【後悔しないために】長期優良住宅は本当に損しない?|補助金・資産価値・寿命のウソと真実【注文住宅の落とし穴】

はじめに|長期優良住宅は本当に損しない?

「長期優良住宅って、結局取った方がいいの?」
「補助金もらえるなら得なのでは?」

そう考えている方は要注意です。

長期優良住宅は、“良い家”の条件を保証するものではありません。
むしろ制度の制約によって「損した」「後悔した」という声も少なくないと知っていましたか?

そこでこの記事では、建築家の視点から長期優良住宅のメリットと“隠れたデメリット”を徹底解説します。
注文住宅を建てるなら、“制度に振り回されずに理想の住まいを叶える”ための判断軸を持っておきましょう。

 

▼ZEHについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
【 ZEHの落とし穴 】「補助金が出る=得」は本当か?|一級建築士が語る“損しない家づくり”-注文住宅の真実

 

 

Table of Contents

 

まずは、「長期優良住宅」とは何か?解説します。概要を正しく理解することが重要です。
この制度は“良い家”を国が認定するように見えますが、実際には「長持ちする性能や管理方法を、一定の基準で評価する」ための行政制度。

制度が誕生した背景や、実際の認定基準を知ることで、家づくりにどう関わるかが見えてきます。

 

 

法律で定められた「認定制度」だが、設計の質とは無関係

「長期優良住宅」とは、2009年に施行された「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づく認定制度です。

▼主な目的は以下の通り。
・住宅の長寿命化
・維持管理のしやすさ
・ライフスタイルの変化への対応
・環境への配慮(省エネなど)

つまり、スクラップアンドビルド型の住宅から“ストック型”への転換を促す政策的な枠組みだと言われています。
しかし、この認定が意味するのはあくまで「一定の性能や管理計画を満たした」ということ。
設計の良し悪しや、住まいとしての快適性・美しさを保証するものではない点に注意しましょう。

 

 

認定基準(耐震・劣化・可変性・バリアフリー・維持管理など)

長期優良住宅には、以下のような技術的・制度的な認定基準があります。

分類内容
耐震性耐震等級2以上(地震に強い構造)
劣化対策劣化対策等級3(構造材の耐久性)
維持管理性配管の点検・更新のしやすさ
可変性間取り変更への対応力
バリアフリー性将来の高齢化を見据えた設計
省エネ性断熱性能や設備効率の一定基準を満たすこと
住戸面積一定以上の広さが必要(例:戸建で75㎡以上)
維持保全計画長期にわたる点検・修繕計画を提出する必要あり

制度としてはしっかりしていますが、あくまで「仕様と計画の評価」
「この認定を受けていない=悪い家」という意味ではまったくありません。

長期優良住宅は、建築士にとっても広く知られた制度ですが、“設計の良さ”ではなく、“制度への適合”しているかどうかを示すものです。
ここを正しく理解せずに「長期優良=いい家」と信じてしまうと、誤解や後悔につながりかねませんので注意しましょう。

 

▼省エネ住宅については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【省エネ住宅の真実】断熱・気密・換気・設備・設計|“快適とエコ”を両立する家づくり・注文住宅-5つの核心

 

 

 

 

長期優良住宅は、「補助金がもらえる」「税金が安くなる」「資産価値が上がる」など、さまざまな“メリット”が語られます。
しかし、その実態はどうなのか?ここからは一般的に言われている長期優良住宅の利点を整理します。

制度としてのポジティブな面を正しく理解しておきましょう。

 

 

補助金がもらえる(地域によっては最大100〜150万円)

長期優良住宅の最大の魅力として語られるのは「補助金」です。
国の制度としては、「地域型住宅グリーン化事業」「こどもエコすまい支援事業(終了)」などが該当し、長期優良住宅を取得していることが条件になっているケースが多く見られます。

また、自治体独自の補助制度も存在し、条件が合えば100万円〜150万円の補助が受けられることも。

ただし注意すべきなのは、補助金の多くは“先にお金をかけた人”だけが受け取れる仕組みであるということ。
仕様や設計への対応コストが補助金額を上回り、実質的には赤字になることも多い、と認識しておきましょう。

 

 

