【 ZEHの落とし穴 】「補助金が出る=得」は本当か?|一級建築士が語る“損しない家づくり”-注文住宅の真実

はじめに|ZEH住宅の真実とは?

ZEH。
最近よく聞くようになった言葉ですが、実際どこまで理解できていますか?
「補助金が出るらしい」「電気代がゼロになるって聞いた」「国が勧めているから安心そう」
そんな“空気”の中で、知らず知らずのうちにZEH仕様に流されている人も少なからずいるのではないでしょうか?

もちろん、ZEHがダメなわけではありません。
でも、“あなたにとって本当に得か?”は別問題。設計の自由度・暮らしやすさ・初期コスト・運用負担まで含めて冷静に見てみると、思わぬ落とし穴が隠れていることもあります。

 

 

そこでこの記事では、一級建築士の立場から「ZEHの本質」「補助金の真相」「暮らしとの整合性」について丁寧に解説します。
ここで、ZEHに関する基礎知識を整理し、性能という“スペック”に振り回されない、賢い家づくりを実現しましょう。

 

▼長期優良住宅については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【後悔しないために】長期優良住宅は本当に損しない?|補助金・資産価値・寿命のウソと真実【注文住宅の落とし穴】

 

Table of Contents

 

ZEHについて語る前に、まずはその“定義”を正確に理解しておく必要があります。
なんとなく「高性能そう」と思っていても、実際の基準や要件を知らなければ、判断を誤る可能性も。
まずは、ZEHとは何か? どんな仕組みで「エネルギー収支ゼロ」を実現しているのか?その基本構造を明快に整理していきます。

 

 

ZEH(ゼッチ)の基本定義と目的

ZEHとは「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(Net Zero Energy House)」の略称で、日本語で言うと「エネルギー収支が実質ゼロの住宅」を意味します。
つまり「断熱性能」「高効率設備」「太陽光発電」などを組み合わせて、消費するエネルギーよりも、創り出すエネルギーの方が多い家のこと。

 

 

ZEHの根本は「エネルギー削減」と「脱炭素」の国家戦略と結びついており、住宅の環境性能を社会的に底上げする国家的政策の意図が含まれています。

そのため、ZEHを満たす家を建てるには国の定める要件を満たす必要があるということは覚えておきましょう。

 

 

ZEH認定のための要件とは?

以下が、ZEHとして認定されるために必要な代表的条件です。

・断熱性能(UA値):地域区分ごとに定められた水準以上の高断熱仕様
・一次エネルギー消費量の削減:高効率給湯器・照明・冷暖房機器などを導入し、従来比で20%以上削減
・太陽光発電など創エネ設備の搭載:消費分を自家発電でまかなう構成

つまり、「高断熱+省エネ+創エネ」の3つが揃ってはじめてZEHになります。
単に“高性能サッシを入れたから”では認定されません。

 

 

ZEHには“グレード”がある

ZEHは一枚岩ではなく、さらに細かい分類があります。

区分特徴
ZEH基本仕様。断熱・省エネ・創エネの3点が揃えばOK
ZEH+ZEHよりもさらに性能強化。より高度な省エネ・制御機能が必要
LCCM住宅建設から廃棄まで含めたCO2排出量がマイナスになる超上位住宅

多くの人が「ZEH=すごい」と思いがちですが、“ZEHのレベル”によっても話が変わることを理解しておきましょう。

 

 

まとめ|ZEHは“条件付きの仕組み”である

ZEHは、補助金とセットで語られることが多いですが、前提として「国の定めた設計条件を満たしているかどうか」が重要です。
「なんとなくZEH」では通用しない構造になっているため、住宅会社まかせにせず、自分自身で内容をしっかりと理解しておきましょう。

 

▼省エネ住宅については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【省エネ住宅の真実】断熱・気密・換気・設備・設計|“快適とエコ”を両立する家づくり・注文住宅-5つの核心

 

 

 

