省エネ住宅を建てるために、「G2が標準?」「ZEHの補助金が得?」「C値は低いほうが快適?」といった性能や制度に注目する方は多いと思います。
しかし、家づくり・注文住宅において、本当に重要なのものは、“数字・数値”ではなく、“暮らしに合ったバランス”ではないでしょうか?

快適な住まいとは、断熱性能だけで決まるものではありません。
高気密・高断熱の家が「なんとなく息苦しい」「暑苦しい」と感じられることもあるように、住まいの心地よさは設計の総合力で決まるものです。
そこで本記事では、建築家としての視点から「本当に快適でエコな省エネ住宅」をつくるために必要な5つの要素-断熱・気密・換気・設備・設計-を丁寧に紐解き、数字に振り回されない“省エネ”・“快適性の本質”をお伝えします。
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「高断熱=快適」は真実か?|断熱等級4でも“心地よい家”をつくる注文住宅の賢い戦略 ─ オーバースペックは大きな損?

“省エネ住宅=高性能”ではない理由
「G2じゃないと寒い」「ZEHにしないと補助金がもらえない」
そんな“性能先行”の価値観が、いつの間にか家づくりの判断基準を支配してはいないでしょうか?
実は、“高性能=快適”とは限りません。まず最初に、その理由を解説します。

スペック主義では“暮らしの本質”を見失う
多くの方が「省エネ住宅」と聞くと、「断熱等級G2以上」「C値1.0以下」「太陽光+HEMS」といった数値や設備仕様を思い浮かべます。
けれど、それらはあくまで手段にすぎません。快適さを保ちつつ、無理なくエネルギー消費を抑えること、それが省エネ住宅の本質でしょう。

この「省エネ住宅」の手段と本質の整理は、実は極めて重要です。
なぜなら、“手段”を“目的”と手段を目的と取り違い、数値上の性能だけを追い求めた結果、
かえって満足度が下がってしまった──。
といった矛盾を抱え、本来得られるはずの満足を逃している人が少なくないからです。

例えば、
「G3相当の高断熱住宅を建てたのに、冬の朝は寒くてつらい」
「太陽光と蓄電池をフル搭載したが、維持費がかさみ、逆に負担が増えた」
こうした声は、実は決して珍しいものではありません。
つまり、「性能が高ければ快適になる」というのは理想論にすぎない。設計・施工・暮らし方が一体となってはじめて、その性能は活きるのだと、改めて認識することが大切です。

数値では測れない“体感的な快適さ”の存在
もう一つ、省エネを考える上で大切にしたい視点があります。
それが「体感」という感覚的な要素です。温度や湿度は、数値だけでなく「感じ方」が非常に重要な領域だといえます。
温度や湿度は、数値で管理できる一方で、「どのように感じるか」が快適さを大きく左右します。
たとえば、同じ室温20℃であっても、窓際に座っていると少し寒く感じることがあります。
逆に、陽の当たる場所では22℃でも、心地よく暖かく感じられるかもしれません。
また、「空気がよどんでいる気がする」「なんとなく息苦しい」といった感覚も、C値や換気量といった性能数値だけでは読み取れないものです。
こうした“実感としての省エネ”は、単なる数値の評価とは異なる軸にあるもの。
そのことを、家づくりのなかでは、丁寧に受け止めていく姿勢が大切ではないでしょうか?

まとめ
- 省エネ住宅は「数字の競争」ではなく、「設計と暮らしの整合性」が要
- 高性能住宅でも、設計や運用を誤ると“快適でない”ことがある
- 真の快適さは、数値より“体感”と“設計全体の構成力”で決まる
▼断熱等級については、こちらの記事で詳しく解説しています。
断熱等級とは?G1・G2・G3の違いについて|快適な家・注文住宅の断熱性能・基本知識

断熱:省エネでも「性能」より「設計の整合性」が大事
家の快適性を考えるうえで、最初に注目されることが多いのが「断熱性能」です。
住宅会社や営業担当からも、「G2が今の標準です」「せっかくならG3を目指しましょう」といった提案を受けることが多いかもしれません。
たしかに断熱性能は、住まいの性能を語るうえで欠かせない要素のひとつです。
しかし、断熱性能が高ければ、それだけで快適な空間が実現するわけではありません。
本当に快適な住まいをつくるには、断熱性能を含めたさまざまな要素をバランスよく“整える”ことが大切です。ここからは、設計全体の整合性について、具体的な事例を交えながら掘り下げていきます。

