【日本の注文住宅】“気候と風土”パッシブデザイン|断熱・通風・日射・気密 ─自然を活かす家づくり

「せっかく家を建てるなら、夏は涼しくて、冬はあたたかく暮らしたい」
そう思うのは、きっとどなたにとっても自然なことだと思います。

ただ、私たちが暮らす日本という国の気候は、少し複雑です。
地域によって気温差が大きく、四季の変化も激しい。
梅雨には湿気が増し、夏は蒸し暑く、冬は冷え込む日が続きます。
そんな環境の中で、いつでも心地よく過ごせる住まいをつくるには、「性能」を上げるだけでは、どうしても限界があると言えそうです。

 

 

たとえば、断熱材を厚くしても、日差しの入り方や風の抜け方が悪ければ、かえって室温は不安定になりがちで、逆に、性能を必要以上に上げすぎてしまうと、コストがかさむばかり。

数値に強くこだわった結果、「そこまで必要だったのかな…」と思うくらいならまだしも、何百万円も追加費用を払ったのに「なんか心地いい家じゃない」と後悔してしまう方すら、いらっしゃいます。

 

 

そこで大切になるのが、その土地の“気候”と“風土”に寄り添った設計
つまり、「自然の力を上手に活かす」という考え方です。

これは、パッシブデザインと呼ばれる建築の設計手法です。
断熱や気密といった性能面だけでなく、通風や日射、蓄熱といった自然の力を設計で整えることで、機械に頼らずとも快適な空間をつくる
それが、昔から日本の家づくりに受け継がれてきた知恵でもあります。

 

 

そこで本記事では、一級建築士の視点から「気候と風土に寄り添う家づくり」について、断熱・通風・日射・気密、そして蓄熱や間取りまで含めて、パッシブデザインについて、丁寧にご紹介します。

どうすれば、本当に心地よく、長く快適に暮らせる住まいができるのか?
「性能だけでは語れない家づくり」の本質を、じっくりとお伝えしていきます。

 

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「高断熱=快適」は真実か?|断熱等級4でも“心地よい家”をつくる注文住宅の賢い戦略 ─ オーバースペックは大きな損?

 

 

Table of Contents

 

パッシブデザインを解説にするにあたり、まずは、日本の気候と風土が家に与える影響について整理しましょう。

家づくりにおいて、「気候」や「風土」といった言葉は、どこか抽象的に聞こえるかもしれません。
けれども、実際に暮らしの快適さを左右しているのは、まさにこのような「自然環境の性格」そのものです。

住宅性能に関する数値、例えば、断熱等級やUA値などは目に見えて比較しやすい指標ですが、その一方で、「その土地にどんな風が吹くか」「どこから日差しが入るか」「夜間の温度はどれくらい下がるか」といった情報は、カタログには載っていません。

でも、こうした目に見えない“気候の個性”こそが、住宅設計に最も影響を与える条件です。

 

 

高温多湿と低温乾燥──四季がつくる“快適性の矛盾”

日本の最大の特徴は、「四季がある」という点に尽きます。

▼日本の一般的な四季の特徴
・夏は35℃近い暑さと、じっとりとした湿気。
・冬は0℃を下回る寒さと、乾燥した冷たい空気。
・春と秋は短く、変化が激しい。
・梅雨や台風の時期は、湿気・風・雨の影響が一気に襲ってくる。

 

 

つまり、日本の家は、夏と冬で“真逆の性質をもった自然環境”の中、快適性をどう確保するかという課題を常に抱えています。

当然ながら、夏と冬では、次のように、快適性に必要なアプローチがまったく異なります。

季節問題求められる設計
暑さ・湿気日射遮蔽・通風・排熱・除湿
寒さ・乾燥日射取得・断熱・蓄熱・気密

このように、相反する性質をもった自然の力を“どう整えるか”。それが、日本の住宅設計の最初の出発点です。

 

 

地域ごとに違う、風土と気候の“クセ”

加えて、難しい、ややこしいのは、日本は南北に長く、東西でも気候差が大きいということです。
つまり「日本の家」とひとくくりにはできず、地域によって住宅の設計要件が変わるのです。

