設計事務所・建築家との相性の見極め方

失敗しない依頼のコツと注意点を一級建築士が徹底解説

注文住宅を建てる際、間取りや素材の選定以上に大切なものがあります。それが「誰に設計を依頼するか」という点です。特に、住まいにこだわりたい方は、設計士との相性の良し悪しが家づくりの成否を大きく左右します。なぜなら、注文住宅というプロジェクトは、時間も手間も費用もかかる、設計との共同作業「コラボレーション」だからです。

 

 

本記事では、一級建築士として数多くの住宅設計を手がけてきた筆者が、特に設計事務所・建築家との「相性の見極め方」「よくある失敗」「失敗しないための依頼のコツ」を体系的に解説します。工務店やハウスメーカーの設計士との相性の見極め方にも通ずるところは多い内容です。ぜひ、最後まで読んで参考にして下さい。

 

 

 

まずは、なせ、設計事務所・建築家との「相性」が重要なのか?その理由について解説します。

注文住宅は、多くの方にとって一生に一度の大きな買い物です。限られた予算と土地条件のなかで、いかに理想の暮らしを実現するかが問われます。そして、建築家・設計士は、設計のプロフェッショナルであると同時に「施主の想いを汲み取り、かたちにする」翻訳者の役割を担うものです。

それゆえに、重要になるのが次の3つ。「価値観の共有」「言語化の相性」「共に並走できる信頼関係」です。

 

 

例えば、設計士・建築家にもいろいろなタイプがいます。

・暮らしに重きを置く建築家
・デザイン優先の建築家
・コスト意識に強い建築家
・対話を重んじる建築家
このように方向性やアプローチはさまざまです。

この「違い」を理解せずに依頼してしまうと、設計が始まってから「なんか違う」と違和感が募り、コミュニケーションにストレスを感じるようになります。逆に、相性が合えば、「任せてよかった」と思える安心感が生まれ、家づくりそのものが豊かな経験になることでしょう。

 

 

建築家・設計事務所のタイプについては、こちら↓の記事で詳しく解説しています。

【建築家の設計事務所、タイプごとの特徴や選び方を徹底解説!】

 

 

では、実際に建築家との相性はどう見極めればよいのでしょうか。以下に、失敗しないための5つのチェックポイントを紹介します。

① 過去の施工事例は“価値観”の鏡

まずは、建築家が手がけた過去の住宅事例をしっかり確認しましょう。

・デザインテイスト(モダン、和風、北欧など)
・素材の選び方(無垢材、コンクリート、タイルなど)
・間取りや動線の考え方(回遊動線、吹抜け、コンパクト設計など)
・中庭や外構へのこだわり

このような全ての項目に建築家の美意識・価値観が如実に表れます。「直感的にいいな」「住んでみたいな」と思えるかどうかが、第一の判断材料になります。

 

 

② 初回面談の“会話のテンポ”をチェック

最初の相談で、建築家がどのように話を聞き、どのように返してくれるかも重要なポイントです。

・質問にしっかりと答えてくれるか
・一方通行ではなく、会話のキャッチボールができているか
・自分の希望に“共感”してくれる感覚があるか

初回面談の段階で「違和感」を抱いた場合、その直感はかなりの確率で的中します。
家づくりは半年~1年以上にわたる長い付き合いになるため、「人として信頼できるか」は無視できません。

 

 

③ 設計思想と“暮らしのビジョン”の一致

建築家は、独自の「住宅観」を持っています。
「光と影をどう扱うか」「余白をどこまで許容するか」「無駄と感じる空間をどう捉えるか」など、見えない哲学が根底にあります。
この設計思想と、自分たちの価値観が一致していると驚くほどスムーズに設計が進み、他では決して実現できないほどの素晴らしい住まいが実現できます。

 

 

例えば──
・静けさを大事にしたい人が「静謐」という設計思想に共感する
・開放感を大事にしたい人が「美しい窓のふるまい」に惹かれる
このような価値観の一致を大切にしましょう。

逆に、家づくりの価値観がズレていると、後々に“設計の方向性の違い”が顕在化し、ストレスの原因になってしまいます。

 

 

④ コスト管理への姿勢

予算は、家づくりにおける現実的な制限です。
その建築家が、コストに対してどの程度の意識を持っているか、またはその「説明能力」があるかを見極めましょう。

・予算内でのプランニングが得意か
・高コストな仕様を薦めるだけでなく、代替案の引き出しを持っているか
・金額に関して、はっきりと透明性ある説明をしてくれるか

このようなことを見極めることが大切です。「費用感のズレ」は、トラブルの種になりがちです。だからこそ、打ち合わせの段階で、費用に対する姿勢を評価すべきだといえます。

 

 

⑤ レスポンスと対応スピード

家づくりには、多くのやりとりが発生します。

・メールへの返信スピード
・提案資料の提出タイミング
・打ち合わせ後のフォロー

これらの対応に時間がかかる設計事務所やレスポンスの悪い建築家は不誠実で、全体のスケジュールに影響を及ぼす可能性があります。本来であれば、設計士は、プロジェクトを先導する立場です。
「急かさなくても動いてくれるか?」「自然に、ストレスなく導いてくれるか?」は重要なポイントだと言えるでしょう。

 

 

 

 

ここまで、建築家・設計事務所との相性の見極め方・重要性を解説しました。
では、このようなことを見落としたり、軽視すると、どのようなトラブルが起こり得るのか?
ここからは、執筆者が実務で実際に見聞きした「よくある失敗例」を紹介します。

