「高断熱=快適」は真実か?|断熱等級4でも“心地よい家”をつくる注文住宅の賢い戦略 ─ オーバースペックは大きな損?

はじめに|「高断熱=快適」は真実か?

「せっかく注文住宅を建てるなら、G2やG3レベルまで断熱性能を高めたほうが安心」
といった声をよく耳にします。
しかし本当にそれが“快適な家づくり”の正解なのでしょうか?

「G2まで上げたけれど体感は変わらなかった」
「追加コストに見合った効果を感じられない」
という声も、実際のところ、少なくありません。

 

 

そこでこの記事では、“高断熱=快適”というのは真実か?掘り下げて考えてみましょう。

一級建築士・設計者の視点から、「断熱等級はいくつから心地よい暮らしは可能なのか?」コスト・設計・暮らしのバランスを冷静に見直す判断軸をお伝えします。これからは「最適化」の時代です。性能もデザインも、脅迫されたように、まだ「足し算」で追い続けるのか?この記事は、そんなことを考えてみるきっかけになることでしょう。

 

 

Table of Contents

 

「断熱性能を上げれば、冬は暖かく夏は涼しい」

これは一見もっともらしく聞こえますし、実際に一定の効果はあるかもしれません。しかし、“絶対的に正しい”という認識になってしまえば、それは、思考停止のはじまりです。

ここからは、なぜ「高断熱=快適」という考え方がここまで広がったのか、そしてそれが実際の暮らしとどこでズレるのかを冷静に見ていきます。

 

 

G2・G3が語られる理由と現実

近年、住宅業界では「G2基準が最低ライン」「G3こそ快適性の到達点」といった言説が盛んに語られるようになっています。これは、国や一部の専門家団体が示す「HEAT20」などの推奨基準に端を発しています。

たしかに、G2やG3レベルの断熱性能を備えた住宅は、机上の計算では非常に優秀。冷暖房負荷を減らし、エネルギー消費を抑え、SDGsにも合致する、といった要素が揃っており、「環境性能住宅」としての価値は間違いありません。

 

 

しかし、これがそのまま「暮らしの快適性」に直結するかといえば、話は別です。

体感温度は、断熱材の性能だけで決まりません。日射・通風・内装の素材・天井高さ・プランニング……あらゆる設計要素が複雑に絡み合って決まるもの。G2をクリアした家でも、設計がまずければ「なぜか寒い・暑い」となる現実は無数にあるのも実際のところでしょう。

 

 

断熱性能の“信仰化”が引き起こす落とし穴

「G2じゃなきゃダメ」
「等級6が未来基準」
こうした風潮は、断熱を“スペック競争”の文脈で語るマーケティングの影響も大きいといえます。

・省エネ基準クリア=良い家
・高断熱高気密=健康住宅
・断熱等級が低い=古い・劣った家

こうした単純化されたメッセージがSNSや広告で繰り返されることで、本質的な議論が置き去りにされ、「断熱スペック=住宅の価値」という認識が独り歩きしていきます。

 

 

問題なのは、“快適”という感覚的なテーマを、あたかも絶対的な数値で語れると錯覚してしまうことです。

本来、住宅設計とは「暮らしに合った快適性」を目指すべきものであり、「数値に合わせた暮らし」を強いるものではない。

つまり、G2やG3を盲目的に追い求めることは、かえってライフスタイルとのミスマッチや、無駄なコスト増につながるリスクすらあるのです。次章から数字で解説します。

 

▼断熱等級については、こちらの記事で詳しく解説しています。
断熱等級とは?G1・G2・G3の違いについて|快適な家・注文住宅の断熱性能・基本知識
 

 

 

「G2にすれば光熱費が安くなる」
「快適性も上がるなら高性能なほうが得」
このような考えは一見正しそうに思えることでしょう。

しかし、重要なのはその“差”が実際どれほどで、どれくらいの“コスト”をかけて実現するものなのかという点です。

ここからは、断熱性能の向上にかかるイニシャルコストと、それによって得られる“効果”の実態を数字で見ていきます。
果たして、本当に「賢い選択」なのでしょうか?

 

 

月額1000円の差に数十万円をかけるのが、賢い選択?