たとえば…
・北海道・東北:冬の寒さが厳しく、断熱・気密の優先度が非常に高い。
・関東・中部:梅雨の湿気、夏の暑さ、冬の乾燥。どれもバランスよく対策が必要。
・西日本:台風や強風・強い日差し。日射遮蔽や防風性が重要。
・日本海側:冬の降雪や曇天が多く、日射取得が貴重。
・沖縄:強い日差しと高湿度。通風設計が命。

このような違いを無視して「高断熱の家」として一律に考えてしまうと、その土地の暮らし方にフィットしない“重たい住まい”になってしまうこともあるのです。

 

▼断熱等級・断熱性能の選び方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【断熱性能】断熱等級の正解は?|G1・G2・G3 ─ “暮らしに合った基準”で判断する注文住宅-最適なバランス設計とは?

 

 

昔の日本家屋が持っていた“設計的合理性”

ここで少し視点を変えて、昔の日本の家を思い出してみましょう。

・深い軒や庇
・高窓や欄間(らんま)による通風
・縁側や土間空間
・障子によるやわらかな日射調整
・夏に外して冬に使う建具の切り替え文化

これらはすべて、風土に適応する知恵の集積でした。
現代では「性能」という言葉で測ることが多いですが、“設計力”によって自然と整えられていた快適性が、日本の伝統的な家屋にはありました。

このような先人の知恵を現代に応用することこそ、パッシブデザインの真髄です。

 

 

まとめ|気候と風土は、住宅設計の“前提条件”である

高性能化・工業化が進む今の住宅業界では、どうしても「断熱等級」「性能値」に注目が集まりがちです。
しかし、日本の住環境を本当に快適に整えるためには、まず“風土”を読むことがすべてのはじまりです。

目に見えない「気候の性格」を読み解き、それに合わせて「断熱・通風・日射・気密・蓄熱・間取り」を組み合わせる。その積み重ねの先に、本当に心地よい住まいが生まれるものではないでしょうか?

 

▼断熱等級については、こちらの記事で詳しく解説しています。
断熱等級とは?G1・G2・G3の違いについて|快適な家・注文住宅の断熱性能・基本知識

 

 

 

どれだけ断熱性能を高めても、どれだけ設備機器を入れても、「暑い」「寒い」と感じる家は、どうしても存在してしまいます。

それは、家という空間が単に“箱”ではなく、空気の流れ・日差しの動き・人の暮らしと深く関わっているから。

「快適な家」「心地よい住まい」は、“性能値の高さ”だけでつくることはできません。
それよりも大切なのは、“気候と共に暮らす”という前提で、住まいの形や中身を整えること。つまり、「設計そのもの」なのです。

ここからは、気候に逆らわない住宅を整えるには、どのような設計が必要なのか、掘り下げていきましょう。

 

 

断熱・気密に頼りすぎない発想

もちろん、断熱性能や気密性能はとても重要です。
とくに冬場の寒さにおいて、熱を逃がさない工夫は暮らしの快適性に直結します。

しかし、どんなに性能を高めても、「夏の強烈な日差し」や「梅雨時期の湿気」までは、それだけで防げません。

例えば、断熱性能だけで無理にすべてを解決しようとすると・・・
・夏に熱がこもって逃げず、かえって暑く感じる
・湿気のこもる空間になり、カビや結露が発生しやすくなる
・空調機器に頼る頻度が増えて、電気代やメンテナンスの負担が増える

こうしたトラブルは、断熱至上主義の落とし穴でもあります。

大切なのは、「断熱=正義」ではなく、地域性や暮らし方に応じて“ちょうどよく整える”という視点です。

 

 

“整える”設計とは、どういうことか?

では、整える設計とは、どのような設計を指すのか?