実は、断熱性能は、G1〜G2で十分なケースも多い。
「断熱等級G2以上が快適の条件」
こうしたG2原理主義的な表現は、近年多くのメディアや住宅業界で語られるようになりました。
たしかに、G2以上を目安にした断熱性能は、冷暖房効率や快適性の面で一定の効果がある基準です。
しかし、それが“すべての家にとって必須”というわけでは全くありません。

たとえば以下のようなケースでは、G1や等級4(G1相当)であっても快適な暮らしを十分に実現できます。
・温暖地域(例:名古屋・岐阜など)の住宅
・日射取得が十分に可能な設計
・熱が逃げにくい間取りの構成
このようなごく普通の条件が揃えば、高断熱に頼らなくても「快適×省エネ」の家をつくることは可能です。
つまり、「等級G2でないとダメ」と考える必要はなく、自分たちの暮らしと敷地条件に合った水準を考えることが重要だといえます。
▼断熱等級・断熱性能の選び方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【断熱性能】断熱等級の正解は?|G1・G2・G3 ─ “暮らしに合った基準”で判断する注文住宅-最適なバランス設計とは?

開口部と日射の設計が断熱より効くことも
快適な室内環境を支える要素は、断熱材の性能だけではありません。
最も大きな影響を与えるのが「窓」の設計です。
窓の位置・サイズ・ガラス仕様・庇の設計が最適化されていないと、どんなに断熱材の性能が高くても冬に寒く、夏に暑い家になってしまいます。

窓の設計で、特に重要なのは以下の2点です。
冬:南面から日射取得を最大限活かせているか?
夏:直射日光を庇・軒・植栽でしっかり遮れているか?
窓の位置・サイズ・ガラス仕様・庇の設計が最適化されていれば、G1でも体感温度はG2以上の快適さになります。
逆に、開口部の設計を誤れば、G3でも寒い・暑いという状態も起こりえるので注意が必要です。

まとめ
- 断熱性能は「高ければいい」ではなく「暮らしと敷地に合っているか」が本質
- G2でなくても、設計次第で快適性は担保できる
- 開口部設計(窓の大きさ・位置・日射の調整)が、断熱性能以上に体感に効くこともある
▼窓の断熱については、こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【断熱・気密】注文住宅の性能は「窓」で決まる|サッシとガラスの選び・種類・特徴・注意点まとめ

気密|C値よりも“空気の質”が大切-省エネの心得
次に、気密について整理していきましょう。
気密性能は、住宅の“隙間の少なさ”を示す指標であり、「C値(相当隙間面積)」で表されます。
数値が小さいほど気密性が高く、「C値=1.0以下を目指しましょう」といった表現も多く目にするかもしれませんね。
しかし、ここでひとつ注意しておきたいのが「気密性能」の扱いです。
実はこの分野でも、数値だけを重視すると、かえって快適性を損ねたり、施工の質にまで目が届かなくなったりすることがあります。
そこでここからは、気密の本質について、設計と施工、それぞれの視点からあらためて整理していきます。

気密:C値を追いすぎても意味がない理由
「C値が0.3の高気密住宅」と聞くと、素晴らしい性能に思えますよね。
けれども、実際には、その数値が快適さを保証するわけではありません。
たとえば、下記のような事例があります。
・C値0.3なのに、なぜか室内の空気が重たい
・高気密ゆえに、湿気やニオイがこもってしまう
・施工現場が雑で、完成後に隙間風が入ってくる
このような場合、「数値は良いのに、体感が悪い」という矛盾が起ってしまいます。
C値はあくまで“指標”であり、“保証”ではないのです。
また、C値の数値は1棟ごとの測定・施工管理に大きく依存するため、同じ工務店であってもばらつきが出ることも珍しくありません。

気密と断熱のバランスが崩れると、かえって不快になる
気密性能は、断熱や換気とセットで機能するものです。
たとえば、C値を極端に良くした家で、窓が小さく通風も取れず、内部空間の空気がこもってしまっている場合、数値上は“理想的”でも、実際には“居心地が悪い家”になってしまうことすらあります。
また、「断熱はG2、気密はC値1.0」というように、バランスの取れた設計の方が快適性は高まるという傾向があることにもぜひ注目してください。
特定の数値だけを突出させるのではなく、全体として無理のない設計を行うことが、省エネ住宅における大前提です。