 

 

失敗例①:施工事例を深く見ずに依頼

最もよくある失敗例が、表面的なデザインだけで選んだ結果、「内装の素材感が自分たちの理想とかけ離れていた」「収納がまったく足りなかった」など、完成後に後悔が残るパターンです。デザイン性に特化しすぎる建築家、住み心地や機能性をおろそかにする設計事務所に依頼すると起こり得る失敗例です。

 

 

失敗例②:初回面談の違和感を放置

「この人、少し会話が噛み合わないな…」と感じつつ契約。その後の打ち合わせでも噛み合わず、ストレスを抱えたまま家づくりを進めることになるパターンです。設計事務所・建築家には、全面的にプロジェクトを託すことになり、設計力やデザイン性だけでなく、ヒアリング・説明力・統合力が求められます。この判断を見誤ると、半年~長期間ストレスが溜まるだけでなく、現場にも影響が出てしまうかもしれません。なぜなら、現場監理もコミュニケーション能力が問われるからです。初回面談の違和感は見過ごしてはならないポイントです。

 

 

失敗例③:予算のすり合わせが曖昧

「最初に出されたプランが予算の1.5倍だった」「都度変更するたびに追加料金が発生した」など、金銭的なトラブルに発展するパターンです。これは、予算を重要視しない設計事務所に依頼すると起きるトラブルです。予算も大切にしたい方は、建築家のコスト管理に対する姿勢も見極めましょう。

 

 

失敗例④:設計思想のズレ

「もっと明るい空間が良かったのに、建築家は“影の美”にこだわっていた」「生活動線よりも造形を優先された」など、考え方のズレからくるミスマッチで、後悔するパターンです。その建築家の実例から設計思想を読み解くとともに、その建築家のコミュニケーション能力や依頼主の価値観を尊重するかどうかも判断基準として取り入れることで、対策することができます。

 

 

 

さて、ここからは、設計事務所・建築家選びに失敗しないための依頼のコツをご紹介します。
建築家に依頼する際には、以下の3つを徹底することで失敗リスクを大幅に減らすことができます。

 

① 要望を言語化する

誠実な建築家であれば、基本的に相手から要望を引き出すヒアリングを心掛けていることでしょう。
しかしながら、施主側もしっかりと伝える意識を持つと意思疎通が円滑に進みます。
「なんとなくこうしたい」では、どうしても伝わらないこともあります。

以下のような形で、要望を“具体的に言語化”して共有しましょう。
・部屋の広さ、収納の量
・好きな雰囲気(北欧風、和モダンなど)
・朝の支度や夜の過ごし方など、生活動線のイメージ
・予算の上限と下限、絶対に譲れない条件

 

 

② 設計プロセスを可視化する

「設計→実施設計→見積→着工」という流れのスケジュール表を建築家・設計事務所に提示してもらいましょう。事前にスケジュール表で共有すれば、各段階で何を確認するべきか、どこで変更がきくのかを押さえておくことができます。備えることで、順番にじっくりと検討することができ、結果として満足度の高い住まいが完成することにつながります。

 

 

③複数の建築家を比較する

1人だけで即決するのではなく、2~3人と実際に面談してみましょう。複数の建築家・設計事務所と対話することで、自分たちの考えも整理されます。比較することで、違いや相性をより明確に感じられるでしょう。

 

 

 

ここからは、建築家・設計事務所との相性について、よくある相談とプロの見解をご紹介します。

Q. 相性が合わなかったら途中で変更できますか?

A. 契約前であれば変更可能です。契約後の変更は費用やタイムロスが発生する可能性があるため、慎重に判断してください。

 

 

Q. デザインは気に入っているが、人柄が合わない気がする場合は?

A. その違和感を放置しないでください。どれほどデザインが好みでも、信頼関係が築けない相手とは長期的な家づくりは困難です。

 

 

Q. どこまで要望を伝えていいの?

A. すべて伝えて構いません。むしろ“伝えすぎるくらい”がちょうどいいです。建築家はそこから優先順位を整理し、設計に落とし込むのが仕事です。

 

 

 

家づくりとは、図面を描くだけの作業ではありません。
それは、設計者と依頼者が暮らしの本質を共に見つめ、言葉にし、かたちにする共同作業です。

その出発点にあるのが「相性」という感覚。
どれほど設計力が高くても、どれだけ実績が豊富でも、人としての相性が合わなければ、家づくりは必ずどこかで歪みます。

 

 

相性とは、単なる“好み”ではありません。
価値観、感覚のテンポ、言葉のすれ違いのなさ、そして何より──「この人と一緒に、暮らしをつくっていきたい」と思える信頼。

設計思想や美意識に共鳴できるか。
小さなことも安心して相談できるか。
違和感があるとき、それを正直に伝えられる空気があるか。

それらすべてが、相性という目に見えない基盤をつくります。

 

 

私たち設計事務所は、「図面よりも前に、対話から始める設計」を大切にしています。
目の前の方の暮らしを想像し、耳を傾け、その声を“かたち”にする。
その過程を共に歩める関係性こそ、良い家づくりの条件だと考えています。

 

 

家は、完成して終わりではありません。
そこで長く、豊かに、暮らしていくもの。
だからこそ、最初に選ぶ“建築家との相性”こそが、住まいの未来を決定づけるのです。

これから家づくりをご検討される皆様へ。
まずは、「誰とつくるか」を大切にしてください。
空間も図面も、その一歩から始まります。

この記事を執筆した建築家が手がけた住宅実例はこちら▼

 

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