それは、自然の力を読み、それを活かせるように住まいを設計することです。

具体的には…
東西南北の方位を読み、日差しの入り方・遮り方を工夫する
風の通り道を読み、通風の抜けやすい間取りにする
温まりすぎ・冷えすぎの空間ができないように、ゾーニングや素材の調整を行う
・季節ごとの温度・湿度の変化を予測し、住まい全体の温熱環境を“呼吸”するように整える

これは機械や数値に頼るのではなく、「住まいの自然な在り方」をデザインするという考え方です。

 

 

「性能」ではなく、「考え方」でつくる快適性

断熱性能や機密性、設備機器のスペックなどは、あくまで“手段のひとつ”にすぎません。

手段よりも重要なのは、その手段をどこで・どれくらい使うかを判断する“考え方”ではないでしょうか?

たとえば…
・北側に大開口をとってしまえば、冬は寒く、夏も暗くなる
・南側に庇がなければ、夏に直射が入りすぎてエアコンが効かない
・建物の配置を考えずに建てれば、風の通り道がふさがれ、熱がこもる

これはすべて、「設計」で解決できたはずの課題です。
逆に言えば、設計さえ整っていれば、過剰な性能や機械に頼らずとも、“ちょうどいい快適さ”を得ることができるのです。

 

 

「機械に頼らない快適性」という考え方

現代の住まいでは、エアコンや換気設備、床暖房などの機械設備に頼るケースが増えています。
もちろんそれも便利な手段ではありますが、機械には次のような課題も。

・故障する
・メンテナンスが必要
・電気代がかかる
・使用タイミングによっては温度ムラが出る
・家の“静けさ”や“空気感”が失われる

それに比べて、設計によって整えられた自然な快適性は、静かで、穏やかで、身体にやさしいのが特徴です。

まさに、暮らしの「質」を高める設計と言えるのではないでしょうか。

 

 

まとめ|快適性は“設計の力”でこそ整えられる

断熱材や気密シートをどれだけ厚くしても、「気候そのものを変える」ことはできません。
でも、その気候にどう向き合うか、どう調和させるかは、「設計次第」で大きく変えられます。

「気候に逆らわないこと」
それは、自然を受け入れ、整えて、寄り添うこと。
そんな家づくりが、これからの注文住宅には、ますます求められていくのではないでしょうか。

 

▼こちらの記事もおすすめです。
【省エネ住宅の真実】断熱・気密・換気・設備・設計|“快適とエコ”を両立する家づくり・注文住宅-5つの核心

 

 

 

ここからは、具体的なパッシブデザインの手法をご紹介します。

自然の力を活かして、機械に頼らず快適性をつくる。
そのために必要なのが、パッシブデザインの「5つの基本要素」です。

1.断熱

2.気密

3.通風

4.日射(取得と遮蔽)

5.蓄熱・放熱

これらは、ただ単に“性能を高める”のではなく、設計的にバランスをとって整えることが求められます。

それぞれ詳しく解説します。

 

 

① 断熱|熱を「入れない・逃さない」基本技術

断熱とは、外の暑さ・寒さを室内に影響させないようにする技術です。
屋根・外壁・床下・窓などを断熱材で覆うことで、室内の温熱環境を安定させます。

特に冬は、せっかく温めた室温を外に逃がさないために、断熱は非常に効果的。
夏も、外の熱気が室内に伝わるのを防ぎます。

ただし、断熱材の性能を上げすぎると、夏場に熱が“こもる”原因にもなります。
また、断熱の効果は窓からの熱の出入りにも大きく左右されるため、「窓の配置」「窓の断熱性能」も重要な設計ポイントです。

 

▼断熱・断熱材については、こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【断熱・完全ガイド】注文住宅の断熱を徹底解説|基本・性能・種類・メリット・注意点-“世界で最も優秀な断熱材”とは?

 

 

② 気密|空気のスキマをなくして、温熱を安定させる

気密性は、家の隙間から空気が出入りする量をどれだけ抑えられるかを示すものです。
断熱とセットで考える必要があり、隙間風や外気の侵入を防ぐ役割を持っています。

気密が弱いと…
・冬は冷気が入ってくる
・夏は湿気が侵入しやすくなる
・換気計画がうまくいかず、空気がよどむ
・エアコン効率が悪くなる

そのため、断熱性能が高い家ほど、気密性の確保は必須
気密測定(C値)の目安としては、1.0以下がひとつの基準になります。

 