まとめ
- 気密は「C値」だけでは判断できず、施工精度と換気設計の整合性が重要
- C値が良くても「空気が重たい」「ニオイが抜けない」といった不満は起こりうる
- 断熱・換気とバランスの取れた気密性能こそが、快適性と省エネを支える要
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【日本の注文住宅】“気候と風土”パッシブデザイン|断熱・通風・日射・気密 ─自然を活かす家づくり

換気|“設備任せ”にしない省エネ設計の工夫
換気は、室内の空気をきれいに保つために欠かせない仕組みです。
現代の住宅では、24時間換気システムの設置が義務化されており、「熱交換型」「ダクト式」「第1種換気」など、さまざまな方式が存在します。
ですが、ここでもありがちな落とし穴が。
それは、「設備を導入すれば、空気の質は担保される」と思い込んでしまうことです。
そこでここからは、「換気=設備」ではなく、設計によって“空気の流れ”をつくることの重要性を解説していきます。

熱交換換気はメリットもあるが万能ではない
熱交換換気(特に第1種換気)は、外気の温度差を緩和しながら給排気を行えるため、省エネ性能を高めやすいとされます。
しかし、実際には、以下のような問題が起こりやすいので注意しましょう。
・フィルター清掃やダクト内メンテナンスが難しく、数年後には使われなくなる
・導入コストが高く、性能の割に投資効果が薄いことも
・音が気になる/風量が不自然など、暮らしの中で違和感が出る
つまり、設備の機能だけを見て選ぶと、運用の手間・メンテ・実用性とのギャップに苦しむことになってしまいます。

建築設計で空気の流れをつくるという発想
本当の意味で「空気がきれい」「呼吸がしやすい」と感じられる住まいとしたいのであれば、設備ではなく設計に裏付けられた“空気の通り道”も用意しておくべきではないでしょうか?
▼たとえば、以下のような要素です。
・窓の高さや位置関係をずらすことで風の流れをつくる
・吹き抜けや高窓で“上昇気流”を促し、自然な換気を生み出す
・空間を分節しすぎず、空気が巡りやすい構成にする
これらは数値で測ることはできませんが、空気の質・動きにダイレクトに影響する設計的な工夫だといえます。重要なのは、「熱交換換気だめ」という話ではなく、“空気をどう設計するか”の視点を持って、そのうえで設備を選び、全体を設計することです。

まとめ
- 換気は設備だけでは不十分。設計による空気の流れづくりが不可欠
- 熱交換型は便利だが、使いこなせる設計・暮らし方が前提になる
- 自然通風・高窓・間取り構成など、“空気が動く家”は住み心地が根本的に違う
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風通しのいい家のつくり方|自然通風を活かす快適な間取りと窓配置-後悔しない通風計画のポイント

設備|省エネ設備は“脇役”として考える
省エネ住宅と聞いて、「太陽光発電」「エコキュート」「全館空調」「HEMS(エネルギー管理システム)」などの設備機器を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
確かに、これらはうまく使えば効果的です。しかし、設備はあくまで“補助的な存在”、快適性や省エネ性の主役ではありません。
ここからは、設備を正しく取り入れるための考え方を紹介します。

設備で解決しようとすると“コスパ”で失敗する
最近は「太陽光と蓄電池でゼロエネルギーに!」「最新の全館空調で一年中快適!」といったキャッチコピーが並びます。
しかし、現場レベルでのよくある課題は以下のとおりです。
・初期費用が数百万単位でかかるが、回収まで20~30年かかる
・ランニングコストやメンテナンス費用が想定外にかかる
・高性能な設備を導入したのに、そもそも使いこなせず常時オフ
また、システムが壊れたときの修理コストや対応期間が長く、「結局、シンプルな設計の方が良かったのでは?」と後悔されるケースも多いのが実際のところでしょう。
設備は“導入すれば安心”ではなく、“本当に必要か”を見極める設計的な視点が必要です。

暮らし方×設計で“設備に頼らない”快適さを
理想論を言えば、「なるべく設備に頼らなくても快適に過ごせる家」が理想的な省エネ住宅です。
たとえば以下のような設計がされていれば、設備に頼る頻度は自然と減っていきます。
・朝と夜の気温差を考えた通風・排熱設計
・生活リズムに合った自然光の取り入れ方
・家事動線や居場所の位置に配慮した室温ムラの最小化
・日中の熱を吸収しにくい床材や壁材の選定
こうした“地味だけど効く”工夫が積み重なれば、設備に頼らずとも心地よく過ごせる空間が完成します。
省エネ設備は、あくまで補助輪のような存在。
それを前提に設計された家こそが、本当の意味での「快適×省エネ」を両立する住まいです。