ZEHにすれば「補助金がもらえる」と耳にするかもしれません。
確かに、国や自治体はZEHを推進しており、補助金制度も用意されています。
しかし、「もらえる=得」という単純な話かといえば、そうでもありません。
そこでここからは、ZEH補助金の具体的な仕組みと、その“落とし穴”を冷静に見ていきます。知らずに突っ込むと、「手間とコストに見合わなかった」という後悔につながりかねませんので注意していきましょう。

 

 

補助金は「もらえる」のではなく「条件を満たせば支給される」

まずは、ZEH補助金は、申請すれば簡単に自動的にもらえる、といったものではないことに注意が必要です。
いくつもの条件・手続き・書類作成・期限管理をクリアしなければ、ZEHと認定されません。

▼具体的な条件は、次の通りです。
・登録されたZEHビルダー(工務店・設計事務所)で建てること
・着工前に申請を完了する必要がある(中間申請不可)
・設計仕様や計算書類の提出、工事完了報告など厳密な工程が必要
・補助金の交付は竣工後数ヶ月かかるのが一般的

つまり、「使えそうだからあとで申請すればいいや」では間に合いません。
最初から「補助金を取る前提」で設計・施工体制を整えておく必要があります。

 

 

金額の目安と、その“実質的な価値”

ZEH補助金の金額は年や区分によって変動しますが、基本的には55万円〜100万円程度
▼以下のような加算措置もあります。

加算項目金額目安
蓄電池の導入+10〜20万円
高性能窓の採用+10万円前後
LCCM住宅+100万円超も可

金額だけ見れば魅力的ですが、それ以上に「ZEH仕様にするためにかかる追加費用」を考える必要があることに注意しましょう。たとえば、太陽光発電の導入費用や断熱グレードアップの費用だけで、100万円以上増額になることは全く珍しいことではありません。

 

 

「補助金があるからZEHにした」は、本末転倒

補助金が出るのはありがたいことです。
しかし、補助金を前提にZEHを選ぶこと自体が、本質からズレているとも言えます。

・本当は必要ないほどの性能を盛り込んでしまった
・無理にスケジュールを合わせて設計の検討時間が足りなかった
・太陽光パネルの配置のせいで間取りが犠牲になった

こうした事例は、補助金に“釣られた結果”としてよく見られる失敗です。

補助金とは、「適切に活用すれば助かる制度」であって、「それありきで家を決めるもの」ではありません。
補助金目当てで家づくりの本質を見失っては、本末転倒です。

 

 

まとめ|補助金は“ごほうび”ではなく“設計と施工の対価”

ZEH補助金を得るためには、きちんとした性能・きちんとした施工・きちんとした事務処理が求められます。
その上でようやく「少しだけお金が戻ってくる」という構造です。

・「補助金がもらえるからラッキー」ではなく
・「頑張って盛り盛りにすると、少しだけ補助として支給される」

というスタンスで補助金を認識するのが正解です。

 

▼こちらの記事もおすすめです。
「高断熱=快適」は真実か?|断熱等級4でも“心地よい家”をつくる注文住宅の賢い戦略 ─ オーバースペックは大きな損?

 

 

 

ZEHの大きな魅力のひとつが「光熱費ゼロの暮らし」
太陽光発電でエネルギーを自給自足し、電気代もほとんどかからない。そんな理想を描く人は少なくありません。
しかし、それは設計通りにエネルギーが創られ、暮らしのパターンとも完全に合致した場合の話
現実には、“ゼロにならない人”のほうが多いのが実態です。
ここからは、ZEHと光熱費の関係性を冷静に整理し、「本当にゼロになるのか?」を暮らしの実情から検証していきます。

 

 

太陽光が発電している時間帯に、電気を使っていない現実

太陽光発電の最大の前提は、「日中にしっかり発電し、それを使えること」。
しかし、共働き世帯などで日中ほとんど家にいない家庭では、せっかくの発電を有効活用できません。

日中に使えなかった電力は売電に回されますが…

・売電単価は年々下落し、FIT終了後は10円/kWh以下が当たり前
・一方で、買電(夜間電力)は25〜35円/kWhが相場

つまり、「自家消費」ができないと、“安く売って、高く買う”という逆転状態になってしまいます。
光熱費削減どころか、逆に損失が出ているケースもあり得るということには注意が必要です。

 

 

蓄電池は“理論上は正解”でも“現実には赤字”?