▼断熱・気密は窓が重要。こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【断熱・気密】注文住宅の性能は「窓」で決まる|サッシとガラスの選び・種類・特徴・注意点まとめ

 

 

③ 通風|「夏の逃げ道」を設計でつくる

通風とは、風の力を使って室内にたまった熱や湿気を逃がす工夫です。
特に夏は、いくら断熱しても、家の中に熱がたまってしまいます。
このとき、自然の風を活かして排熱・除湿できる構造が重要になります。

▼通風設計では次のようなポイントが大切です。
・開口部(窓)の位置とサイズ
・風が入る窓と抜ける窓の“対角配置”
・高低差を使った「重力換気」や「煙突効果」
・夜間通風による夜の熱気排出(ナイトパージ)

ただ窓をたくさんつければいいという話ではありません。
その土地で吹く風の方向や強さ、周辺の建物との関係まで考えて設計する必要があります。

 

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風通しのいい家のつくり方|自然通風を活かす快適な間取りと窓配置-後悔しない通風計画のポイント

 

 

④ 日射|取得と遮蔽を“季節で切り替える”考え方

日射設計には、「取得」と「遮蔽」という正反対のアプローチがあります。

・冬は、太陽の光と熱を室内に取り込みたい(取得)
・夏は、強い日差しを室内に入れたくない(遮蔽)

ここで重要になるのが、庇(ひさし)や軒の出です。
日本の太陽は、冬は低く、夏は高い角度から差し込みます。

その違いをうまく活かして、

・夏は庇で日射を遮り、
・冬は奥まで日光を差し込ませる

という「季節に応じた日射量をコントロールする設計」が理想的です。
さらに、落葉樹や植栽、外付けブラインド、障子なども、「日射を整える道具」として設計に取り入れることができます。

 

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【庇・軒】良い家の条件は“深い庇”-建築家が解説|役割・設計ポイントとデザインの工夫

 

 

⑤ 蓄熱・放熱|“熱の貯金”で室温を安定させる

最後に大切なのが、蓄熱と放熱という考え方です。
これは、「昼間に得た熱を室内にためておき、夜にゆっくりと放出する」ことで、室温の安定感を高める工夫です。

▼例
・土間やモルタル、タイルの床材
・コンクリートの蓄熱壁や蓄熱床
・厚みのある左官仕上げの壁面

このような工夫は、日中に太陽熱をゆっくりと吸収し、夕方以降にゆるやかに放熱することで、エアコンに頼らなくても一定の快適さを保つ助けになります。

一方で、夏場に不要な熱をため込んでしまうと逆効果になるため、日射遮蔽との組み合わせが不可欠です。

 

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まとめ|“整える技術”としての5要素

断熱・気密・通風・日射・蓄熱
これら5つは、どれか一つだけを突出させるのではなく、全体をバランスよく整えることが大切です。

つまり、パッシブデザインとは「性能を高める競争」ではなく、自然を読み、味方につけ、無理なく調和させるための設計手法なのです。

次章では、この5つの要素をどのように実践的に組み合わせていくか、より具体的な事例・設計テクニックを交えてご紹介していきます。

 

 

 

パッシブデザインの基本的な考え方は、「自然とどう付き合うか」を設計で整えることでした。
ここからは、それを実際の住まいにどう反映させるのか、設計者が現場で行っている具体的な工夫を紹介していきます。

性能や数値に現れない「設計の力」。
それこそが、自然を活かしながら暮らす家の“本当の快適性”につながるのです。

 

 

庇・軒・植栽で“季節の太陽”をコントロールする

まず初めに紹介するのは、庇・軒といった日射コントロールの手法です。

日射のコントロールは、パッシブ設計の根幹にある考え方。
特に庇や軒の出は、シンプルで効果が高いパッシブ要素として重宝されます。

夏の高い太陽は、庇がしっかりと遮ってくれる。
冬の低い太陽は、庇の下をくぐって室内まで光を届けてくれる。

この「角度の違い」を設計に取り込むことで、四季に応じて自然に日射量を調整できる家が生まれるのです。

 

 