住宅ローン減税・固定資産税の優遇

他にも長期優良住宅に認定されると、次のような税制面での優遇措置を受けられます。

・住宅ローン控除の対象借入限度額が引き上げられる
・控除期間が13年間と長くなる
・固定資産税の減額期間が1年延長される

これらは、住宅取得時の家計を助ける要素として魅力的に映るかもしれません。
ただし、「絶対に得」とは言い切れないのが実際のところ。借入金額や年収・控除上限によっては優遇が活かしきれないケースもあるため、事前に税理士やFPに試算してもらうことが重要です。

 

 

性能表示(等級)がつくことで安心感がある

長期優良住宅では、以下のような性能等級が明確に表示されます。

・耐震等級(地震への強さ)
・劣化対策等級(長寿命)
・維持管理対策等級(メンテナンス性)
・省エネ等級(断熱性能)

これらが可視化されることで、「数字で説明できる安心感」が得られるというのは確かにメリットのように見えます。
特に、家づくりに詳しくない人にとっては、“安心材料”として一定の効果があるように感じるのは自然なことでしょう。

 

 

まとめ|長期優良住宅には制度上のメリットはあるが、本来の目的ではない。

長期優良住宅には確かに制度上のメリットがあります。
しかし、それらの“数字上の得”を追い求めすぎると、本来の目的である「豊かに暮らすための家」を見失ってしまうことも。

次の章からは、こうした制度のメリットが「本当に“得”なのか?補助金やコストとのバランスは?」といった視点で長期優良住宅を検証していきます。

※営業現場では「長期優良住宅は資産価値が落ちにくい」と説明されることがありますが、実際の売却価格に制度が与える影響は限定的です。資産価値についても、後ほど詳しく解説します。

 

▼こちら↓の記事もおすすめです。
“暮らしやすい家”のつくり方|建築家が語る-性能では測れない“注文住宅の本質”と“設計の考え方”

  

 

 

ここまで見ると、長期優良住宅には「補助金」「税優遇」「安心」など多くの利点があるように感じるかもしれません。
しかし注意すべきなのは、一見“得”にみえることが、前提として、多くのコスト・制限・手間に支えられているという点。

つまり、「もらえる金額」だけに目を向けると、かえって損をしてしまうケースもあるのです。

 

 

補助金のための仕様アップコストは70〜150万円が相場

長期優良住宅の認定を受けるためには、構造・断熱・劣化対策・配管ルート・書類作成など、通常よりも高い設計・施工基準に対応する必要があります。

その結果、以下のような追加コストが発生することに・・・

内容追加費用目安
耐震等級2以上の構造計算・補強設計20〜50万円
劣化対策等級対応(基礎形状・土台材・換気部材など)10〜30万円
維持管理性への対応(点検口・床下配管・スリーブ経路変更)10〜20万円
断熱・省エネ基準適合のための仕様変更(サッシ・断熱材のグレードアップ等)20〜50万円
書類作成・申請手数料・審査対応10〜30万円

合計:70万円〜150万円超が現場での実感値です。
(仕様のグレードや設計者の手間によっては200万円を超える場合もあり得ます)

そして、補助金額は100万円だと思っていても、実際には80万円までが現実的なラインであることが多い。つまり、赤字になることの方が多いです。また、上記のコストに加えて、設計の自由度を制限される可能性があることも見逃せません。

 

 

建築会社の「長期優良住宅にしても、そんなにコスト変わりませんよ」は要注意

多くの工務店やハウスメーカーでは、長期優良住宅について
「認定を取っても+10〜30万円程度ですよ」と、軽く済むようなトーンで説明されることがあります。

たしかに、見積書上ではその程度の追加金額に見えるかもしれません。
しかし実際には、それでは済まないケースがほとんど。
というのも、見積の提示金額など“操作しようと思えばいくらでも操作できてしまう”のが住宅業界の現実だからです。(※だからこそ、構造的不透明性を解体する建築家がいます。後ほど説明します。)

 

 


▼建築会社・施工会社は、見積の提示金額をこうやって操作できる。
・本来かかっている仕様対応のコストを、他の項目に転嫁
・建築費全体は据え置きでも、どこか別の仕様を無断で“簡略化”
・明細をあえて曖昧にすることで、施主に判断させない構造
・断熱材やサッシのグレードを下げてコストを吸収
・外構や建具、床下・壁内の仕様を“気づかれない範囲で”簡素化
・見積内に不明瞭な“調整項目”を設定して制度対応費を含ませる

▶結果的に「補助金で得したはずが、実は“どこかが削られていた”」という状況に陥ることも。

 

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「高断熱=快適」は真実か?|断熱等級4でも“心地よい家”をつくる注文住宅の賢い戦略 ─ オーバースペックは大きな損?