断熱等級4(G1相当)からG2・G3に性能を引き上げたとき、たしかに冷暖房費の削減効果はあります。しかし、具体的な数字で比較してみるとどうでしょうか。

たとえば、こちらは、4人家族・延床30坪の住宅での年間冷暖房費の試算です。

断熱等級年間光熱費(目安)月額換算
等級4(G1相当)約8.0万円約6,700円
G2レベル約6.8万円約5,600円
G3レベル約6.0万円約5,000円

つまり、G2と等級4の差は「月1,000円程度」。G3と比較しても月額2,000円の差にすぎません。

ではこの差を生むために、どれだけのコストが必要になるのでしょうか?

 

 

G2/G3にするための追加コストと回収年数

G2基準を満たすためには、断熱材の性能向上、窓の高性能化(トリプルガラス+樹脂サッシ)、気密性向上などの仕様変更が必要です。これに伴うコスト増は、おおよそ120〜250万円

仮にその差額を電気代で回収しようとすると──

・月1,000円の節約 → 年間12,000円
・120万円の回収には「約100年」
・250万円なら「208年」かかる計算です

しかも、設備や断熱材は「数十年の耐用年数」で劣化することも考慮すれば、実質的に回収不可能といっても差し支えないのではないでしょうか?

 

 

もちろん、電気代が今後さらに高騰すればこの差が広がる可能性はあります。しかしそれでも、“コストに見合う性能向上かどうか”は慎重に判断すべきです。

性能が上がれば光熱費が下がる。それは紛れもない事実。
しかし、「それが投資として回収できるのか?」「その費用分で快適性をあげるベスト策なのか?」は、必ず冷静に一考したい問題でしょう。

 

▼省エネ住宅については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【省エネ住宅の真実】断熱・気密・換気・設備・設計|“快適とエコ”を両立する家づくり・注文住宅-5つの核心

 

 

 

「G2対応でも、そこまでコストはかかりませんよ」
そんなふうに説明されることもあります。
たしかに、見積りの中で「断熱グレードアップ:+50万円」などと明示されていれば、それほど大きな負担には感じないかもしれません。回収できるかも!と思ってしまうことでしょう。

ただ、少し冷静になって見てみるといいかもしれません。
その“提示された金額”、本当に全体像を見せるものですか?

 

 

G2仕様にするための実際の追加オプション

▼実際のG2仕様には、下記のように、さまざまな調整とコストが絡みます。

・窓はトリプルガラスに変更
・気密性を上げるための施工手間が増加
・断熱材の厚みや素材の選定
・換気・空調計画の調整
・開口部の制限やプランの制約 など

こういった仕様変更や構造調整を“丁寧に積み上げていく”と、実際にはそれなりのコストが発生している可能性が非常に高いです。では、高断熱化をウリにしたい場合、建築会社は、その金額をどうすることが多いのでしょう?

 

 

見積りのどこかで“吸収”する

断熱強化にかかるコストが、見積書上では意外と小さく見える場合には、それがどこか別の項目で調整されている可能性についても、少し注意してみるとよいかもしれません。

たとえば、次のような2つのケースが考えられます。 

 

 

① 他の仕様が“少しずつ薄くなっている”ケース

・建築材が低グレードに調整されている(仕上げ材の場合もあれば、その他の場合もある)
・照明や設備機器が見えない範囲で低グレードに調整されている
・造作収納や建具の一部も既製品の低グレード
・外構や家具など躯体以外の部分が“別途工事”扱い

こういった仕様調整が組み合わさることで、断熱グレードアップ分が自然に“相殺”されているように見えることもあります。

 

 

② 他の項目が“相対的に膨らまされている”ケース

・仮設工事や諸経費などの「比較されにくい項目」が高めに設定されている
・「標準仕様」の範囲があいまいで、比較しづらい設計になっている
・“基本プラン”が低レベルなのに、そもそも高い
・「うちは標準でG2対応です」と言いながら、その分を諸経費や共通仮設費に回している

こうしたケースでは、見積書を見ただけでは断熱の費用がどこにあるか分かりづらく、「あれ?思ったより高いけど、どこで増えてるのか分からない」断熱性能自体の費用は目立たなくても、結果として総額にはしっかり上乗せされているということも考えられます。

 

 

いずれにしても
「断熱はそこまで高くないですよ」
と言われたとき、その背景にある「全体の費用・総額」と「建物の内容・詳細に至るまで」目を向けてみることが、後悔しない選択のためのひとつの視点になるということに注意しましょう。