また、庇や軒の他にも、植栽という方法もあります。

「落葉樹」を窓の外に植えることで、
・夏は葉が茂って日差しを遮り
・冬は葉が落ちて光を取り入れる

という自然な日射調整が可能になります。

さらに、庭の設計にも通じる話ですが、“植栽も建築の一部”として考えることは、パッシブ設計の実践において非常に重要です。 

 

 

吹き抜け・高窓で風と光をデザインする

家の中の空気は、単に「上から下へ」「右から左へ」とは動きません。
空気の動きには温度差・気圧差・空間のつながりが影響します。

たとえば、吹き抜けに高窓(ハイサイドライト)を設けることで…
・室内の上部にたまった暖かい空気を抜き
・代わりに低い窓から涼しい空気を呼び込む
という、“煙突効果”を利用した自然通風が実現します。

これは、機械ではつくれない「動きのある空気環境」です。

また、高窓から取り込むやわらかな光は、日中も照明を必要としない明るさを室内にもたらしてくれます。
特に、建物が密集した都市部では、上からの採光をうまく使う設計が快適性の鍵になります。

 

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吹き抜けのある注文住宅|その魅力と後悔しないための間取りの注意点・メリット・デメリット・対策

 

 

土間・コンクリート床で“熱を蓄える”床設計

蓄熱の視点で考えると、室内に熱容量の高い素材を取り入れることが効果的です。

・コンクリート
・モルタル仕上げ
・タイル貼り
・厚みのある左官仕上げの壁や床

こうした素材は、日中に太陽の熱を受けてゆっくりと蓄え、夜間にやさしく放熱します。

 

 

特に、南側に土間空間を設ける設計は非常に有効です。

・冬は日射を土間でしっかり受け止め、夕方以降も室温が安定する
・夏は庇で日射を遮り、冷たい床が心地よい空間になる

このように、土間は単なるデザインや趣味の空間ではなく、蓄熱体として非常に合理的な機能を果たしているのです。

 

 

間取りで「暑い部屋」と「涼しい部屋」を使い分ける

通風や日射の設計と同じくらい大切なのが、「間取りそのものによる快適性のコントロール」です。

▼例
・南側にリビングを設けて、日射取得と蓄熱を活かす
・夏の暑さが厳しい西側には、収納や浴室を配置して居室を守る
・日中に日が差し込まない北側には、書斎や寝室を設ける
・吹き抜けや階段室を通風経路として活用する

これは、ゾーニング設計(空間の配置計画)と呼ばれる手法です。

特に、夏と冬で“暮らすエリア”を自然に使い分けられるように設計することで、冷暖房を無理に使わなくても、過ごしやすさを感じられる住まいが実現できます。

 

 

パッシブ設備との併用で快適性を底上げする

自然の力を最大限活かしつつ、必要に応じて機械設備を“部分的に補助として”使う考え方も有効です。

床下エアコン:冬の蓄熱床と組み合わせて足元からやさしい暖房を
小型の全館空調:断熱・気密が整った住まいで効率よく運転
自然換気+熱交換換気の併用で、空気を入れ替えながら熱を逃さない

これらの機器は、あくまで「整った設計をベースに、無理なく補完する」という位置づけです。

最初から設備でカバーしようとするのではなく、設計で8割整え、残り2割を設備で補う
これが、パッシブ×設備の理想的なバランスだといえます。

 

▼住宅設備については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【保存版】注文住宅・設備の選び方|“本当に必要なもの”だけを見極める判断軸と快適性のポイント

 

 

まとめ|“工夫こそが、快適性を高めるデザイン”

ここでご紹介した工夫は、すべて高価な機器を使うものではありません。
むしろ、設計の工夫ひとつで手に入れられる快適性ばかりです。

・光の入り方を読み、日射を調整する
・風の抜け道を考え、空気を動かす
・熱をためて、静かに放つ
・間取りで、自然と「心地よい場所」をつくる

こうした設計的工夫こそが、家をただの“器”ではなく、暮らしを育てる“環境”に変える力になるのです。

 

 

 

「自然を活かした住まいがいい」
「断熱性能はしっかりしておきたい」
「通風や日射もちゃんと考えてもらいたい」

そうした意識の高まりとともに、パッシブデザインへの関心が少しずつ広がってきました。
しかしその一方で、“やっているつもり”なのに、快適性を損なってしまうケースも少なくありません。

