【注文住宅の「契約」完全ガイド】契約の流れ、費用、注意点、設計契約と工事請負契約の違い-失敗しないために徹底解説

注文住宅の根幹が「契約」です

「どんな家にしようか」と考え始めたとき、最初に浮かぶのは間取りやデザイン、設備のことかもしれません。
けれども、実際に多くの人がつまずくのは「契約」についてです。

・営業に言われるがまま契約したら、後から追加費用がどんどん…
・打合せと違う内容で進んでいたことに気づいた時には遅かった。
・契約の内容が専門的過ぎて分からない。

 

 

注文住宅では「どの順序で・どんな契約を・誰と結ぶか?」という視点が完成後の満足度を左右します。
そこで本記事では、設計契約と工事請負契約の違い・契約の進め方・よくある失敗・相談時のコツまで、一級建築士の立場から徹底解説していきます。ぜひ最後まで読んで参考にしてください。

 

 

Table of Contents

 

注文住宅の契約方式を大きく分けると、2つに分けることができます。

1.設計事務所に依頼する場合
2.ハウスメーカー・工務店に依頼する場合

つまり、設計事務所と、それ以外では、契約の種類・順序が全く異なるということです。詳しく解説します。

 

 

ハウスメーカー・工務店の場合

多くのハウスメーカーや工務店では、営業担当者が「本体価格○○万円」などといった概算の見積書を提示し、設計が未確定な段階で「工事請負契約」へと進むスタイルが一般的です。

この方式では、標準プランをベースに細部を詰めていくような進め方が多く、以下のようなリスクが生まれます。
・契約後に「それはオプションです」と言われ、想定外の費用が発生する
・契約前に図面が確定していないため、変更・仕様追加の連続になる
・契約内容と図面・現場が乖離し、クレームに発展する

つまり「先に建てる契約をし、あとで中身を整える」構造です。営業主導のスピード重視な側面が強く、施主側が内容を深く理解する余地が少ないのが現実です。

 

 

設計事務所の場合

一方、設計事務所では、まず「設計契約」を結び、ゼロベースから理想の暮らしを設計図に落とし込むところからスタートします。

この段階で行うのは以下のようなプロセスです。
・丁寧なヒアリングをもとにプランを作成
・法規や敷地条件との整合性を確認しながら最適化
・使用素材や構造方針を明確化し、施工可能な図面を仕上げる

 

 

このように、設計内容が確定してから、はじめて「工事請負契約」へと進む流れになります。
契約後に仕様変更が起きにくく、費用のブレも少ない。
また、設計者が施主の立場に立ち、工事契約書の精査や施工業者選定に関与できる点も大きな違いです。

 

 

まとめ|両者の違い:ハウスメーカー・工務店 VS 設計事務所

契約の順序は明確に異なる(業界構造)

項目ハウスメーカー・工務店設計事務所
契約の最初の一歩工事請負契約(営業主導)設計契約(建築士主導)
設計の確定時期契約後(変更しながら進行)契約前に実施設計まで完了
仕様変更の自由度低い(契約後は制約あり)高い(契約前に詰める)

→ この違いにより、「費用の変動」「後戻りできない構造」「納得感の差」が生まれます。

 

 

ハウスメーカー・工務店では、詳細な設計プロセスを経る前に「工事請負契約」を先に結ぶことが一般的です。
一方で設計事務所では、まず「設計契約」を結び、空間・素材・構造などを丁寧に設計しきってから「工事契約」に進むという流れになります。

当然ながら、ハウスメーカー・工務店では契約後に変更や追加費用が発生しやすくなります。
設計事務所では契約前に内容が固まっている分、工事が始まってからの追加は少ない上、納得感が高く、総じて、失敗のリスクが少ないのです。

 

 

この「順序の違い」は、そのまま契約トラブルや金額の振れ幅、完成後の満足度に直結することは、簡単にご想像頂けるのではないでしょうか?
──では、「設計契約」「工事請負契約」とは、どのようなものなのか?次章から詳しく解説します。

 

 