 

 

「ギリギリ等級クリア」の“ハリボテ仕様”が多発

制度を取ること自体は悪くありません。
問題は、「そのために何を犠牲にしているのか」が、施主にとって見えづらい構造になっている可能性があるということです。

現場レベルでは、「等級だけ取れればOK」という思想で建てられた長期優良住宅も少なくありません。

 

 

▼例えば、、、

・「長期優良」として認定されたが、実際は断熱体感が悪い
・耐震等級は確保していても、構造バランスが不自然で間取りが悪化
・内装や水まわりが“見た目”だけ良く、実質はローコスト仕様 など…
・劣化対策のために“分厚い基礎”を入れたが、無駄にコストアップ
・断熱等級はクリアしたが、通風や日射取得の工夫がゼロ

こうした家は、数字上は“優良”でも、体感としてはむしろ住みにくい住宅になりがちです。
「制度に適合するために、暮らしやすさを犠牲にしていないか?」これは設計者として非常に重視すべきポイント。

「制度対応」という言葉の裏に、“設計の本質”が抜け落ちてしまっている住宅が多く存在しているのが現実です。

 

 

だからこそ、長期優良住宅の採用には、構造的不透明性を見破るために建築家が必要。

・断熱材・基礎・構造の仕様バランス
・プランと性能評価の不整合
・施工会社の見積書の不透明性を暴く

このような「どこが制度のために犠牲になっているか」「見た目以上に危ない部分はないか」を設計や見積に精通した建築家であれば、見抜くことができます。

制度を活かす設計も、制度に流されない設計も、本来は「暮らしの質」に照準を合わせて判断されるべきなのです。

 

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メンテナンス義務と維持コストの盲点

長期優良住宅の落とし穴・盲点はまだあります。つづいては、メンテナンス義務と維持コストの盲点について。

長期優良住宅では、認定時に「維持保全計画書」の提出が求められ、その中には、将来的な点検や修繕を想定した具体的な内容が含まれています。

▼たとえば・・・
・配管や外装の定期点検(10年ごとなど)
・劣化対策部材の交換・更新
・点検・補修内容の記録と保存

 

 

これらは必ずしも法的に強制されるものではありません。
しかし制度の趣旨としては、「定期的な維持管理をしてこそ“長寿命”になる」という前提が組み込まれています。

つまり、初期コストだけでなく、将来にわたる“点検・維持”のランニングコストと手間も、制度と一緒に背負うことになるのです。

 

 

「補助金に釣られて設計を妥協する」が最悪のパターン

最も避けたいのは、「補助金がもらえるなら…」という理由で、本来実現したかった設計や暮らしを妥協してしまうケースです。

・吹き抜けを諦めた
・天井高を下げた
・外観の自由度が減った
・素材の選択肢が狭まった

これらはすべて、設計の自由度を制限する副作用として、実際によくある後悔の声です。
制度に合わせることが目的になってしまうと、本来「自分たちらしい暮らし」を叶えるための注文住宅という価値が薄れてしまいます。

 

 

本当に“得”してるのは誰か?

前述したように、補助金を得て喜んだつもりが、

・初期費用アップ
・設計の自由度ダウン
・将来的な維持管理の義務化

気づけば、「見えないコストの山」を抱えていることも。

制度対応の工事で総工費の単価が上がる費用構造は、誰にも否定できません。

なぜ「長期優良住宅はお得」と叫ばれるのか?
本当は誰が得をしている制度なのか?

そろそろ、ユーザー側が立ち止まって考えるタイミングではないでしょうか?