ここからは、建築の現場でよく見かける失敗の典型例を紹介します。
どれも、意識して避ければ防げることばかりです。

 

 

①「G2以上にすれば快適になる」という性能信仰

最近では「断熱等級G2・G3対応」という言葉が、建築業界で当たり前のように使われています。
高性能な家ほど快適・・・そう信じたくなる気持ちは、よくわかります。

しかし、実際には「G2だから快適」「G3だから完璧」ではないのです。

たとえば…
・窓が多すぎて、冬の放熱ロスが大きくなる
・南側に庇がなく、夏の日射が容赦なく差し込む
・通風経路が設計されておらず、風が滞る
・日射取得を考えず、真冬も暗くて寒い

このように、“性能”だけに目を奪われて、設計的な配慮が抜け落ちると、かえって“重たくて息苦しい家”になってしまうことは十分にありえます。

性能は重要ですが、性能はあくまで“道具”であり、“目的”ではないという視点が必要です。

 

 

② 間取りで「風」と「光」を止めてしまう

プラン集や規格住宅をベースにした家づくりでは、通風や日射の流れが設計に反映されていないケースがよくあります。

・南側に大開口があるのに、庇がない
・西側に寝室を配置し、夏の夕方が耐えられない
・吹き抜けを設けたのに、高窓がなく、風が抜けない
・キッチンや水回りが家の中心にあり、熱と湿気がこもる

これはまさに、“紙面上の便利さ”が“体感としての快適性”を妨げている例です。

パッシブデザインにおいては、間取り=性能とも言えるほど、空間の配置が重要です。
空気・光・熱の流れは、図面の線1本で大きく変わってしまいます。

 

 

③「パッシブ=設計費が高い」という誤解

「パッシブデザインって、お金がかかるんでしょ?」
そう思われている方も、実際には少なくありません。

しかし実際には、設計の工夫で整える快適性は、むしろコストを抑えることにもつながります。

・庇や植栽で日射遮蔽を整えれば、外付けブラインドは不要に
・通風計画がしっかりあれば、機械換気のグレードを落とせる
・蓄熱床で室温が安定すれば、冷暖房設備が最小限に

つまり、「初期コストをかけずに、住み心地を良くする」のがパッシブデザインの本質です。

それなのに、十分な設計時間が取れず、“とりあえず性能アップで対応”となってしまうと、かえって割高な住まいになってしまうのです。

 

  

④ 通風設計が“ただの開け閉め”になっている

通風について、「風が通ればいいんでしょ?」と、ただ開口部の数や配置だけで済ませてしまうケースもあります。

しかし、風は常に同じ方向から吹くわけではありません。
日中と夜間、夏と冬で風向きも強さも変わります。
さらに、周囲の建物や道路、塀、隣家との距離なども影響します。

このように、通風は、“立体的な設計”が求められる分野です。

 

 

・高低差をつけた窓配置
・建物の形状による風の巻き込みの回避
・窓の種類(縦すべり・横すべり・引き違い)の選定
・採光・採風両面を考えた開口計画

「風が通る家」ではなく、「風が流れる家」を意識することが、失敗を防ぐ鍵です。

 

  

⑤ 冬の日射取得を軽視してしまう

「夏が暑いからとにかく日差しを遮ろう」
この発想だけで設計してしまうと、冬の寒さが厳しい家になってしまいます。

特に、日本海側・中部内陸部・東北など、冬に晴天が少なくなる地域では、貴重な日射をいかに室内に取り込むかが快適性を左右するものです。

・南面にしっかり窓をとる
・庇の奥行きを適切に設計する
・窓から入った熱を蓄える床や壁の素材を選ぶ
・朝日・夕日などの低い光を拾う位置に開口部を配置する

こうした工夫がないと、断熱性能が高くても「寒い家」になってしまうので十分に注意しましょう。

 

 

まとめ|全体を整える設計を飛ばしていませんか?