「じゃあ、蓄電池を入れておけばいいのでは?」と思うかもしれません。
確かに、蓄電池を導入すれば、昼に発電した電気を夜に使えます。

けれども、
・蓄電池は1台あたり100〜200万円が相場
・寿命は約10年。買い替えコストも必須
・メンテナンス・設置スペース・動作音の問題もある

つまり、蓄電池は「コストをかけて“ゼロに近づける”手段」であり、経済的に得とは限らないのです。

 

 

季節変動・天候リスクは避けられない

太陽光発電は「晴れている日中」にしか発電しません。
そして、現実の気候はそう甘くありません。

・雨の日・曇りの日は発電量が激減
・冬季は日照時間が短く、積雪地域では発電ゼロもある
・そもそも立地条件(日射条件)が悪ければ、設置しても効果は薄い

例えば、名古屋市では年間何日雨が降るか知っていますか?答えは、約100日です。雨の日だけで100日。曇りの日いれてしまえばって、もはや、言わずもがなです。

これらの要因を見落とすと、「思ったより電気代が減らなかった」という後悔につながってしまいます。

 

 

「光熱費ゼロ住宅」という言葉の“マジック”

ここで注意したいのは、住宅会社が掲げる「光熱費ゼロ住宅」や「電気代がかからない暮らし」は、設計上の理論値に過ぎないということ。

・暮らし方(家にいる時間・使う電力機器)
・ライフステージ(子どもが大きくなると電気使用量増)
・地域特性(寒冷地・豪雪地帯など)

これらによって、実際のエネルギー収支は簡単に変わってしまいます。
「光熱費がゼロになります」ではなく、「ゼロに近づけられる可能性があります」が正確な表現です。
理想と現実には、けっこう大きな差がある。それを知らずに契約するのは大変危険だといえます。

 

 

まとめ|「ゼロになる」は条件つき。「過信せず、暮らしと照らし合わせて考えること」

ZEHが掲げる「光熱費ゼロ」という理想は、間違いではありません。
でも、それが“万人に当てはまる話”ではないことを理解しておく必要があります。

・あなたの家族構成・働き方・地域・建物形状
・設備の寿命と更新コスト
・天候や季節による変動

これらを冷静に見つめたうえで、「どれくらいゼロに近づけるか?」を検討するのが、現実的で損をしない姿勢です。
過度に期待しすぎず、「意味ある投資か?」という視点で判断することが肝心だと覚えておきましょう。

 

▼住宅設備については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【保存版】注文住宅・設備の選び方|“本当に必要なもの”だけを見極める判断軸と快適性のポイント

 

 

 

ZEH住宅は「補助金が出るから実質お得」と言われます。
でも冷静に考えてみましょう。本体価格はどれだけ高くなるのか?
そして、その差額を何年で取り戻せるのか?

ここからは、ZEH化にともなう追加コストと、その費用対効果を数字ベースで解説します。
「補助金が出る=得」と思い込んでしまうと、回収困難なオーバースペック住宅を選んでしまう危険も。しっかりとここで整理しましょう。

 

 

ZEH仕様にするだけで200〜300万円の増額は当たり前

ZEHを成立させるためには、「断熱」「設備」「創エネ」の3点セットが必要です。
つまり、以下のようなコストが積み上がります。

項目追加コストの目安
高性能断熱材・窓+50〜100万円
高効率給湯器・換気・照明+30〜50万円
太陽光発電(5〜6kW)+100〜150万円
蓄電池(任意)+100〜200万円(希望者のみ)

これらをすべて盛り込めば、300万円以上の追加投資になることも。
しかもこれは「ベースの建物価格とは別」に乗ってくる金額です。
つまり、補助金を引いても、実質的に200万円前後は自己負担で増えると見ておくのが現実的。

 

  

補助金で“トントン”になることは、ほとんどない

ZEH補助金の平均は55〜100万円程度。
よって、「もらえる金額<かかるコスト」の構図は基本的に崩れません。

項目金額(目安)
ZEH化によるコスト増約200〜300万円
補助金約55〜100万円
実質負担約150〜200万円

つまり補助金は“足しにはなるけど、すべてをカバーできるわけではない”。
補助金に飛びついて家づくりを決めてしまわないように。冷静な損益判断を数値で確認してください。

