、オーダーメイド設計でこそ活かされます。

Q:完成までにどれくらい時間がかかる?
A:平均で8〜12ヶ月。設計期間3ヶ月〜、施工期間4〜6ヶ月程度が目安です。

Q:設計事務所の建てる家って、高級住宅?
A:価格帯に幅はあります。高級住宅だけでなく、30坪前後の住まいも多数手がけています。

まとめ|自由設計という選択は「暮らしを設計する」ということ
自由設計を選ぶということは、ただ「オシャレな家を建てる」ことではありません。
自分たちの暮らしと向き合い「どんな人生を送りたいか」を考えることです。
私たち建築家は、その想いを、図面や間取りだけでなく、空間・素材・光・風に落とし込みます。
そうして生まれるのは、建物ではなく「これからの暮らしそのもの」です。

家づくりに迷いがあるなら──まずは「誰とつくるか」から考えてみてください。
それが、本当の自由設計を実現する第一歩です。
自由設計とは、すべてを自由に決めることではなく、自分らしい選択を積み重ねていく設計のプロセス。
私たちは、対話を大切にし、その人らしい価値観に丁寧に向き合いながら、一棟一棟をかたちにしていきます。
建築家という選択肢があなたの暮らしを静かに力強く変えていくことを心から願っています。
▼このブログを執筆した建築家が手がけた住宅実例はこちら
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