※ちなみに・・・
このことは、国土交通省のトラブル事例にも合致。
国交省や住宅支援機関が公開する「住宅紛争事例」の多くが、
・設計が確定していない状態での契約
・契約後に仕様変更ができない/高額な追加が必要
・契約内容と完成物のズレ
上記に起因しており、まさにこの構造的違いによるものです。

 

 

 

まずは、「設計契約」について解説します。
「設計契約」とは、建築家・設計事務所と結ぶ「家を建てるための計画書を描く契約」です。

 

設計契約で取り決める内容

・間取り、構造、素材、仕上げなどの設計内容
・設計スケジュールと成果物(図面・模型・パース等)
・設計報酬と支払い条件
・修正対応の回数や範囲

 

 

設計契約を先に結ぶメリット

・内容が決まってから工事の契約できる→ 後からの追加・変更が少ない
・費用がブレにくい→ 事前に仕様を決めるため予算管理がしやすい
・見積の比較がしやすい→ 同じ図面で複数社に見積を取れる
・トラブルを防げる→ 契約と図面がズレない。
・納得して着工できる→ 内容も価格も理解した上でスタートできる。

 

 

つまり、設計契約とは、建物本体にお金を払うのではなく、「非常に細かく内容を判断のための設計」に対して支払う契約です。この段階を省いてしまえば、「何を建てるか」が曖昧なまま施工が始まるリスクがあります。

設計契約については、こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【設計契約とは?なぜ必要?家づくりを成功に導くための設計契約の役割・流れ・費用のまとめ】

 

 

 

まずは、「工事請負契約」について解説します。
「工事請負契約」とは、建築主(施主)と施工会社(工務店・建設会社など)が結ぶ、建物の工事を正式に依頼する契約です。

 

 

工事請負契約で決まること

・工事内容(添付図面・仕様書の確認)
・工事金額と支払い条件(契約金・中間金・最終金)
・着工日・工期・完了日
・瑕疵担保・保証内容
・万が一の変更や解約時の取り決め

この契約に基づき、施主には代金支払いの義務が、施工会社には成果物として建物を完成させる義務が生じます。
民法632条に定められた「請負契約」に該当し、法的効力がある重要な書面です。

 

 

工事請負契約をいきなり結ぶ5つのリスク

・内容が曖昧なまま契約することになる→ 何を建てるか決まっていないのに契約だけ先行。
・追加費用がどんどん発生する→ 後から「これはオプションです」と言われやすい。
・仕様変更ができない・制限される→ 契約後の変更には高額な手数料や制約がかかる。
・見積と実物が大きく違う可能性がある→ 見積書が「一式」だらけで中身が不明なことも。
・トラブル時に弱い立場になる→ 契約書を根拠に施工が優先され、修正が難しい。

 

 

結論:工事請負契約は詳細な内容を明確にしてから

工事請負契約は、「何を・いくらで・どう建てるか」がすべて明確になってから結ぶのが原則です。
「間取りが決まったから、そろそろ工事契約を…」という流れは、実は非常に曖昧なまま契約を交わしている状態にほかなりません。
正直に言えば、それは自らリスクに飛び込んでいくようなもの。
設計者の視点で見ると「その段階で契約できるなんて、ある意味すごいですね……」と、逆に感心してしまうレベルです。
それほどまでに、詳細未確定の工事契約は「危うい橋」と考えた方が無難でしょう。
建てる前にこそ、中身を整える。それが、安全で納得のいく家づくりの最低条件です。

工事請負契約については、こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【工事請負契約とは?注文住宅で後悔しない工事契約の流れ・費用・注意点|一級建築士が解説】

 

 

 

ここからは、注文住宅の契約に関する「よくある失敗例」をご紹介します。

失敗1|設計が固まっていないのに工事契約を結んでしまった

背景: 営業トークで「今月中なら値引きできますよ」と迫られ、工事請負契約をしてしまった。
結果: 契約内容の確認が甘く、契約後に設備・仕様の変更が続き、+300万円の追加費用を請求される。
教訓: 詳細な設計図、見積書が確定した後で契約するのが鉄則です。残念ですが、当たり前のことです。

 

 

