「注文住宅って、まず何から始めればいいの?」
──家づくりを考え始めたばかりの方にとって、最も多い不安のひとつが「流れがわからない」ということです。
この記事では、家づくりの全体像を時系列に沿って、解説します。住宅会社や設計事務所をまだ決めていない方に向けて、専門用語はできるだけ避けながら、わかりやすい構成としました。
一級建築士として、注文住宅を幅広く手がけてきた立場から、プロならではの注意点や現場での実際の様子も交えてご紹介します。ぜひ最後までご覧いただき、家づくりの参考にしてください。

家づくりの全体像とは?
まずは、家づくりの全体像について解説します。
家づくりは、土地探し・設計・工事・引き渡しという流れだけではありません。最初に「家を建てたい」と思った瞬間から、すでに「家づくり」は始まっています。
特に注文住宅の場合は、施主の希望をゼロから形にしていくプロセスになるため、工程・フェーズがいくつあり、意思決定の場面も頻繁に訪れることでしょう。資金計画、土地選定、設計、施工、検査、そして引き渡しまで、約1年ほどの時間をかけて進んでいくのが一般的です。

また、家づくりの進行は直線的ではなく「土地が決まらない」「設計をやり直したい」など、前後することもあります。だからこそ、全体像を理解することで次に何が来るのかを把握して俯瞰的に検討することが、家づくり成功への第一歩だと考えると良いでしょう。

注文住宅の時系列ステップ【全8工程】
つづいて、注文住宅の全8ステップを時系列を表でまとめました。まずは、ざっくりと目を通して、整理しましょう。次の章で、各工程のやること・注意点もご紹介します。
ステップ | 内容 | 期間の目安 |
---|---|---|
1 | 情報収集・見学 | 1〜2ヶ月 |
2 | 資金計画・住宅ローン相談 | 1ヶ月程度 |
3 | 土地探し(または土地確定) | 1〜3ヶ月 |
4 | 設計依頼・プラン打合せ | 2〜4ヶ月 |
5 | 工事請負契約・詳細設計 | 1ヶ月 |
6 | 着工〜上棟 | 約1ヶ月 |
7 | 仕上げ工事〜完了検査 | 約2〜3ヶ月 |
8 | 引き渡し・入居 | 完了後 |
合計 | 8か月以上・平均12か月程度 |
それぞれのステップにおいて必要な準備や注意点が異なります。あらかじめ流れを把握しておくことで、安心して家づくりを進めていきましょう。

各ステップでやること・注意点
ここまでで、注文住宅の全工程を整理して頂きました。
次に、各ステップでやること・注意点を解説します。次の通りです。
ステップ1:情報収集・見学
まず、第1ステップは「情報収集・見学」です。この工程では、実際の施工事例をホームページやSNSで見たり、実例を見学して、「理想の暮らしとは何か」を明確にしていくフェーズになります。
ここでの注意点は、工務店・ハウスメーカーのモデルハウス・あるいはモデルハウス的な住まいは、あくまでモデルハウスだということです。実際のご自身の予算で実現可能な住まいと同じレベルの住まいでなければ参考にはならない部分の方が多いと考えた方が無難でしょう。また、デザインだけでなくブログなどから、建築知識や建築会社の実態を確認することが大切です。

ステップ2:資金計画・ローン相談
第2ステップは、「資金計画・ローン相談」です。この工程は、ご家族のライフプランや住まい方を踏まえながら、総予算の全体像を描いていくフェーズになります。
建築費だけでなく、設計料・申請費・外構工事・家具・家電といった諸費用も含めて、「総額」で俯瞰的に予算を考えることが大切です。
特に注意したいのは、「借りられる金額」ではなく、無理なく返済できる金額を基準にすること。長期にわたる暮らしを見据えて、身の丈に合った計画を立てましょう。

ステップ3:土地探し
第3ステップは、「土地探し」です。この段階では、土地のポテンシャルを専門家・設計士の視点で見極めることが重要になります。一見マイナスに思われがちな変形地や高低差のある土地も、設計次第で個性や魅力に変えることが可能です。立地や広さだけで判断せず、その土地ならではのポテンシャルにも目を向けましょう。
注意点としては、不動産業者の提案だけに頼るのではなく、建築士にも現地を確認してもらうこと。建築の専門家の視点から見ることで、後悔のない土地選びにつながります。

ステップ4:設計打合せ
第4ステップは、「設計打合せ」です。ここでは、ご要望の整理から始まり、ゾーニング(空間の構成)や建物の配置計画、素材の選定などを進めていきます。住まいへの想いを形にしていく、最も創造的で大切な工程のひとつです。
注意点としては、現在の暮らし方だけでなく、将来の変化、家族構成の変化や働き方の多様化なども視野に入れておくこと。長く快適に暮らせる住まいにするためには、先を見据えた設計が欠かせません。