・金額の内訳が不透明
・「標準仕様」と「オプション」の境界があいまい
このような場合には、結果的に“気づかないまま高い断熱性能を買わされている”ような状況が生まれることも、可能性としてはゼロではありません。

 

▼こちら↓の記事もおすすめです。
注文住宅は“分離発注”が正解?|建築家とつくる家の進め方と“設計施工一括”との違いをやさしく解説

 

 

 

断熱性能は、たしかに住宅の快適性を支える大切な要素なのは間違いありません。しかし、断熱性能「だけ」に頼るのが問題なのです。断熱等級4でも“設計の工夫”で快適な住まいはつくれます。事実、断熱等級4で全く問題ない、という声は想像以上に多いものです。

ここからは、G2やG3ではなくても“心地よさ”を実現できる根拠を、一級建築士としての視点から解説します。

 

 

日射取得・遮蔽・間取り設計で補える体感温度

実は、住まいの体感温度は、断熱性能だけでは決まりません。日射の取得・遮蔽、そして動線やゾーニングといった「設計要素」と密接に関わっています。

 

日射取得

冬場は太陽高度が低く、南面からの光が室内奥まで届かせる設計が大切です。
南面に大きな窓を設ける設計にすれば、日中は暖房を使わずとも室温が上がり、快適性につながります。断熱材に頼らず「自然の熱」で温める、これが“パッシブ設計”の基本です。

 

遮蔽設計

一方、夏場は逆に日射遮蔽が鍵になります。軒の出を調整したり、外付けブラインドや植栽を計画的に配置することで、日射の侵入をコントロールし、室温上昇を抑えると良いでしょう。

 

間取り・ゾーニング

「冷やす・暖めるべき空間」を絞り込む設計も大切です。家全体を均一に温熱コントロールするのではなく、生活動線と連動した温熱計画にすることで、冷暖房効率を高め、体感的な快適さを向上させることができます。

 

このように、日射と空間構成を設計で調整するだけでも、断熱性能を数ランク分超える体感差を生み出すことは可能なのです。

 

 

素材・天井高さ・気流の工夫が快適性を左右する

体感温度を左右するもう一つの重要な要素が「内装の質感と空気の流れ」です。

 

無垢材や塗り壁の調湿性能

調湿性のある自然素材は、室内の「じめじめ感」や「乾燥感」を和らげ、同じ室温でも“心地よさ”がまるで違います。これが「温度計では測れない快適さ」の正体です。

 

天井高さの設計

天井の高さを変えることで、空気のたまり方や放射熱の影響をコントロールすることも可能です。高すぎる天井は冬に不利、低すぎると夏に熱がこもる。このバランスも建築家の設計力の見せどころです。

 

気流計画(通風設計)

風の抜け方を計算し、空気が滞らない間取りを組むことでも、エアコンに頼らずとも涼しい室内が実現します。たとえば「風が通る玄関土間」や「2階への熱逃げ経路を確保する吹き抜け」などがその一例です。

 

 

住まいは冷蔵庫ではない。

「断熱性能を高めれば、快適な住まいになる」
それはまるで、家を“冷蔵庫”のように考えている発想かもしれません。

でも、私たちは、食品でも機械でもない。
住まいは、人間が“動いて・感じて・整える”空間です。

大切なのは、断熱性能を「構造スペック」として積み上げるのではなく、“設計の知恵”として統合する視点。
そのプロセスがあってこそ、等級4でも驚くほど快適な住まいは実現できます。

快適性は、足し算ではなく最適化のバランス設計で生まれるもの。
スペックに頼らずとも、設計力で整えることができるのです。

 

 

設計とは、本来「骨格をつくる技術」。

・動線や日射の取り込み方
・空間構成や開放の調整
・通風や気流のコントロール
・素材の質感や触感の選定

こうしたハードを構成したうえで、断熱や設備という“ソフト”を最後にどう付加するかが、家づくりの本質です。

冷蔵庫に窓をつければ、快適な住まいになるって? そんなわけがない。
暮らしを“設計”できなければ、どれだけ性能を盛っても、それは、ただの箱なのです。

足し算で考えるの、そろそろやめませんか?

 

▼こちらの記事もおすすめです。
【日本の注文住宅】“気候と風土”パッシブデザイン|断熱・通風・日射・気密 ─自然を活かす家づくり

 

 

 

「G2・G3の断熱性能にすれば、電気代が下がってエコになる」
そんな前提は、果たして、通用するのでしょうか?