失敗2|見積書に「一式」ばかり。中身を確認せずに進んだ。

背景: 見積書に「一式」ばかりで明細がないのに「全部込みの価格です」と言われ安心してしまった。
結果: 照明、カーテン、エアコン、外構はすべて別料金だった。
教訓: 「一式」の表記は要注意です。明細は必ず提出してもらい、各項目の内訳まで確認しましょう。

 

 

失敗3|口約束を信じたが、契約書には一切記載なし

背景: 営業が「吹抜けは標準仕様に含まれます」と口では説明し、信用してしまった。
結果: 契約後に追加費用として40万円を不当に請求される。
教訓: 重要な話はすべて書面に残すこと。メールや議事録も残すと安全です。

 

 

失敗4|契約書をよく読まずにサインしてしまった

背景: 分厚い契約書を「プロが作ってるものだから」「大丈夫だろ」と全面スルー。
結果: 中間金のタイミングや保証条件でトラブルに。
教訓: 読めないのであれば「一緒に読む人(設計者や専門家)」をつけましょう。

 

 

 

ここからは、注文住宅の契約について、よくある質問と回答をご紹介します。

Q1. 注文住宅では、契約は何回あるの?

大きく分けて「設計契約」と「工事請負契約」の2つがあります。
設計者と図面づくりのための契約を結んだ後、内容が固まってから施工会社と工事契約を結びます。
この順序が、無駄な費用やトラブルを防ぐ基本です。

 

 

Q2. 間取りが決まったら、もう工事請負契約しても大丈夫?

間取りだけでは不十分です。
仕様・素材・設備・構造などが確定し、見積金額に納得できた段階がベストです。
早すぎる契約は追加費用や後悔の原因になります。

 

 

Q3. 契約書の内容はどこまで確認すればいい?

金額・支払い条件・工期・保証・仕様内容は必ず確認を。
特に「一式表記」や口頭説明とのズレには注意が必要です。
疑問があれば、遠慮せず専門家に相談を。

 

 

Q4. 契約後に間取りや仕様は変更できるの?

原則として契約後の変更は制限されますし、追加費用が発生します。
特にハウスメーカーの場合は変更の自由度が低い傾向があります。
契約前に十分な打合せをしておくことが重要です。

 

 

Q5. ハウスメーカーと設計事務所、契約の進み方に違いはある?

あります。ハウスメーカーは工事契約が先行しがちで、あとから内容を詰める方式が多いです。
設計事務所はまず設計契約で内容を固め、納得してから工事契約に進むのが一般的です。
リスク管理の観点では、後者のほうが安全です。

 

 

Q6. 契約前に図面をもらうのはアリ?

基本的に詳細な図面は、設計契約を結んでから作成・提供されます。
無料相談の段階では、簡単なラフスケッチやイメージ案にとどまることがほとんどです。
図面には著作権があるため、「タダでもらえるもの」とは考えない方が安全です。

 

 

Q7. 工事契約の後にキャンセルはできる?

可能ですが、契約内容や進捗によっては解約金や実費が発生します。
着工前なら比較的容易ですが、資材発注や施工準備が進んでいる場合は大きな負担になります。
契約前に十分な確認と納得をしてから進めることが大切です。

 

 

Q8. 工事請負契約と建築確認申請はどちらが先?

多くのケースでは、工事契約を結んでから建築確認申請を出します。
ただし、設計が確定していれば、契約前に申請しても問題はありません。
申請後の変更は手間もコストもかかるため、契約前に図面を固めるのが理想です。

 

 

Q9. 「見積書」と「契約書」の違いは何ですか?

見積書は金額の参考資料であり、法的な拘束力はありません。
一方、契約書は金額・内容・工期などを明記し、正式な効力を持ちます。
口頭説明や見積書に頼らず、「契約書の中身」で判断する意識が重要です。

 

 

 

ここまで「注文住宅の契約」について解説してきました。いかがでしたか?