まとめ
- 設備だけで「快適」や「省エネ」は実現しない
- 初期費用・メンテ・使いこなしの観点で“本当に必要か”を見極めることが大切
- 暮らしに合った設計によって、“設備に頼らない快適さ”をベースにする発想を持つべき
▼住宅設備については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【保存版】注文住宅・設備の選び方|“本当に必要なもの”だけを見極める判断軸と快適性のポイント

設計|最終的に“すべてを調整する”のが省エネ設計の役割
これまで述べてきた「断熱」「気密」「換気」「設備」は、いずれも住宅の快適性・省エネ性を支える重要な要素です。
しかし、それらを単体で考えていては、本当に快適な住まいにはなりません。
なぜなら、住宅は“すべての要素が相互に影響しあう”からです。
ここからは、全てをつなぎ、調整、最適化する「設計」について解説します。

各性能・設備を“まとめる力”が設計にある
断熱だけ良くても、日射取得が設計されていなければ冬に寒くなります。
気密だけ良くても、換気計画が甘ければ空気がよどみます。
設備だけ良くても、動線や間取りが合っていなければ使いこなせません。
つまり、各要素がバラバラに高性能であっても、全体で、設計の“整合性”が取れていなければ意味がないのです。

住宅設計とは、単に図面を描くことではありません。
「この家族にとって、どんな断熱がちょうどよいのか?」
「この敷地において、どうすれば風と光がうまく入るか?」
そうした答えのない問いを一つずつ調整していく作業こそが、設計の本質です。

“数値”ではなく“体験”で考える家づくりへ
設計の力とは、「体験をつくる力」でもあります。
・リビングに座ったときに見える景色
・朝日が寝室にちょうど良く入る時間帯
・玄関を開けた瞬間に感じる空気の澄み方
・家事が自然とスムーズに回る動線の流れ
こうした「なんとなく気持ちがいい」という感覚的な快適さは、UA値でもC値でも測れません。設計者が敷地・生活・動線・気候・家族の未来に向き合ったときにしか生まれないのです。

まとめ
- 設計とは、断熱・気密・換気・設備を暮らしに合う形でつなぎ、調整する作業
- 数値や設備では生まれない“体験としての快適さ”は、設計にしかつくれない
- 本当に快適な省エネ住宅は、「正しい設計」の先にしか存在しない
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“暮らしやすい家”のつくり方|建築家が語る-性能では測れない“注文住宅の本質”と“設計の考え方”

よくある失敗-省エネ編|“性能ありき”の家づくりで後悔した例
ここまで読んでいただいた方は、「たしかに、断熱や設備の数値ばかりに目がいっていたかも…」と気づき始めているかもしれませんね。
実際に、住宅の性能や制度ばかりを重視して家づくりを進め、暮らし始めてから後悔する人は少なくありません。
ここからは、現場でよくある具体的な失敗事例を通して、「なぜ数字や制度だけでは不十分なのか?」を体感的に整理していきましょう。

失敗1.補助金目的で、ZEHを採用したが、想像以上にコストが増えた
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)は補助金制度があるため、「お得だ」と思って選ばれることが多い住宅仕様です。
しかし、実際には以下のような問題に直面することがあります。
・太陽光発電・蓄電池・高性能設備の導入で、初期費用が数百万円単位で増加
・電気代は確かに安くなったが、ローンの支払額はむしろ増えた
・システムの操作が複雑で、使いこなせず“オフ”にしたままというケースも
つまり、「補助金があるから得」という短絡的な判断は、かえって将来的な負担になる可能性があるため要注意です。
▼ZEHについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
【 ZEHの落とし穴 】「補助金が出る=得」は本当か?|一級建築士が語る“損しない家づくり”-注文住宅の真実

失敗2.G2の家なのに冬は寒い|原因は“窓”と“間取り”
断熱等級G2を取得していても、冬になると「なぜか寒い」と感じる家は珍しくありません。
その理由は以下のような設計にあります。
・南側に大きな窓がない or 周囲に高い建物があって日射取得ができない
・廊下が多く、熱が分断されて暖房が効きにくい間取りになっている
・無理な吹き抜け構成で、上下階の温度ムラが激しい
つまり、G2だから快適という保証はなく、設計次第で体感は大きく落ちてしまうものなのです。

失敗3.全館空調を導入したが、メンテナンスと電気代で疲弊した
「家じゅうどこでも快適温度」という謳い文句に惹かれて、全館空調を採用する方も昨今では増えているようです。
ところが、
・常に運転していないと快適が維持できない(=電気代がかさむ)
・吸気・排気のフィルター清掃が複雑で結局放置される
・故障した際に修理費が高額&業者の対応が遅い
といった「導入したけど結局使わなくなった」という声が後を絶たないそう。
設備は“暮らしの中で使いこなせてこそ意味がある”のではないでしょうか?