 

 

年間光熱費の差額は?──回収には20〜30年かかる場合も

ZEHと非ZEHの年間光熱費は、以下のように“設計の精度”によっても大きく変動します。

住宅種別年間光熱費(目安)備考
等級4(設計が甘い)約13〜15万円方位無視・窓配置に一貫性なし・空調効率が悪い
等級4(設計がしっかりしている)約7〜9万円日射取得・断熱ライン・動線・空調計画が最適化されている
ZEH(太陽光・高効率設備)約5〜7万円創エネで光熱費を相殺している

たとえば「しっかり設計された等級4」と「ZEH」の差額は、年間1万〜3万円程度に収まるケースも

その場合、以下のようになります。
200万円(ZEH化費用) ÷ 3万円(年間削減額)= 約66年

※元を取るには66年かかる計算。人間の寿命は何年でしたか?

 

 

つまり、「ZEHにしないと損」というロジックは成立しない。

・性能にお金をかける前に、設計の工夫でかなりの部分がまかなえる
・ZEHとの差額が、数万円/年にしかならないケースもザラにある
・設計力があれば、等級4でも十分快適&省エネな暮らしが実現可能

設計がちゃんとしていれば、断熱等級4でも“十分に省エネ”。ZEHとの差は意外と小さいのです。

 

▼断熱等級については、こちらの記事で詳しく解説しています。
断熱等級とは?G1・G2・G3の違いについて|快適な家・注文住宅の断熱性能・基本知識

 

 

たとえ、設計力のない建築会社の断熱等級4でも年間で約6〜8万円の差しかありません。

仮にZEH化に200万円かけていたとすれば…

200万円 ÷ 8万円/年 = 25年

それでも、25年かけてようやく「元が取れるかどうか」というレベル。
もちろん、太陽光の劣化・設備の交換費用を含めれば、それ以上かかることも。
決して「すぐ元が取れる」「経済的に有利」とは言えないことがわかります。

 

 

「回収年数の長さ」が暮らしの変化に追いつかない

さらに厄介なのは、「25年で回収」と言っても、25年の間に家族構成もライフスタイルも大きく変わるということ。

・子どもが巣立てば電気使用量が減る
・働き方が変われば日中の在宅時間も変わる
・住宅のメンテナンス費用も発生する

つまり、「当初の光熱費モデルが25年間続く前提」は非現実的ではないでしょうか?

 

 

まとめ|ZEHは“回収ありきの投資”ではない。価値の感じ方がすべて

ZEH化によるコストは、「長期的に見て回収できればOK」という視点では不十分
むしろ、「自分にとって意味がある投資かどうか」「それを選ぶ納得感があるかどうか」が重要です。

・光熱費の回収だけを期待してZEHにするのはNG
・「気候変動対策を意識したい」「エネルギー自立に興味がある」などの目的があるなら、意味があるかも
・「補助金があるから」「得だと聞いたから」だけで選ぶと、時間とお金をムダにする可能性が高い

というのが結論です。

 

▼断熱等級・断熱性能の選び方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【断熱性能】断熱等級の正解は?|G1・G2・G3 ─ “暮らしに合った基準”で判断する注文住宅-最適なバランス設計とは?

 

 

 

ZEHという言葉には、「性能が高い」「補助金が出る」「環境にやさしい」といった“いいことずくめ”のイメージがまとわりついています。
でも、少しだけ立ち止まって考えてみてください。
その「安心できそうなイメージ」は、誰がつくっているのでしょうか?
ここからは、ZEHがどのようにマーケティングの道具として利用されているのかを解説しながら、
“誰のためのZEHなのか?”という本質に踏み込んでいきます。

 

 

「ZEH=安心」というストーリーは、誰かがつくった“空気”

住宅展示場や広告チラシで、「ZEHだから安心」「高性能で将来も安心」という言葉を見たことはありませんか?
この言葉、たしかに間違いではありません。
でも、“そう思わせるための仕掛け”があることも、見逃してはいけません。