快適な住まいを考えるとき、まず見直したいのは、「整える設計」を飛ばしていないかという視点。

どんなに高性能でも、どんなに最新でも、それだけでは“心地よさ”にはつながりません。
自然の光や風、四季の変化を読み取り、暮らしに寄り添う設計を整えること。
その積み重ねが、快適な住まいをつくる上で、いちばんの近道になるのではないでしょうか。

 

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“暮らしやすい家”のつくり方|建築家が語る-性能では測れない“注文住宅の本質”と“設計の考え方”

 

 

 

「断熱はG2以上じゃないとダメ?」
「都市部で通風なんて本当に効くの?」
「パッシブって高そう…」

省エネ性能や補助金制度、トレンド設備などに注目が集まる今、パッシブデザインの重要性が高まっています。

けれどその本質は、難しい数値や流行の技術ではなく、「自然の力をどう活かし、どう暮らしに整えるか」という、極めて実用的な“設計の知恵”。

ここからは、そんなパッシブデザインにまつわる素朴な疑問に、建築家の視点からお答えします。
これから家づくりを考える方にとって、“快適さの本質”に触れるヒントになれば幸いです。

 

 

Q1|断熱性能がそこまで高くなくても快適に暮らせますか?

はい、設計がしっかりしていれば、断熱等級4前後でも十分に快適な住まいを実現できます。

重要なのは、「断熱を上げること」だけでなく「熱の出入りを設計で整えること」。
たとえば、日射取得や遮蔽、通風設計、蓄熱の考え方を丁寧に組み込むだけで、冷暖房の負荷を抑えつつ快適性を保つことができます。

むしろ過剰な断熱は、コストや温熱バランスの点で逆効果になる場合もあるため、「ちょうどいい性能」を目指すことが理想です。

 

 

Q2|通風って本当に効果あるんですか?都市部でも?

通風の効果は、設計次第で大きく変わります。

都市部の密集地でも、
・風の通り道を確保した窓配置
・高低差をつけた開口計画(煙突効果)
・風向きを読む建物配置

このような工夫で、夏場の夜間通風や換気効果を得ることは可能

ただし、計画されていない通風は「なんとなく風が通るだけ」になるため、設計の段階で“風をどう流すか”を明確にすることが大切です。

 

 

Q3|蓄熱って夏は逆効果じゃないですか?

おっしゃる通り、夏に日射が直接当たると、蓄熱体が“熱だまり”になるリスクはあります。

だからこそ、蓄熱を活かすには“日射設計とのセット”が必須です。

・夏は庇やブラインドで直射を遮る
・冷たい空気を夜間に取り込んで、床を冷やしておく
・冬だけしっかり蓄熱し、夏は「冷気を逃がさない構造」に切り替える

このような“季節ごとに制御できる工夫”の設計こそ、パッシブデザインの醍醐味でもあります。

 

 

Q4|設備とパッシブデザインって両立できるんですか?

もちろんです。
パッシブ設計は「設備を使わない」のではなく、“設備に頼りきらない”ことが本質です。

▼例
床下エアコンと蓄熱床の併用
全館空調と断熱・気密の整合性
・換気設備と自然通風の補完関係

むしろ、パッシブデザインの家の方が、設備の効率がよくなり、光熱費やランニングコストも下がるというメリットすらあります。

 

 

Q5|間取りって快適性にそこまで影響するものですか?

間取りは、快適性の“源”です。

どこに日が差し込むか。どこに風が流れるか。どこで熱がたまるか。
それはおおよそ「空間の配置=間取り」で決まります。

▼例
・日射を受ける南側にリビングを配置する
・収納や水回りを日射・通風から切り離す
・「夏はここで過ごす」「冬はここが暖かい」と、“使い分けられる可変性”を持たせる

このような配慮がある間取りは、無理に冷暖房に頼らずとも、自然に心地よく暮らせる家になります。

 

 

Q6|都市部の狭小地でもパッシブ設計はできますか?

はい、むしろ狭小地こそパッシブデザインの工夫が活きる場所です。

周囲が囲まれている土地でも、
・中庭型プランで風と光を取り込む
・高窓や吹き抜けで上から採光・通風
・建物の断面計画(立体構成)で温熱を整える

このような工夫で、“閉じながら開く”家を実現できます。狭い土地にこそ、数値では測れない“設計の力”が必要なのです。

 

 

Q7|パッシブって実際、コストは高くなるの?