かつては“断熱性能こそが快適性と省エネを左右する”と考えられてきました。しかし今、住宅設備は飛躍的に進化し、断熱強化そのものの意義が薄れつつある時代に突入しています。

もはや、“断熱至上主義”は、逆に古いのではないでしょうか?

ここからは、ここまでとはまた違う設備機器の視点から“断熱至上主義”を批判します。エアコン・換気・給湯などの最新設備の性能向上の躍進によって、いかにG2やG3の価値を相対化しているのか。そして、エコやランニングコストの本当の意味を、冷静に捉え直しましょう。

 

 

住宅設備の進化が“断熱スペック”の意味を変えた

現在の住宅設備は、かつての「断熱材頼みの快適性」を設備そのもので上書きしてしまうほど進化しています。

たとえば、設備機器には、次のような技術革新が起こっています。

・高効率エアコン(COP6.0前後)は、少ない電力で強力に冷暖房し、AI制御で快適性を最適化
・全熱交換型換気システムは、換気による温度損失を90%以上カット
・蓄熱式床暖房+深夜電力活用で、昼間の冷暖房エネルギーを最小限に
・スマート制御給湯器・太陽光・蓄電池と組み合わせれば、さらに運用効率が向上

これらの設備をG1等級の断熱住宅に組み込むだけで、実質的に「G2超え」の快適性・省エネ性が実現可能です。

もはや、「断熱材を分厚くすること」だけが“性能の向上”ではありません。

 

 

“G2にすれば電気代が安い”は、もはや幻想では?

「断熱性能を上げれば、電気代が下がる」
それは一部の条件下では正しいでしょう。

しかし、現実は次の通りです▼
・G1→G2にしても月1,000〜1,500円の差
・追加コストは120〜250万円
・回収に50〜200年かかる計算

 

 

さらに重要なのは、最新設備を正しく選定・設計すれば、G1のままでも同等以上の電気代削減が可能ということ。

▼例
・高性能エアコン+通風設計 → 夏の冷房効率アップ
・全熱換気+局所蓄熱 → 冬も安定して暖かい
・太陽光発電+蓄電制御 → 昼夜のエネルギー収支を最適化

このような仕組みによって、“断熱で抑える電気代”より、“設備で制御する電気代”のほうが現実的かつ高効率という逆転が起きてしまいました。

 

 

“エコ住宅=高断熱”というイメージの誤解

高断熱住宅=環境にやさしい、というイメージも、冷静に見直す必要があるのではないでしょうか?

▼ 実は、高断熱住宅の「建設時CO₂」は大きい
・厚みのある断熱材、大量の樹脂窓、施工工程の増加 → 製造・建設段階で大量のCO₂排出。
・トリプルガラスや特殊サッシは将来的な交換・修繕コストも大きい。
・ライフスタイルに合わない断熱過剰は、非効率なエネルギー運用につながるリスクもある。

 

 

▼ 一方、設備中心の省エネ戦略は、次の通りです。
・住み替え・改修・更新がしやすく
・ライフステージに応じて柔軟に構成できる
・必要な分だけ性能を発揮できる設計が可能

つまり“エコ”とは「断熱材の量」ではなく、「全体最適」なのです。

▼住宅設備については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【保存版】注文住宅・設備の選び方|“本当に必要なもの”だけを見極める判断軸と快適性のポイント

 

 

結論|変わる基準、変わらない本質-“最適な暮らし”とは何か?

G2やG3といった断熱性能のグレードは、数値としての優秀さを語るには十分です。
でも、“数値が高いから快適”という判断が、必ずしも暮らしの本質と一致するとは限りません。

今は、設備の進化や設計技術の成熟によって、断熱性能だけに依存せずとも「快適な住まい」を実現できる時代になっています。

 

 

ただ、私たちが本当に問い直すべきなのは、
「G2かどうか」「どんな設備がいいか」ではなく、
“どんな価値観のもとに家づくりをするのか”という判断軸です。

いつの時代も色あせない本質は、「何かを足していく家」ではなく、
「暮らし・設計・設備・全体を最適に組み合わせた、合理的で美しい住まい」。

それは、性能競争が激化する今だからこそ、改めて立ち返るべき“住宅の原点”なのかもしれません。

 

 

スペックで語るのではなく、「思想」で選ぶ家づくりを

高性能を追いかけることも一つの価値観。
でも、それがすべての人にとっての最適解かは、また別の話です。

・暮らし方に合わせて性能を選ぶ
・設計によって体感を整える
・設備によって効率を補う

こうした“統合的な最適化”こそが、どんな時代にも通用する住宅の普遍的価値ではないでしょうか?