・高性能=安心という短絡的な連想
・「補助金=お得」という金銭的安心感
・国が勧めている=制度的な信頼感

こうした要素が組み合わさって、ZEH=無条件に正しいものという空気がつくられているのです。

しかし、その空気に乗せられて、「本当は自分に不要な性能」を採用してしまうとしたら?
それは、“安心を買ったつもりが、無駄な出費をしていた”ということになってしまいます。

 

 

住宅会社にとっては「安心して買ってもらうための仕掛け」

ZEHは、住宅会社にとっても都合の良い販売ツールだという視点も大切です。

・数字で説明できるから営業しやすい
・国の基準だから、信頼されやすい
・補助金があるから価格が高くても納得してもらいやすい

 

 

つまり、「ZEH対応住宅にすれば売りやすい」構造があるのです。
住宅会社がZEHを勧める背景には、こうした“売り手の論理”も少なからず存在します。
もちろん、誠実な会社もたくさんあることでしょう。
ただし、「勧められたからZEHにした」ではなく、自分で納得して選ぶ姿勢がないと、後悔につながる可能性があります。

 

 

スペックでしか説明できない家は、設計の“言語力”が足りていない

「この家はZEHです」「断熱等級6です」「気密C値は0.3です」
こういった性能の数字は、確かに大事です。
でも、それだけで家の良し悪しが決まるわけではありません。

本来、設計とは・・・
・暮らしに合った間取り
・心地よい居場所のつくり方
・外とのつながり、空間の緩急、素材の選び方

“数字では語れない快適さ”を届ける行為のはずです。
もしスペックだけで価値を語っているなら、それは“設計を放棄している”状態とも言えます。

ZEHは、その“放棄された部分”を数字で埋めているだけかもしれません。

 

 

まとめ|“安心”という言葉に流されず、「意味のある選択」か考えてみましょう。

ZEHがダメだと言いたいわけではありません。
でも、「ZEH=安心」「ZEH=高性能だから得」
そういう言葉を無意識に信じ込んでいるなら、一度立ち止まるべきです。

・誰かが売りやすくするためにつくった“安心ストーリー”に乗っていないか?
・あなた自身の暮らしに、本当にその性能は必要か?
・その金額と内容に、納得してお金を出せるか?

そう考えるだけで、「ZEHにすべきかどうか」はまったく別の答えになる可能性があります。

 

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“暮らしやすい家”のつくり方|建築家が語る-性能では測れない“注文住宅の本質”と“設計の考え方”

 

 

 

ここまでで、ZEHという制度がもつ仕組み・補助金の実態・光熱費の現実・コスト構造・マーケティング的な側面について整理してきました。
では、あらためて問います。
“本当に快適な家”とは、どんな家でしょうか?

・断熱等級は?
・一次エネルギー消費量は?
・太陽光はついてる?
こんなことも大事かもしれません。

でも、それ以前に必要なのは「暮らしとの整合性」です。
ここからは、家の快適さを“スペック依存”ではなく、“体感と納得”の視点から見直します。

 

 

断熱等級4でも、十分に快適な家はつくれる

よく「ZEHにしないと寒いのでは?」「断熱等級6じゃないと夏が地獄」などの声を聞きます。
しかし、それは一面的な捉え方です。

断熱等級4であっても
・方位計画を整える(南に大開口、北は最小限)
・隣家との距離感・庇の設計を工夫する
・開口部の配置・風の抜け・陽射しの遮り方を整える
・動線・ゾーニングを丁寧に組み立てる

これらを設計によって整えるだけで、「快適」と感じる家は十分に実現可能です。
つまり、性能でゴリ押ししなくても、気持ちよく暮らせる方法はたくさんあります。

 

 

高性能化は「不安」を埋めるための消費になっていないか?