契約とは、単なる手続きではありません。
それは、理想の暮らしを現実に変えるための「意思決定の積み重ね」です。

 

 

設計契約では、自分たちの暮らし方を見つめ直し、図面として言語化していく。
工事請負契約では、その計画を現実に移す責任と覚悟を、書面として明文化する。
この2つの契約は、家づくりの両輪です。
片方だけでも不十分。どちらかが曖昧でも、後悔のリスクは高まります。

 

 

契約とは、「どんな暮らしを、誰と築くか」を問うプロセスそのもの。
だからこそ大切なのは、価格やスピードではなく、納得して契約できるかどうか。
その納得を引き出してくれるパートナーがいるかどうかが、
家づくりの成功を左右する最大の鍵です。

 

 

形式だけにとらわれず、心から信頼できる誰かと、誠実な契約を。
それが、あなたの暮らしを守る最も確かな基盤になります。

▼このブログを執筆した建築家が手がけた住宅実例はこちら

 

HPhttps://studio-tabi.jp/

イベントhttps://studio-tabi.jp/project/event/

YouTubehttps://studio-tabi.jp/project/youtube/

Instagramhttps://www.instagram.com/tawks.tabi/

#注文住宅 #完全自由設計 #設計事務所 #家づくり #注文住宅の契約 #建築家住宅 #名古屋注文住宅 #岐阜注文住宅

 

 

 

この記事では、設計契約と工事請負契約の違いや流れについて解説しましたが、より専門的な資料を確認したい方は、以下の公的機関による情報もご参照ください。

国土交通省|建築設計業務・報酬基準

国土交通省|工事請負契約の基礎資料

関連記事

おすすめ記事
特集記事
  1. 【大きな家・小さな家】どちらが正解?徹底比較|注文住宅の大きさ・面積・広さで失敗しないための考え方

  2. 「開放感のある家」をつくる7つのポイント|注文住宅で“面積以上の広がり”を生む設計デザイン

  3. 【注文住宅の設計手法】一体的な“内と外”を実現するデザイン|中間領域とバッファーゾーンを解説

  4. 建築家にもタイプがある?|設計事務所の3分類 – 前衛・匠・大御所の違いとあなたに合う依頼先の見つけ方

  5. 土地探しが先か?建築会社が先か?|注文住宅で失敗しない土地選びと依頼先の順番とは?

  6. 【耐震構造】木造注文住宅-耐震性を高める7つの設計ポイント|地震に強い家にする間取り・形状・注意点

  7. 設計事務所・建築家の特徴、メリット・デメリットなどを徹底解説!

  8. 【オーダー建具-再考-】なぜ“既製品の建具”では設計に限界があるのか?|注文住宅が劇的に変わる-“造作建具”の真価とは?

  9. 「最高の窓・開口部」をつくる4つのポイントと設計手順|注文住宅の魅力を最大化する考え方とは?

  10. 廊下ゼロの注文住宅|“廊下のない家”という最高に賢い選択-コスト・メリット・デメリットと後悔しない間取りの工夫

  1. 風通しのいい家のつくり方|自然通風を活かす快適な間取りと窓配置-後悔しない通風計画のポイント

  2. 【注文住宅の天井高】2400mmより“高い天井”と“低い天井”、どちらが快適?|メリット・デメリットと暮らしに合う選び方

  3. 【土間のすすめ】現代の注文住宅に活きる“土間空間”|魅力・メリット・デメリット-“伝統の設計術”

  4. 【アウトドアリビング】注文住宅で人気の“屋外リビング”とは?|暮らしを豊かにする魅力と設計の工夫-建築家が実例で紹介!

  5. 注文住宅で失敗しない窓の選び方|開閉方法・形状・位置別に種類・特徴・メリット・デメリット

  6. 本当に高い?|建築家の注文住宅は高額ではなく“納得価格”──設計事務所のリアルな価格と価値

  7. 失敗しない土地選びのチェックリスト|注文住宅のための現地確認ポイントと注意すべき落とし穴まとめ

  8. 土地探しで損しない!値引き交渉の成功術と土地選びの注意点

  9. 【庇・軒】良い家の条件は“深い庇”-建築家が解説|役割・設計ポイントとデザインの工夫

  10. 【完全ガイド】建築家・設計事務所との家づくりの流れ|相談〜契約・見積・工事・完成後のアフターまで

TOP
オープンハウス イベント 資料請求 お問い合わせ