 

▼これから家づくりをはじめる方には、こちら↓の記事もおすすめです。
【完全ガイド】注文住宅は何から始める?|後悔しないための最初の一歩と正しい順番・注意点まとめ

 

 

 

「長期優良住宅は資産価値が落ちにくい」「長く住める家になる」
そうした言葉を、営業資料や住宅比較サイトなどで見かけることは少なくありません。

もちろん、一定の性能基準を満たしているという意味では、価値の一部を担保する要素になるのは確か。
しかし、実は、“資産価値”や“長寿命”といった評価は、制度だけで決まるものではないのです。

ここからは、制度の限界とあわせて、本当の価値を左右する要素とは何かを整理していきます。

 

 

資産価値は「認定の有無」より「立地・状態・デザイン性」で決まる

▼実際の不動産市場では、住宅の価値を決める要因として次のような項目が重視されます。

・駅距離や周辺環境などの立地条件
・築年数とメンテナンス状態
・外観・間取り・素材などのデザイン性や魅力

つまり、たとえ長期優良住宅であっても、築20年で外観が劣化し、定期的なメンテナンスがされていなければ、評価は下がります。
一方で、制度認定がなくても、丁寧に住み継がれ、デザイン性が維持されている住まいは高く評価されることも少なくありません。

実際、“ヴィンテージマンション”という言葉が存在するように、暮らし方と空間の魅力こそが、価値を保つ本質的な要素といえるでしょう。

制度よりも、「どう暮らし、どう維持するか」という積み重ねの方が、資産価値に与える影響ははるかに大きいのです。

 

 

長寿命は「制度に適合する」以上に「設計と施工の中身」が重要

長期優良住宅では、劣化対策や維持管理性の確保といった“長寿命化”に関する基準が設定されています。
たとえば、雨水が建物に侵入しにくい納まり(雨仕舞い)や、床下換気、シロアリ対策なども一定レベルで考慮されている。

しかし、制度が示すのはあくまで“基準レベル”の対応であり、それをどう実際の敷地条件・構造計画・素材選定に落とし込むかは、設計者の知識と経験に委ねられているのです。

 

 

実際に長寿命の住まいをつくるには、次のような項目は、制度の枠を超えた、現場レベルの判断と工夫が不可欠です。

・雨仕舞い(気候・風向・勾配・ディテールを含めた納まり設計)
・通気構造・換気計画
(屋根通気・床下換気のバランス設計)
・シロアリ・湿気対策を前提とした基礎の構成やレベル設定
・地盤特性に応じた基礎形式・杭・補強の最適化
・屋根・外壁の素材選定と“地域ごとの耐候性評価”

これらは、書類上の認定項目のチェックで十分、ではなく、現場レベルの個別判断と工夫が必要になります。
暮らしの中で本当に効果を発揮するのはこうした“設計の中身”であり、制度の有無だけでは測れないのです。

 

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もう一つ見落とされがちなのが、「長く住める」と「ずっと住みたくなる」は別問題であるということです。

たとえ性能や耐久性が高くても、以下のような点が満たされていなければ、早々に住み替えを検討することもあります

・暗い/寒い/風通しが悪い
・間取りが使いづらい
・デザインに飽きてしまった
・モノが片付かない
・家族の変化に対応しづらい

つまり、「構造が長く持つ家」をつくることと、「住み続けたいと思える家」をつくることは、まったく別次元の設計課題です。注文住宅では、制度に合わせることも大切ですが、“心地よさ”や“愛着の続く設計”も優先すべきではないか?これが、設計者としての立場の意見です。

 

 

まとめ|長期優良住宅=最上級の「資産価値」「長寿命」ではない。

長期優良住宅は、一定の基準をクリアすることで「資産価値」や「長寿命」の土台を支える制度ではあります。
しかしその“中身”が実際の暮らしや市場評価に直結するかどうかは別問題です。

制度は補助的な道具にすぎません。
それ以上に大切なのは、「この家にずっと住みたい」と思える設計と、「長く住み継がれるよう丁寧に暮らす」こと。
価値を生み出すのは制度ではなく、設計と暮らしそのものです。

 

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【日本の注文住宅】“気候と風土”パッシブデザイン|断熱・通風・日射・気密 ─自然を活かす家づくり

 

 

 

「長期優良住宅を取るかどうか」は、良い悪いで判断するものではなく、“合うか合わないか”で考えるべき選択肢
人によっては大きなメリットになりますが、目的や価値観によってはむしろデメリットの方が大きくなることも。