「断熱等級は高いほうが安心」
「太陽光を載せないと将来不安」
「C値は0.3を切らないとダメらしい」

そんなふうに、家づくりが“不安を埋めるための数値ゲーム”になっているケースも多く見受けられます。

でも本来、家は“ポジティブに暮らしを楽しむ”ための道具です。
不安に支配されたままスペックを積み上げていくと、「高性能だけどどこか息苦しい家」になってしまうかもしれません。

住まいは、人生の器です。冷蔵庫ではない。

安心を得ることと、豊かに暮らすことは、必ずしもイコールではありません。

 

 

高性能住宅は“投資”であって、“保険”ではない

「今は電気代が安いけど、将来はどうなるかわからない」
「再エネ規制が厳しくなるかも」
「資産価値が落ちないように」

こういった将来不安に備える意味でZEHを選ぶ人もいます。
それ自体は否定しません。

 

 

しかし、忘れてはいけないのは、

・ZEHはあくまで“未来を読む投資”であって、確実に守ってくれる保険ではない
・投資にはリスクもあり、「損する可能性」も常に含まれている

だからこそ、盲目的にZEHに飛びつくのではなく、“納得して選ぶ”ことが大前提になります。

 

 

オーバースペックでも納得して選んだなら、それは正解

ここまで読んできて、「それでも自分はやっぱりG2以上にしたい」「太陽光と蓄電池で自立型の暮らしをしたい」と思えたなら、
それは、立派な正解です。

重要なのは、「他人に言われたから」「補助金が出るから」ではなく、
“自分で考えて、自分の暮らしに必要だと思ったから選んだ”という感覚を持てるかどうか

家づくりにおける最大の安心は、「誰かが勧めたから」ではなく「自分が納得して選んだ」という確信です。

 

 

まとめ|“快適さ”の正体は、スペックよりも“設計の整合性”

最終的に、家の快適さを決めるのは、スペックの高さだけではありません。

もっと本質的な部分、
・間取りと動線が暮らしに合っているか
・日射や風を自然にコントロールできているか
・自分の感覚にフィットしているか
・将来のライフスタイル変化にも無理なく対応できるか

こうした“身体感覚と暮らしの整合性”の方が、よほど快適さを左右します。

数字に頼るのではなく、数字を使いこなす。
家づくりは、性能よりも“整った設計と思考”の上に成り立つということを、忘れないでください。

 

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ZEHという言葉に安心感を抱き、そのまま信じて進んでしまう・・・
そうやって家づくりをスタートした人の中には、「想像と違った…」という後悔を抱えている人も少なくありません。

ここからは、「ZEHのあるある失敗例」を紹介します。
もし今あなたが、補助金や性能の数字に気を取られているなら、少しだけ冷静になって、これらの事例が“自分にも起こり得ること”かどうか、ぜひ照らし合わせてみてください。

 

 

1.「補助金が出るから」と急ぎすぎて、プランを妥協した

ZEH補助金には申請期限や施工条件があります。
そのスケジュールに間に合わせるために…

・じっくりプランを練る時間がなくなった
・本当はもっと別の暮らし方を考えたかったのに、ZEH優先で強引に間取りを決定
・設備や素材も“補助金対応”に引っ張られた

結果、「補助金は取れたけど、間取りがモヤモヤしてる」という後悔が残ることに。
家は長く使うもの。補助金のためにプランを雑にすると、必ず後悔します。

 

 

2.太陽光を優先した結果、暮らしや設計にひずみが出た

ZEHでは「一定量の創エネ(太陽光発電)」が必須。

その条件を満たすために・・・

・無理に屋根の形状を大きく変えた
・日射条件を優先するあまり、開口部(窓)や間取りに制約が出た
・建物のボリュームが増えすぎて、予算が圧迫された

結果的に、太陽光のために“他の大事な要素”を犠牲にする構造になってしまったケースは意外と多いです。

 

 

3.光熱費が「思ったほど」下がらなかった

「光熱費ゼロ」「電気代がかからない暮らし」を期待してZEHにしたのに…

・冬の曇天が多くて太陽光が発電しなかった
・家族の在宅時間が短く、発電をうまく自家消費できなかった
・売電価格が下がりすぎて収支が合わなかった

そんな声が多くあります。
特に最近は、FIT(固定価格買取制度)終了後の売電単価の低下が影響して、
「意外と光熱費の恩恵が感じられない」という人が続出しています。