ステップ5:契約・詳細設計
第5ステップは、「契約・詳細設計」です。基本設計の内容にご納得いただいた後は、構造設計をはじめ、設備仕様や照明・電気配線、キッチンなどの細部まで具体的に決めていきます。ここからは、住まいの完成形に向けて、設計を一つひとつ積み上げていく段階となります。
注意点としては、このフェーズ以降は後戻りが難しくなるため、3Dパース、実物サンプルなどを使って丁寧に確認しておくことが大切です。図面上では見えにくい部分も、立体的に確認することで納得感が高まります。

ステップ6:着工〜上棟
第6ステップは、「着工〜上棟」です。基礎工事から建方(たてかた)、屋根工事へと進み、建物の骨組み・構造躯体が完成するまでの重要な工程となります。図面で描かれていた家が、いよいよかたちになっていく実感を得られる時期でもあります。
注意点としては、天候不順や資材調達の遅れなど、予期せぬイレギュラーが発生する可能性があるため、スケジュールにはある程度の余裕を持っておくことが大切です。柔軟に対応できる心づもりが、家づくりをスムーズに進めると考えましょう。

ステップ7:仕上げ工事〜検査
第7ステップでは、内装や設備の取り付け、塗装、外構など、住まいの印象を決める仕上げ工程が行われます。
並行して、建築基準法に基づく完了検査や社内検査など、品質や安全性を確認するチェックも実施されます。
細部にわたる確認が求められる大切なフェーズですので、気になる点があればこの段階で必ず確認しておくことがポイントです。

ステップ8:引き渡し・入居
すべての工事と検査が完了すると、いよいよ建物の引き渡しとご入居となります。
鍵や各種保証書、取扱説明書の受け取りとともに、新しい暮らしがスタートします。
また、入居後も定期点検やアフターサポートが用意されていることが多いため、安心して生活を始めるためにも、内容をしっかり確認しておくことが大切です。引越し・ライフライン切替・登記関係は事前に段取りをしておきましょう。

Q&A|よくある質問
ここからは、注文住宅の流れについて、よくある質問とその回答をご紹介します。
Q1. 注文住宅は完成までどのくらいかかりますか?
土地探しからスタートする場合、1年以上かかるケースが一般的です。
一方、すでに土地が決まっている場合は、設計と施工をあわせて約8ヶ月以上、平均12ヶ月ほどが目安となります。
こだわりが多い住まいや、設計打ち合わせにじっくり時間をかける場合は、トータルで1年以上かかることも少なくありません。
良心的な建築会社であれば、スケジュールにある程度の融通がきくことも多く、ご家族の事情に合わせてスピードを調整することが可能です。無理のないペースで進めることが、納得のいく住まいづくりにつながります。

Q2. 土地がなくても相談できますか?
はい、むしろ土地を購入される前に設計者へご相談いただくのが理想的です。
設計士が土地探しの段階から関わることで、不動産としては評価が分かれるような土地でも、建築的な視点から魅力へと転換できる可能性があります。
たとえば、変形地や高低差のある土地も、設計次第でその個性を活かした住まいに仕上げることが可能です。また、日照や通風に関して一見ネガティブに思える条件でも、建築の工夫によって十分に解決できるケースが多くあります。土地を建築の観点から見極めることは、より豊かで唯一無二の住まいを実現する第一歩です。

Q3. 頭金はいくら必要?フルローンは無理?
銀行によって異なりますが、最近は自己資金10%以下でもローンを組めるケースが増えており、フルローンも可能です。ただし、登記・保険・引越しなどの諸費用は現金が必要で、100〜200万円程度の準備は推奨されます。
また、自己資金が少ないと金利条件が不利になる場合もあります。安心して計画を進めるためにも、ある程度の現金は確保しておくのが現実的です。

Q4. 設計事務所・ハウスメーカー・工務店、どれが自分に向いている?
ハウスメーカーや工務店は、最初に施工費が提示されるため安心感がありますが、詳細を精査すれば、内容が伴っておらず、実はコストパフォーマンスが悪いケースも少なくありません。見積が明確に見えても、設計の自由度や空間の質が犠牲になっていることもあるのです。
一方で、建築家との家づくりは、基本的にコストパフォーマンスに優れており、対話を重ねながら本当に必要なものを取捨選択していけるのが特徴です。納得感と費用のバランスを両立できるのは、やはり設計事務所です。
注文住宅において最も重要なのは、「何を実現するのか」という視点ではないでしょうか。本質を大切にするなら、設計事務所という選択は必ず検討すべきです。