数値に振り回されず、もっと自由に、もっと自分らしく。
暮らしを設計するという選択が、結果として「心地よさ」と「合理性」を兼ね備えた住まいにつながっていきます。

 

▼こちら↓の記事もおすすめです。
“暮らしやすい家”のつくり方|建築家が語る-性能では測れない“注文住宅の本質”と“設計の考え方”

 

 

 

「設備が進化しても、G2のほうがやっぱり安心なのでは?」
「G1だと何かあったとき寒くなるのでは?」
そう感じている方もいるかもしれません。

でも、それは“性能ありき”の家づくりに毒されている感覚かもしれません。

結論をはっきり言います。

断熱等級4(G1相当)で、まったく問題ありません。
むしろ、ちゃんと設計していれば、それが最もバランスの取れた住まいになります。

 

 

等級4で心地よい家をつくる鍵は「設計力」にある

断熱等級は、単なる“外皮の性能値”でしかありません。
しかし、快適性や省エネ性は、そこから先の設計によっていくらでも補完・最適化できるのです。

・日射取得と遮蔽の設計
・気流と通風の構成
・天井高さや間取りによる温度層の制御
・適切な空調・換気計画

こういったことを基本設計でしっかりと配慮したうえで、G1水準の断熱性能があれば、暮らしにおいては何の不便もありません。

むしろ、G2・G3を盲目的に追いすぎることで、「設備に金をかける余裕がない」「素材が妥協される」「ライフスタイルに合わない家になる」そんな本末転倒が起きてしまうことは非常に多い。これでは、冷蔵庫、、、状態です。

 

 

“性能の足し算”に振り回されないで

性能は、上げようと思えばいくらでも上げられます。
でもそのぶん、コストは上がり、他を削らなければならなくなる。

・キッチンや設備のグレードを下げる
・素材を量産型にする
・庭や中庭を諦める
・外観デザインがシンプルすぎて面白みに欠ける

それ、本末転倒じゃないですか?

あなたの暮らしに本当に必要なのは、「数字」ではなく、「設計」。
“快適性は買うもの”ではなく、“整えるもの”です。

 

 

でも、、、“オーバースペックが好き”なら、それも選択肢

とはいえ、
「とにかく性能値を極めたい!」
「最新スペックが好きなんだ!」
という方も、もちろんいます。

それが趣味や価値観として“好きで選ぶ”のであれば、G2やG3を目指すこと自体は否定しません。

・高性能住宅というロマン
・数値で管理された環境の安心感
・性能そのものに喜びを感じる生き方

そういった思考は、むしろ潔くて気持ちいい。
“嗜好”だから、正しいかどうかではなく「好きかどうか」で選べばいい」のです。

 

 

結論|「とにかく断熱!」とジタバタする必要はない

G2じゃなくても、ちゃんと設計すれば快適。
G3を選ぶなら、それは“好き”で選べばいい。
「とにかく断熱!」とジタバタする必要なんて、もうありません。

快適にしたいなら、設備もありだし、断熱もありだし、建築のハード面で解決もあり。

ただ、最適化とバランスは忘れないで。

あなたの家は、あなたの暮らしのためのもの。
スペックに振り回されず、設計の力で整えた“心地よさ”こそが、最良の住宅性能だと私たちは信じています。

 

▼断熱等級・断熱性能の選び方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【断熱性能】断熱等級の正解は?|G1・G2・G3 ─ “暮らしに合った基準”で判断する注文住宅-最適なバランス設計とは?