 

 

4.長期的に考えたら“高性能すぎてコスパが悪かった”

「高性能窓・高断熱材・全館空調・太陽光・蓄電池…
フル装備のZEHにした結果、イニシャルコストは500万円以上アップ
でも、その回収には30年以上かかるという試算が出た。」

というのも良くある話です。

ライフスタイルの変化や家族構成の変動を考えると、「その性能を使い切れた時間」は意外と短かったという事例も多い。性能は、「長く使ってこそ意味がある」投資です。

 

 

5.“自分で選んだつもり”が、実は“乗せられていただけ”だった

・営業担当に「ZEHのほうがいいですよ」と言われて、なんとなく選んだ
・設計士に「この方が省エネです」と言われて、反論せずそのまま
・家づくりをする余裕がなくて、「ZEH=正解」という空気に乗った

結果、住んでから「本当にこれでよかったのか?」という疑問が残る。
補助金も性能もありがたいけれど、“納得感”がない家は、心地よくありません。

「あのとき、ちゃんと考えればよかった」
家を建てた後に、そう感じる人が本当に多い。

 

 

まとめ|“失敗している人は、情報弱者ではない”。むしろ“空気に乗せられた人”

ZEHの失敗は、決して「知識が足りなかったから」起きるわけではありません。
むしろ、「みんなそうしてるから」「安心って書いてあるから」「損したくないから」という空気に乗ってしまったことが原因であるケースが多いのです。

・自分の暮らしと整合性が取れているか?
・その性能に納得してお金を出せるか?
・「意味がある」と自信を持って言えるか?

そこに向き合わない限り、どんなに性能を盛っても、どこかで違和感が残る家になってしまいます。

 

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ZEHを検討していると、必ずといっていいほど出てくるのが「結局、どうなの?」という素朴な疑問。
SNSや営業トークでは「絶対やったほうがいい」と言われ、補助金の案内を見れば「損したくない」と思ってしまう。
でも、本当にそうなのか? 本当に自分に合っているのか?

ここでは、実際に建築相談の現場でよく受ける質問に対して、一級建築士の視点からストレートに回答していきます。
曖昧な安心感に流される前に、一度“思考をフラットに戻す”ための整理としてお読みください。

 

 

Q1|ZEHって、やっぱり絶対にやったほうがいいんですか?

A:いいえ。人によっては不要です。ZEHはあくまで「ある暮らし方」にとって有効な選択肢です。
共働きで日中不在、都市部の狭小敷地、建築費を抑えたい人には向かないケースも多々あります。
万人にとっての“正解”ではありません。

 

 

Q2|ZEHじゃないと、将来的に資産価値が下がるって本当?

A:地域や買い手によりますが、「数字だけ」で資産価値は決まりません。ZEHかどうかよりも、設計の完成度・間取りの良さ・立地の魅力などのほうが中古市場では重視されます。
性能は評価の一要素にすぎません。スペックだけで家の価値が決まる時代ではありません。

 

 

Q3|光熱費、本当にゼロになりますか?

A:ゼロ“になる人”もいますが、大半はなりません。

・日中に電気を使う在宅世帯
・晴天が多い地域
・太陽光の容量を増やせる屋根形状

これらがそろえば、ゼロに近づくこともあります。
でも、あくまで“条件が揃った人だけ”の話です。盲信しないこと。

 

 

Q4|蓄電池って入れた方がいいですか?

A:本気で自立型ライフを目指すならアリ。経済性だけなら微妙です。

蓄電池は高額で寿命も短いため、コスパだけを重視する人には不向きです。
一方で、「災害時にも安心したい」「買電に頼らず暮らしたい」といった思想があるなら選ぶ価値はあります。
思想か、経済性か。そこが分かれ目です。

 

 

Q5|ZEH対応じゃないと補助金はまったく受けられない?