結論から言えば、設計次第でコストは抑えられます。

▼例
・設備のグレードを下げられる
・過剰な断熱仕様が不要になる
・自然の力を活かすことで光熱費が削減される

つまり、「パッシブデザイン」によって、無駄な出費を減らし、住み始めてからのランニングコストも下げることができます。一方で、安易な性能信仰・標準化された間取り・コストカット優先の家づくりでは、結果的に“あとからお金がかかる住まい”になるケースが多いので注意しましょう。

 

 

まとめ|「疑問=設計の入口」になる

家づくりにおける疑問は、「正しい設計を選ぶ入口」でもあります。
パッシブデザインの本質は、住まい手と気候と暮らしを、建築的に整えること

気になること、不安なことがあれば、ぜひ一度、建築家に“自然と調和する設計・パッシブデザイン”について相談してみてください。
数値や設備では語れない、「本当に快適な家」のヒントが、きっと見えてきます。

 

 

 

高断熱・高気密・全館空調・太陽光発電
住宅の省エネ化が進む中、私たちはつい「性能の高さ=快適性」だと信じたくなります。

しかし実際の暮らしは、数値では語りきれないものばかり。
どれだけ数値が高くても、「なんだか暑い」「風が抜けない」「思ったより落ち着かない」
そんな声が、現場では少なくありません。

本当に大切なのは、“自然の力をどう設計に取り入れるか”という考え方です。

 

 

本記事では、パッシブデザインの本質を5つの視点からお伝えしてきました。

断熱|G2/G3ではなく、日射・窓・間取りまで含めた温熱設計の“全体性”
気密|C値に惑わされず、“呼吸する住まい”をつくるための施工・換気とのバランス
通風|風の“流れ”を読み、都市部でも空気が動く空間を設計する
日射|取得と遮蔽を“季節で切り替える”ことで、自然の熱を無理なく活かす
蓄熱|床・壁・素材に熱をため、ゆっくり放つことで、機械に頼らず快適性を持続させる

 

 

断熱・気密・通風・日射・蓄熱。

これらは、どれか一つだけを極めるのではなく、“整えて組み合わせる”設計力こそが本質
パッシブデザインとは「性能を上げること」ではなく、「自然と共に暮らせるように設計すること」なのです。 

数値にばかり答えを求めた家づくりでは、「なんとなく息苦しい」「落ち着かない」といった“違和感”が残ってしまうことも。しかし、風・光・熱・気配を整えた住まいには、“静けさ”や“やわらかさ”が生まれます。つまり、パッシブデザインは、時間とともに深まる快適性につながるのです。

「性能を否定する」のではなく、“性能をどう暮らしに活かすか”という視点で設計を考えること。
それが、「自然と調和するパッシブデザインの設計」です。

 

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こんな方にこそ、パッシブデザインを知ってほしい。

・設備に頼らず、自然に心地よい住まいを建てたい方
・断熱や気密などの数値だけでなく、“設計で整える暮らし”に共感する方
・高性能・補助金・制度よりも、「長く快適に暮らせる家」に価値を感じる方

 

 

自然とつながり、暮らしを整える設計へ 。
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#注文住宅 #パッシブデザイン #自然と調和する家 #断熱気密 #設計事務所 #建築家住宅 #名古屋注文住宅 #岐阜注文住宅 #体感できる快適性 #設備に頼らない家

 

参考資料・公的機関リンク一覧

一般社団法人 環境共生まちづくり協会|環境共生住宅とは
https://www.kkj.or.jp/contents/intro_sh/passive_sh01.html

一般社団法人 環境共生まちづくり協会|環境共生住宅事例データベース
https://www.kkj.or.jp/contents/search/?cat=6

国土交通省|国土交通白書 2022|住まい・建築物の脱炭素化に向けた取組みの課題と方向性
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r03/hakusho/r04/html/n1211000.html

経済産業省 資源エネルギー庁|省エネ住宅
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/housing/

 

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