 

 

 

「とにかくG2にすれば安心」
「断熱を妥協すると後悔するって聞いた」

そんな不安から、性能を追いかけすぎてしまうケースは決して少なくありません。
でも実際には、“数字の高さ”がそのまま暮らしの満足度につながるとは限らないようです。

ここからは、断熱スペックを優先しすぎた家づくりが、思わぬギャップや違和感を生むこともあるという視点から、いくつかの可能性を整理してみます。

 

 

① 断熱性能に注力しすぎて、他の部分が物足りなくなることも

G2・G3に対応するためには、窓をトリプルガラスにしたり、断熱材を厚くしたり、気密施工をより高精度にする必要があります。
その結果として、初期コストが+100万円〜200万円程度増えることも。

そうなると、限られた予算の中で、例えば、次のような、その他の部分に調整が必要になります。

・内装仕上げや素材選びがシンプルになる
・設備や造作で妥協せざるを得なくなる
・外構や中庭などが“断熱に不利”として見送られる
・意匠より性能優先で、外観がやや機能的に寄る

結果として、「性能は高いけど、なんとなく物足りない」と感じてしまう可能性は大いにあることでしょう。

 

▼窓の断熱については、こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【断熱・気密】注文住宅の性能は「窓」で決まる|サッシとガラスの選び・種類・特徴・注意点まとめ

 

 

② 数値は高いけど、体感が思ったほどじゃない

「G2にしたのに、冬は足元が冷える気がする」
「日射が強くて、結局夏は暑いまま」
そんな感想も、実際には聞くことがあります。

これは、断熱性能そのものは高かったとしても、実際の“体感の快適性”は設計に左右されるからです。

▼例
・日射遮蔽が足りなければ、G3でも夏は暑くなる
・間取りや通風設計が甘いと、湿気や熱がこもる
・エアコンの位置や吹き出し方向次第で、温度ムラができる

数値上の性能だけではコントロールできない部分があることも、念頭に置いておきたい視点です。

 

 

③ 将来の更新や改修が、やや制限されることもある

G2やG3に対応した住宅は、断熱材や窓、気密性能などが高度に設計されています。
そのぶん、将来のメンテナンスや改修にひと手間かかる可能性も。

・トリプルガラスサッシの交換が高額になる
・配管類が断熱層に埋め込まれていて、交換に壁を開ける必要がある
・高気密仕様ゆえに、換気設備がメーカー指定品に限定されやすい

こういったことが、30年後のタイミングで負担として感じられる可能性も考えられます。

 

 

まとめ:スペックの“高さ”が、必ずしも“暮らしやすさ”とは限らない

もちろん、G2やG3がダメというわけではありません。
ただ、性能を優先しすぎることで、本来こだわりたかった空間や暮らし方が見えにくくなってしまうこともあるという点には、少し注意が必要かもしれません。

断熱性能はあくまで“手段”。
暮らしに合ったバランスで、必要十分な性能をどう引き出すかが、心地よい家づくりの鍵になるはずです。

 

▼断熱・断熱材については、こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【断熱・完全ガイド】注文住宅の断熱を徹底解説|基本・性能・種類・メリット・注意点-“世界で最も優秀な断熱材”とは?

 

 

 

ここからは、「G2・G3って本当に必要?」「等級4でも大丈夫なの?」といった、断熱性能に関してよく聞かれる質問に対して、一級建築士としての視点でお答えします。

 

Q1|断熱等級4で本当に寒くないんですか?

A:正しく設計されていれば、まったく問題ありません。

日射取得・遮蔽・通風設計・間取り構成・気流設計──これらがしっかり考慮されていれば、G1(断熱等級4)でも冬は暖かく、夏は涼しく暮らせます。
むしろ、数字に頼らず“快適性をデザインする力”こそが設計の本質です。

▼こちら↓の記事もおすすめです。
風通しのいい家のつくり方|自然通風を活かす快適な間取りと窓配置-後悔しない通風計画のポイント

 

 

Q2|G2にしておいた方が、将来売却時に有利では?

A:少なくとも現在の中古市場では、ほとんど影響ありません。

中古住宅において「断熱等級いくつか」で価格差が明確になる事例は稀です。
それよりも、デザイン・立地・素材・空間性のほうが評価されます。
G2だから高く売れる、という保証は一切ありません。

 

 

Q3|「光熱費が安くなるからG2のほうが得」というのは?

A:追加投資を回収できるほどの差は出にくいです。

G2への断熱強化に必要なコストは120〜250万円ほど。一方、月額での電気代差は1,000〜1,500円。
単純計算で回収に50〜200年かかるケースもあります。
しかも、最新の設備をうまく使えば、G1でも光熱費は大幅に抑えられます。

 

 

Q4|じゃあG2やG3にする意味って、本当にないの?