ここからは、制度の取得をおすすめできるケース・避けた方がよいケースを、一級建築士の視点から整理します。

 

 

「自由な設計」や「非日常的な空間」を望む人には不向き

長期優良住宅の認定を受けるには、間取り・構造・天井高などに一定の制約がかかる傾向があります。

▼たとえば・・・
・吹き抜けや大空間をつくりにくくなる(耐震等級確保のため)
・天井の高さや勾配が制限される(断熱や構造上の要因)
・中庭や土間といった“ユニークなプラン”が通りにくい

 

 

こうした制約は、「制度ありき」で設計する場合には避けるのは難しいのが実際のところでしょう。つまり、「世界に一つだけの、自分たちらしい家を建てたい」と思っている人にとっては、設計の自由と長期優良住宅の両立は高いハードルになってしまうことが多いと考えた方が賢明です。

 

 

「補助金が出るなら、とりあえず取る」という考え方は危険

よくあるのが、「補助金が出るなら、とりあえず長期優良にしておきましょう」という安易な判断です。
これは一見合理的に思えますが、実際には以下のようなリスクがあると覚えておきましょう。

・認定のために設計を調整→本来の暮らしやすさが損なわれてしまう可能性も
・補助金を上回る追加コストが発生する
・工期・確認申請に時間がかかり、着工が遅れることも

このように制度取得が“目的”になってしまうと、本来の設計意図や施主の希望が後回しになる可能性も。
補助金を目的に設計の主導権を失うことは、注文住宅の本質を損ねてしまうので注意が必要です。

 

 

「制度をうまく活用する」姿勢がある人には向いている

一方で、制度の意味や仕組みを正しく理解した上で、「何らかの目的を果たす手段として制度を使う」という姿勢であれば、長期優良住宅は有効に働きます。

▼たとえば、以下のような人には適しています。
・自治体の補助金が大きく、全体予算にプラスの影響がある
・将来の維持・管理を見据えて、構造や配管計画を重視したい
・ローン控除や税優遇の条件に制度取得が必要

こうした方にとっては、長期優良住宅は“設計の目的を後押しする制度”として機能します。あくまで、「制度に合わせて設計する」のではなく、「自分たちの暮らしに制度を合わせて使う」この発想が重要です。

 

 

まとめ|長期優良住宅は、すべての人におすすめできる制度ではない。

長期優良住宅は、すべての人におすすめできる制度ではありません。
補助金・税優遇といった表面的なメリットだけでなく、設計・コスト・暮らしへの影響を総合的に判断する必要があります。

大切なのは、制度を“鵜呑みにする”のではなく、“判断材料のひとつ”として冷静に捉えること。
当然ながら、「やめた方がいい人」も、「上手に使うべき人」もいます。

 

▼断熱等級・断熱性能の選び方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【断熱性能】断熱等級の正解は?|G1・G2・G3 ─ “暮らしに合った基準”で判断する注文住宅-最適なバランス設計とは?

 

 

 

長期優良住宅は制度として整備され、多くの家づくりで採用されるようになりました。
しかし、実際に認定を取得した人の中には「こんなはずじゃなかった」「思っていた家と違う」と感じているケースも少なくありません。

ここでは、実務でよく見かける「ありがちな失敗例」や「後悔の声」を、設計者の立場から具体的に紹介します。

 

 

吹き抜けや大空間をあきらめることになった

構造計算の都合で耐震等級2以上を取るために、吹き抜けや大開口が制限されてしまったというケースは非常に多いです。

本当は、
・リビングと階段を一体にしたい
・中庭と一体化したLDKにしたい
・開放感ある勾配天井を採用したい

といった希望があったのに、構造や断熱の仕様を優先することで間取りそのものを変えざるを得なくなることがあります。設計者が工夫すればある程度対応可能ですが、制度との両立には追加費用や設計上の制約が不可避になることを理解しておくべきです。

 

 

想定以上の設計費や確認申請費が発生した

長期優良住宅を取得するには、通常の建築確認申請とは別に追加の申請書類・図面・審査対応が必要です。

結果的に、
・設計事務所の報酬が10〜30万円上乗せされた
・書類のやりとりに時間がかかり、スケジュールがずれた
・行政の審査対応で“設計変更”を余儀なくされた

こうした「制度対応のコストと手間」が、想定外の負担になったという声は少なくありません。

 