まとめ
- 補助金や数値に引っ張られて住宅仕様を選ぶと、暮らしとのズレが生まれやすい
- G2でも寒い家、ZEHでも電気代が安くならない家は、設計の整合性が欠けている証拠
- 性能の高さよりも、その家族と敷地に合った設計こそが“後悔しない家づくり”の鍵
▼長期優良住宅の補助金については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【後悔しないために】長期優良住宅は本当に損しない?|補助金・資産価値・寿命のウソと真実【注文住宅の落とし穴】

Q&A|省エネ住宅-よくある疑問
省エネ住宅に関心はあっても、実際に家づくりを進める中で
「断熱はどこまで必要?」「ZEHは本当に得?」「設備って全部入れた方がいいの?」と、迷いや不安は尽きません。
ここからは、これまで実際に多くのご相談を受けてきた中で特に多かった質問をもとに、
“数字や制度に振り回されないための考え方”を建築家の立場から丁寧にお答えします。
これから家を建てる方が、「本当に必要なことだけを、正しく選び取る」ための一助になれば幸いです。

Q1|やっぱり断熱等級はG2やG3にしたほうがいいですか?
断熱等級は「高いほどいい」と思われがちですが、地域性や暮らし方によって最適解は変わります。
たとえば東海地方のような温暖地では、G2以上にしても体感に大差がないケースもあります。
大切なのは、「どの等級か」よりも「どんな設計で、どんな暮らしをするか」です。

Q2|ZEHじゃないと損をするって聞きました。本当ですか?
ZEHには確かに補助金がありますが、必ずしも“お得”とは限りません。
太陽光発電・高効率設備・断熱強化などで初期費用が大きくなるため、回収に20〜30年かかることも。
制度よりも「その仕様が本当に自分たちの暮らしに必要か?」を見極めることが先決です。

Q3|C値は0.3とか0.2じゃないと意味がないですか?
気密性は重要な要素の一つですが、数値を追いすぎても体感に大きな差が出るとは限りません。
C値1.0以下であれば、ほとんどの住宅で十分な快適性と空調効率を得られます。
それよりも、設計や施工が丁寧であることの方がはるかに重要です。

Q4|全館空調は入れた方が快適ですか?
全館空調は便利な設備ですが、初期コスト・運用コスト・メンテナンスの負担が大きいのが実情です。
また、全館空調を「入れれば快適になる」と思い込むと、設計の工夫が軽視されてしまいます。
まずは設計で快適性を高め、それでも不足する部分を設備で補う発想が理想です。

Q5|換気は熱交換型が必須でしょうか?
熱交換型の換気システム(第1種)は、省エネ効果が高いとされますが、万人にとって最適というわけではありません。
メンテナンス・導入コスト・居住スタイルによっては、自然換気+第3種の方が向いていることもあります。
設計と暮らし方のバランスで選ぶのが正解です。

Q6|太陽光は載せたほうが得ですか?
売電価格が年々下がっている今、「太陽光を載せれば儲かる」時代ではありません。
また、導入コストやパワコン交換などのメンテナンス費用も加味して判断すべきです。
「光熱費を下げる目的」であれば、太陽光より先に“断熱や設計”を整える方が効果的な場合もあります。

Q7|断熱・気密・換気・設備、全部揃えたほうが完璧ですか?
どれも大切な要素ではありますが、「全部盛り」が正解とは限りません。
性能は単体ではなく、“整合性”が取れてこそ機能するものです。
自分たちの土地・予算・暮らし方に合わせて“必要なものだけを選び取る”ことが、結果的に成功の近道です。

Q8|高性能住宅にすれば光熱費は安くなりますか?
一般的にはそうですが、“光熱費が安くなる設計”かどうかが重要です。
たとえば吹き抜けの設計や開口部の配置が悪ければ、高性能でも冷暖房効率は落ちます。
数字や設備だけではなく、「どう暮らすか」まで見据えた設計が必要です。