Q5. 打ち合わせってどのくらいの頻度?何回くらい?
ハウスメーカーや工務店の場合、打ち合わせは全体で3〜5回程度にとどまることが多く、自由設計なら、この回数では正直足りません。そのため、あらかじめ決まったプランから選ぶ形式となり、自由度や密度には限界があります。
効率は良くても、こだわりたい方にとっては「本当に実現したかったこと」が置き去りになると考えた方が無難です。
一方で設計事務所は、7〜10回以上の打ち合わせを通じて、対話を重ねながら丁寧に計画を深めていきます。
図面やプレゼンの質、打ち合わせの密度や柔軟性も、比較にならないほど高いのが特徴です。
家づくりで本当に大切なのは、「打ち合わせの回数」だけでなく「どれだけ深く本音で話せるか」
納得感を重視したい方にとって、設計事務所という選択は最も理にかなった方法と言えるでしょう。

よくある失敗例とその対策
ここからは、家づくりの流れでよくある失敗とその対策をご紹介します。
よくある失敗1:最初は好印象だったのに、進めるほどに違和感が募った
広告やモデルハウスの印象が良く、最初の対応も丁寧だったため、安心して話を進めていた。ところが打ち合わせを重ねる中で、担当者に建築や設計に関する専門的な知識が十分でないことに気づき始めた。こちらの要望に対して柔軟な提案が返ってこず、どこか型にはまった対応ばかり。最終的には「思い描いていた家とは違うもの」になってしまった、という声は少なくありません。
その点、設計事務所では、設計のプロが最初から最後まで一貫して担当するため、専門的な視点から柔軟に対応でき、対話の中で本質的な住まいを一緒にかたちにしていくことができます。

よくある失敗2:担当者が変わり、話が通じないまま家が完成
フェーズごとに担当者が入れ替わる会社に依頼してしまい、毎回同じ説明を繰り返すことに疲れてしまった。
「前に話したはずなのに伝わっていない」「誰も責任を持って判断してくれない」──そんな状況で、打ち合わせが空回りし、気づけばそのまま家が完成していた……というケースも少なくありません。
家づくりでは、設計から完成まで一貫して伴走してくれるパートナーの存在が非常に重要です。設計者本人が責任を持って対話を重ねる設計事務所なら、ブレのない意思疎通と納得感のあるプロセスが確保できます。

よくある失敗3:間取りを急ぎすぎて後悔
非常に多い失敗例が、間取りや計画を急ぎ過ぎて、後悔したというケースです。
「早く建てたい」という気持ちが先行し、なんとなく良さそうなプランで間取りを決めてしまった。住み始めてから、「もっと収納が欲しかった」「リビングが思ったより暗い」など、暮らしの中で不満が積み重なっていく──というパターンですね。
家づくりは、焦って決めるほど後悔が残りやすく、じっくりと考えるほど満足度が高くなるプロジェクトです。
まずは、理想の暮らしをゆっくりと言語化するところからスタートし、建築家との対話を通じて、少しずつ積み上げていくプロセスこそが、後悔のない間取りづくりの近道です。

よくある失敗4:コストばかり優先して後悔
「とにかく安く建てたい」とコストを最優先にしてしまい、必要な性能や仕上げ、ゆとりのある空間を削ってしまった。結果として、住み心地やデザインに不満が残り、「こんなはずじゃなかった」と後悔するケースは少なくありません。
予算には限りがありますが、単に金額を抑えるのではなく「何にどうお金を使うか」を見極めることが大切です。建築家と一緒に、価値あるコストのかけ方を検討することで、限られた予算でも満足度の高い住まいをつくることができます。

まとめ:流れを知ることは、暮らしと向き合うこと
ここまで「注文住宅の流れ」について解説しました。いかがでしたか?
注文住宅の「流れ」を知るということは、ただスケジュールを把握するためだけではありません。
自分たちの「理想の暮らし」を問い直すプロセスでもあります。
私たち建築家は、その思いを図面や工程だけでなく、空間・素材・光・風の流れに落とし込みます。
そうして生まれるのは、単なる建物ではなく「これからの暮らしそのもの」です。

もし今、家づくりに迷いがあるなら──
まずは「何を建てるか」ではなく、「誰とつくるか」から考えてみてください。
それが、本当の意味であなたらしい住まいを実現する第一歩になるはずです。

「流れ」を通し、対話を重ねながら、一棟一棟を“人生の流れに寄り添う空間”としてかたちにしていく。
そんな家づくりを実現できるのは、どんな建築会社でしょうか。
あなたの価値観に真正面から向き合い、暮らしを共に考え、寄り添ってくれるパートナーは、どこにいるのか。
依頼先を選ぶとき、価格や知名度だけでなく
「誰と、どんな対話を重ねられるか」という視点を持ってみてください。
その選択の先にこそ、きっと、あなたにとって本当の理想の暮らしが待っているはずです。
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