 

素材や仕様を一部妥協せざるを得なかった

設計段階ではこだわって選んでいた自然素材や意匠デザインが、

・防火仕様への対応
・劣化対策等級3のための制限
・維持管理性の確保(点検口・配管ルート)

などの理由で、変更・撤回を迫られるケースもあります。

 

 

たとえば・・・
・無垢の床材を諦めて複合フローリングに変更
・土間とテラスの一体空間が“断熱の連続性”の関係で不許可に
・内部の壁構造を優先し、外観の抜け感を削った

このように、見えない部分の制度対応のために、見える部分のデザイン性を妥協することになったという後悔もよく聞きます。

 

 

「資産価値が上がると思ったが、実際は評価されなかった」

不動産売却や相続の際、「長期優良住宅なら高く売れる」と思っていたが、

・査定額に大きな差はなかった
・買い手からの質問すらなかった
・書類を整備していても活かされなかった

という事例も報告されています。
結局のところ、買い手は「今の住み心地」「立地条件」「維持状態」を重視するため、制度の有無は補足情報にすぎないと認識しておくべきです。

 

 

まとめ|長期優良住宅は、得も損もする。

制度に合わせた家づくりは、一見すると安心で得をするように見えても、実際には多くの“設計上の犠牲”や“隠れたコスト”を伴うことがあります。

「あとからこうすればよかった」とならないためには、制度取得によって生じる影響を事前にしっかり把握し、自分たちの優先順位と照らし合わせて判断することが大切です。

 

 

 

ここでは、長期優良住宅を検討している人から実際によく寄せられる質問に対して、建築家の視点からわかりやすくお答えします。
制度を正しく理解することで、「知らなかった」「誤解していた」といった失敗を未然に防ぐことができるので、しっかりと整理していきましょう。

 

 

Q1:補助金だけ取って、制度は途中で外せますか?

A:原則として、認定後に制度から“抜ける”ことは想定されていません。

長期優良住宅は、「設計」だけでなく「維持保全計画」も含めた“長期的な約束”として認定されるものです。
認定を受けて補助金を取得した場合は、その後の点検や維持管理も継続する義務が発生します。

ただし、現実的には認定後の暮らしの中で点検を行わなかったからといって罰則があるわけではなく、「形骸化」しているケースも多く存在します。
とはいえ、制度の理念に沿って取得するなら、きちんと活用・維持する姿勢が求められることを忘れないようにしましょう。

 

 

Q2:長期優良住宅にすると、将来の売却で本当に有利になりますか?

A:ケースバイケースです。一般論としては“過度な期待は禁物”です。

たしかに、認定書類が揃っていることで買主に対して「安心感」を与えることはできます。
しかし中古市場においては、以下のような点のほうが価格に直結します。

・立地条件(駅距離、周辺施設)
・外観や間取りの魅力
・建物のコンディション(メンテナンス履歴)

そのため、制度認定だけで価格が上がるとは限らず、「比較材料の一つ」程度に考えるのが現実的です。

 

 

Q3:注文住宅でも自由に設計できる範囲はありますか?

A:あります。ただし、“制度に合わせた設計の中での自由”という前提になります。

たとえば、
・大きな吹き抜けや複雑な構造は、耐震等級確保のため難しくなる
・土間空間や一体的な屋外テラスは、断熱や劣化対策との調整が必要になる
・デザインや素材選びにおいても、“認定基準を満たす工夫”が求められる

つまり、自由設計は可能ですが、制度に適合するための“制限付きの自由”になります。
自由度を最大化したいなら、制度に頼らず設計そのものを追求する方が向いているケースもあります。

 

 

Q4:制度取得は後からでも可能ですか?