Q9|断熱性能はどこまで上げるべきですか?
断熱性能の“上げどき”は家族構成・地域・予算によって変わります。
むやみにG3にしても、日射取得がなければ宝の持ち腐れに。
逆に設計が整っていれば、G1でも快適に過ごせる家は実現可能です。

Q10|将来売るとき、省エネ性能が低いと資産価値が落ちませんか?
確かに省エネ性能が評価対象になる流れはありますが、それ以上に評価されるのは「設計の良さ」「立地」「建物の保全状態」です。
省エネ性だけを目的に高性能を追いすぎるよりも、“総合的な設計の質”の方が資産価値には効きます。

Q11|長期優良住宅の認定は取ったほうがいい?
長期優良住宅には減税やローン優遇などのメリットもありますが、そのために構造や仕様が制約されて本来やりたかった設計ができなくなるケースも。
制度は「得するため」ではなく、「無理のない範囲で取れるなら取る」程度の距離感がちょうどよいです。

Q12|「快適な家」って結局、何を基準にすればいいんですか?
「快適さ」は数値や設備では測れません。
・自然光が気持ちよく入る
・空気がよどまない
・家事がスムーズにこなせる
・家族の気配が心地よい
そんな“日々の体験”こそが、快適性の本質です。
そしてそれは、性能より“設計”によって生まれるものです。

まとめ|数値に正解を求めるのではなく、“暮らしを整えていく”省エネ設計を。
高断熱・高気密・熱交換換気・太陽光発電
省エネ住宅には、魅力的に見える技術や制度が数多くあります。
けれどそれらは、すべて「目的」ではなく「手段」にすぎません。
本当に重要なのは、「その性能が、どんな暮らしを支えてくれるか?」という視点です。

この記事では、省エネ住宅を検討するうえで見落とされがちな“5つの本質”を以下の観点からお伝えしてきました。
・断熱|G2/G3に惑わされず、日射や窓設計を含めて“暮らし方に合わせた性能”を考える
・気密|C値ではなく、施工品質と換気計画とのバランスで“呼吸する住まい”をつくる
・換気|設備任せではなく、空気の流れを設計で整える
・設備|太陽光や全館空調は“使いこなせるか”まで見据えて選ぶ
・設計|すべての要素を“ちょうどよく整える”力が、真の省エネ性と快適性を生む

省エネ住宅に“正解”はありません。
G3でも快適でない家もあれば、G1でも心地よく暮らせる家はあります。
つまり、数値の高さが快適さや安心の保証ではないのです。
快適な家、心地よい家、省エネな家、すべては、「どのように設計され、どのように住むか」によって決まります。

「性能や数値を否定」することはできません。
しかし、数値では測れない“体感的な快適性”をどう設計でつくるかを常に問い続けることが大切ではないでしょうか?
温度、空気、素材、時間の流れ、家族の気配、光など。
目に見えないものを整え、体感できるレベルで設計することではじめて、省エネ性能は暮らしに自然と溶け込むものだと考えます。

「G2だから安心」ではなく、
「この設計だから心地よい」と思える家づくりへ。
それこそが、私たちがめざす“本当の省エネ住宅”です。
▼こちらの記事もおすすめです。
▼注文住宅の費用・資金計画については、こちら↓の記事で詳しく解説しています。
注文住宅の費用完全ガイド|資金計画・内訳・ローン・自己資金まで-家づくりの”お金の話”を一級建築士が徹底解説
▼これから家づくりをはじめる方には、こちら↓の記事もおすすめです。
【完全ガイド】注文住宅は何から始める?|後悔しないための最初の一歩と正しい順番・注意点まとめ

・制度や補助金よりも、自分たちの暮らしに合った家を建てたい方
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参考資料・公的機関リンク一覧
国土交通省|国土交通白書 2022|住まい・建築物の脱炭素化に向けた取組みの課題と方向性
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r03/hakusho/r04/html/n1211000.html
国土交通省|建築物省エネ制度に関する資料①
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/kenchikubutsu_energy/pdf/014_s01_00.pdf
国土交通省|建築物省エネ制度に関する資料②
https://www.mlit.go.jp/common/001585664.pdf
国土交通省|ZEHに関する資料
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001488398.pdf
国土交通省|木造戸建住宅の仕様基準ガイドブック(第3版・4〜7地域・省エネ基準編)
https://www.mlit.go.jp/common/001586400.pdf
経済産業省 資源エネルギー庁|省エネ住宅
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/housing/