A:「どうしても性能を極めたい」なら、アリです。

性能を「安心」や「趣味」として楽しむなら、それも一つの選択です。
ただし、それは“嗜好”として選ぶもの。
「G2じゃないと失敗する」とか「G2じゃないと損する」と思い込んで選ぶと、後悔につながる可能性があります。

 

 

Q5|断熱よりも“設計力”が大事というのは本当ですか?

A:断熱性能は、設計次第で“超えられる”要素のひとつです。

数値スペックが全てではありません。
たとえば、吹き抜け・中庭・通風・素材の選定など、空間的な工夫で“体感の快適性”は驚くほど変わります。
建築家の設計力は、数値以上の快適性を「調整・設計」できる技術です。

 

 

断熱等級を上げれば、快適な暮らしになる・・・
そんな前提で家づくりを考える人は、少なくありません。
しかし、「高断熱=快適」という単純な方程式が通用しない時代に、私たちは生きています。

本当に重要なのは、性能の“高さ”ではなく、
それをどう設計に組み込み、暮らしに活かすかという“バランス”です。

 

 

▼本記事では、「高断熱=快適」という常識を見直すために、以下の視点から整理してきました。

・「G2が正解」という思い込みが生まれた背景と、それが信仰化した理由
→ なぜ多くの人が「断熱性能=家の価値」と信じるようになったのかを冷静に振り返り。

・“月1,000円の光熱費差”に、100万円単位の初期投資は本当に合理的か?
→ 費用対効果を具体的な数値で検証し、性能を足すことの意味を再考。

・最新設備の進化が、断熱性能の価値を相対化しているという事実
→ 設備と設計次第で、G1でもG2以上の快適性を実現できる可能性があることに着目。

・“設計力”こそが、等級4でも快適な暮らしを叶えるカギであるという思想
→ 断熱性能は、数値ではなく“設計から統合されるべきもの”であるという軸を提示。

・「やりすぎた断熱」で起こる、暮らしやデザインとのミスマッチ
→ 性能を優先したことで、かえって快適性や暮らしやすさを損なった事例を紹介。

・「それでもG2にしたい」という嗜好も肯定したうえで、設計軸の再提案
→ 性能信仰を否定するのではなく、「自分に合った快適性とは何か」を設計から考える価値を共有。

 

 

高断熱住宅の本質的な価値とは、「スペックが高いこと」ではなく、小さなエネルギーで、暮らしの心地よさを保てることにあります。

そして、その心地よさは「スペックを積み上げる」ことで生まれるのではなく、設計力によって統合的に最適化されたときにはじめて実現されるものです。

 

 

数字を整えるだけでは、本当に心地よい住まいにはなりません。
敷地・暮らし・動線・日射・素材──それらすべてを設計に落とし込み、“ちょうどいい断熱”を見極めてこそ、快適性は「暮らしの中で実感できる価値」へと変わります。

まだ、性能を“足し算”で選びますか?
それとも、“最適化”という視点から、住まいの本質を見据えて、デザインしていきますか?

 

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【後悔しないために】長期優良住宅は本当に損しない?|補助金・資産価値・寿命のウソと真実【注文住宅の落とし穴】

 

 

暮らしに寄り添う“断熱の最適解”を、建築家と一緒に設計しませんか?

私たち設計事務所では、G2・G3といった基準に頼るだけでなく、敷地・暮らし方・空間の関係性を丁寧に読み取りながら、“設計から生まれる快適性”を大切にしています。

・暮らしと断熱のバランスを、数字以上に深く考えたい方
・適度な高性能化によって、合理的で美しい住まいを求める方
・「断熱」と「間取り」「空間体験」を一体で考えたい方

「ただ暖かい家」ではなく、
心地よく、整った暮らしができる家
そんな住まいを、私たちと一緒にかたちにしてみませんか?

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参考資料・公的機関リンク一覧

国土交通省|国土交通白書 2022|住まい・建築物の脱炭素化に向けた取組みの課題と方向性
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r03/hakusho/r04/html/n1211000.html

国土交通省|建築物省エネ制度に関する資料①
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/kenchikubutsu_energy/pdf/014_s01_00.pdf

国土交通省|建築物省エネ制度に関する資料②
https://www.mlit.go.jp/common/001585664.pdf

国土交通省|木造戸建住宅の仕様基準ガイドブック(第3版・4〜7地域・省エネ基準編)
https://www.mlit.go.jp/common/001586400.pdf

経済産業省 資源エネルギー庁|省エネ住宅
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/housing/

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