A:原則として、設計段階から準備しないと取得は難しいです。

長期優良住宅は、「完成後に申請する」のではなく、設計初期段階から“制度取得を前提とした設計”を行い、行政とやりとりしながら進めていく必要があります。

工事中や完成後に「やっぱり取得したい」となっても、構造・断熱・配管ルートなどが基準を満たしていない場合、認定はできません。

そのため、制度取得を希望する場合は、最初の打ち合わせ時点で必ず伝えることが重要です。

 

 

まとめ|長期優良住宅は、制度の仕組みと現実のバランスが大切。

長期優良住宅は制度として確立されていますが、“知っているようで知られていない”細かい条件や現実の運用面が存在します。
誤解や過信を避けるためにも、疑問は設計者に遠慮なく相談し、制度の仕組みと現実のバランスを理解しておくことが大切です。

 

 

 

長期優良住宅を取得することが、必ずしも「お得」で「後悔のない家づくり」につながるとは限りません。
本当に大切なのは、「制度認定の有無」ではなく、
その制度が、自分たちの暮らしにどうフィットし、設計として活かされているかという視点です。

 

 

この記事では、長期優良住宅という制度と、その選択における落とし穴・判断基準について、以下のような観点から整理してきました。

・制度の目的と成り立ち、そして認定の取得条件
→ なぜこの制度があるのか、どんな基準を満たせば取得できるのかを丁寧に解説。

・補助金という“見える得”と、その裏にある“見えにくいコスト構造”
→ 仕様アップ・設計制約・管理義務など、目に見えない負担の可能性を明示。

・「資産価値が上がる」という営業トークの盲点
→ 実際の査定で重要なのは制度ではなく、立地・状態・デザインという事実。

・寿命や品質を決めるのは“制度”ではなく“設計と施工”であるという現実
→ 本当に長持ちする家は、書類ではなく現場の判断と技術で決まることを解説。

 

 

長期優良住宅は、家づくりにおける“万能な答え”ではありません。
むしろその制度は、「設計の幅」を削りながら、コストや手間を上乗せする仕組みになる可能性すらあるのです。

家の価値は、「制度に適合しているかどうか」より、
“どのように設計され、どのような品質で建てられたか”という中身の方がはるかに重要ではないでしょうか?

 

 

数字や等級を整えるだけでは、本当に豊かな住まいは実現できません。
劣化対策・点検性・耐震性といった制度や数値で示せることもありますが、“敷地と暮らしに合った設計”として、どう具体化されているかこそ本当の意味での安心や寿命につながるというのが、設計士としての意見です。

「長期優良住宅にすべきか」ではなく、
「自分たちにとって、何がちょうどいい選択か」という視点で見直すといいかもしれません。

 

▼こちらの記事もおすすめです。

▼断熱等級については、こちらの記事で詳しく解説しています。
断熱等級とは?G1・G2・G3の違いについて|快適な家・注文住宅の断熱性能・基本知識

 

▼住宅設備については、こちらの記事で詳しく解説しています。
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▼断熱・断熱材については、こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【断熱・完全ガイド】注文住宅の断熱を徹底解説|基本・性能・種類・メリット・注意点-“世界で最も優秀な断熱材”とは?

 

 

私たちの設計事務所では、認定の取得そのものを目的とせず、ご家族にとって最もふさわしい暮らしのかたちを、ゼロから一緒に考えることを大切にしています。
制度に縛られず、しかし必要があれば正しく活用しながら、“設計の自由度と暮らしの心地よさ”を、両立させる家づくりを行っています。

 

 

・補助金よりも、デザインや自由度を重視したい方
・制度に振り回されず、自分たちに最適なバランスで家を建てたい方
・「耐震・劣化対策」などの本質を、制度ではなく“設計力”で担保したい方

「長期優良住宅だから安心」ではなく、
「この設計だから信頼できる」と思える家。
そんな住まいを、私たちと一緒に考えてみませんか?

▼この記事を執筆した建築家の【建築実例・設計思想】は、以下からご覧いただけます。

 

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#注文住宅 #長期優良住宅 #補助金 #資産価値 #設計事務所 #建築家住宅 #名古屋注文住宅 #岐阜注文住宅 #制度の落とし穴 #後悔しない家づくり

 

参考資料・公的機関リンク一覧

国土交通省|長期優良住宅
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000006.html

経済産業省 資源エネルギー庁|省エネ住宅
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/housing/

一般社団法人|住宅性能評価・表示協会|長期優良住宅
https://www.hyoukakyoukai.or.jp/chouki/

名古屋市|長期優良住宅認定制度
https://www.city.nagoya.jp/jigyou/category/39-14-0-0-0-0-0-0-0-0.html

愛知県|長期優良住宅の認定制度
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kenchikushido/06chouki-index.html

 

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