A:ZEH以外にも補助制度はあります。

・長期優良住宅
・子育てエコホーム支援事業
・各自治体の独自制度

ZEHだけが補助金ルートではありません。
「補助金ありき」で決めると損をします。目的が逆転しないように注意。

 

 

 

ZEH住宅を選ぶことが、必ずしもお得で快適な暮らしに直結するわけではありません。
本当に重要なのは、「補助金の有無」や「性能スペック」ではなく、
そのエネルギー性能が、どんな暮らしのために、どのように設計として活かされているかという視点です。

 

 

この記事では、ZEHという仕組みと、その選択における落とし穴・判断基準について、以下のような観点から丁寧に整理してきました。

・ZEHの定義と仕組み、その制度設計の背景
→ なぜZEHが推進されるのか、どうすれば認定されるのか、制度的構造を解説。

・補助金の仕組みと、それが家づくりを歪める構造
→ 支援制度の存在が、設計や暮らしの整合性より優先されてしまう現状を検証。

・光熱費削減の現実と、“期待ほど得ではない”という事実
→ 実際にかかるイニシャルコストと、年間光熱費差から導き出される回収年数。

・「ZEH仕様にすれば安心」という営業トークへの冷静な視点
→ 性能がもたらす“安心感”が、暮らしの本質とズレていないかを再確認。

・断熱等級4でも十分に快適な暮らしを叶える“設計の力”
→ 性能よりも大切なのは、日射・動線・自然エネルギー活用といった設計の工夫。

・「それでもZEHにしたい人」のための、正しい選び方
→ 性能を否定するのではなく、目的と暮らしに合った選択であるかを重視。

 

 

ZEHの価値とは、「制度に乗ること」でも「補助金を取ること」でもありません。
本質は、“小さなエネルギーで、豊かに暮らす仕組み”として使いこなせているかどうか。

高性能設備や創エネシステムがあるかどうかではなく、
「それらをどれだけ暮らしの中に“意味として溶け込ませられているか」が本当の価値を左右します。

 

 

数字を整えるだけでは、本当に心地よい住まいにはなりません。
断熱・気密・創エネ・太陽光・蓄電池、すべてを、暮らし方やその他の計画と一体化させ設計として組み立ててこそ、快適性は「実感できる価値」へと変わるのです。

「ZEHにすべきか」ではなく、
「自分にとって何がちょうどいい性能か」という視点から判断してみてください。

 

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【断熱・完全ガイド】注文住宅の断熱を徹底解説|基本・性能・種類・メリット・注意点-“世界で最も優秀な断熱材”とは?

 

▼窓の断熱については、こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【断熱・気密】注文住宅の性能は「窓」で決まる|サッシとガラスの選び・種類・特徴・注意点まとめ

 

 

暮らしに寄り添う“ちょうどいい快適な家”を、建築家と一緒に考えてみませんか?

私たちの設計事務所では、G2・G3といった性能等級だけに依存することなく、
敷地・家族構成・ライフスタイル・空間体験を丁寧に読み取りながら、
“設計から導き出される快適性とエネルギー最適化”を大切にしています。

 

 

・性能は大事。でも、暮らしとのバランスで合理的に判断したい方
・過剰な装備ではなく、美しく使いこなせる省エネ住宅を求める方
・「断熱・光熱費・補助金」だけでなく、「設計・空間・納得感」を重視したい方

「ZEHだから安心」ではなく、
「この設計だから心地いい」と思える家。
そんな住まいを、私たちと一緒にかたちにしてみませんか?

▼この記事を執筆した建築家の【建築実例・設計思想】は、以下からご覧いただけます。

 

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参考資料・公的機関リンク一覧

国土交通省|国土交通白書 2022|住まい・建築物の脱炭素化に向けた取組みの課題と方向性
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r03/hakusho/r04/html/n1211000.html

国土交通省|建築物省エネ制度に関する資料①
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/kenchikubutsu_energy/pdf/014_s01_00.pdf

国土交通省|建築物省エネ制度に関する資料②
https://www.mlit.go.jp/common/001585664.pdf

国土交通省|ZEHに関する資料
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001488398.pdf

国土交通省|木造戸建住宅の仕様基準ガイドブック(第3版・4〜7地域・省エネ基準編)
https://www.mlit.go.jp/common/001586400.pdf

経済産業省 資源エネルギー庁|省エネ住宅
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/housing/

 

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