近年、大きな地震・震災のニュースを目にすることもあり、家づくりをする上で「耐震性」にこだわる方も多いことでしょう。
その目安として、「耐震等級」が注目されています。
しかしながら、実は「耐震等級」というワードや数値だけに囚われていては絶対に安全だとは言い切れません。

そこで今回は、木造で地震に強い家をつくるには、どうしたらいいのか?を解説。
耐震性を高めるための7つのポイントや、間取り・形状の注意点も詳しく紹介します。
ぜひ、最後まで読んで参考にして下さい。

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木造で地震に強い、耐震性の高い家をつくるには・・・
WebやSNSなど有象無象の情報の影響で、建築の構造を次のように考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
「耐震性」を求めるならば、
・「重量鉄骨」や「鉄筋コンクリート造」でないと弱い。
・「正方形」に近い形でないと弱い。
・「大きな窓」を設けると弱い。
しかしながら、これらの考え方は全て間違いです。
なぜなら、「構造の条件で、形が決まる」という思考の順序に導こうとする考え方だからです。
本来あるべき設計のセオリーとは逆の順序になってしまっています。

たしかに、これらの考え方であれば、「耐震性」の高い家は、つくりやすくなることでしょう。
けれども、言ってしまえば、つくりやすいだけです。
全て逸脱したとしても、「耐震性」が強い家をつくれないわけではないのです。
建物の形状が複雑であっても、大きな窓を設けても、無柱の大空間であっても、大きな庇があったとしても。
それに応じた適切な構造設計・計画であれば、木造で地震に強い、耐震性の高い家をつくることはできます。

私たちは機械ではなく、人間です。
窓が少ない、ただの正方形の箱に仕舞われているように暮らすのは、端的に言って、つまらない人生だとは思いませんか?
「自由に家を考えても、専門的知見と設計力があれば、木造で地震に強い家はつくれる。」
これが真実です。

「構造上の条件が先だって、形を考える」のではなく、
「理想の形を考え、適切な構造を考える」。
この思考の順序で考えられるかどうかは、「自由な家づくり」が本当に可能かどうかの一つの分岐点だと言えます。
しかしながら、この順序を成立させるためには、高い技術力が必要です。

建築家・設計事務所であれば、一緒に好きなように、理想の住まいの形を考え、その後、適切で合理的な構造を導きます。
工務店・ハウスメーカーとは、この思考の順序であったり、成立させるための引き出しの多さが全く違うかもしれません。

耐震等級は意味が無い?
「耐震等級」というワード、聞いたことある方、注目している方は多いのではないでしょうか?
「耐震等級」とは、建物の耐震性能を表す指標です。
地震に対するによって、建物の倒壊・損傷しにくさを基準にランクが、耐震等級1、耐震等級2、耐震等級3の3段階に分けられています。
一般の方々には、建築図面は専門的で非常に難解で、図面を見ても、どの程度の耐震性があるのかは分かりません。
そこで目安になるのが、「耐震等級」という基準です。数字が大きいほど耐震性能が高いことを示します。

さて、耐震等級にこだわる方は、耐震等級3を目指し、3であれば安全だと思うことでしょう。
公式では、耐震等級の最上ランクなのだから、一般の方であれば、そう思うのは変ではありません。
しかしながら、その認識は誤解であり、危険です。
なぜなら、耐震等級は、品確法という法律で定められた上での計算で表された、ただの指標だからです。
「耐震等級」だけでは意味がない、とまでは言いませんが、他にも大切なポイントは無数にあるのです。

本記事で紹介する7つのポイントは、「耐震等級」の計算には反映されない内容が大半を占めます。
ぜひ、最後まで読んでみて下さい。
耐震等級については、こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【耐震等級とは?耐震等級3と2の違い、ポイントや注意点、メリットを解説。】

7つのポイント
私が提唱する木造で地震に強い、耐震性の高い家をつくるための7つのポイントは次の通りです。
1.地盤を盤石なものとする。
2.基礎を十分に強くする。
3.梁・柱・垂木などの寸法に余裕をみる。
4.使用する木材の材種にこだわる。
5.壁の量を増やす。
6.屋根を軽くする。
7.補強をする。
それぞれ、詳しく解説します。

1.地盤を盤石なものとする。
1つ目のポイントは「地盤を盤石なものとする」です。
地盤は、木造で地震に強く耐震性の高い家をつくるための最も重要なポイントの一つです。
建築・構造の土台となるのが、土地・地盤です。その強度が弱ければ、どれだけ堅牢な建築を建てたとしても安全ではありません。
まずは、建物の規模に応じた方法で、「地盤調査」を行うこと。
調査結果で、強固な地盤だと分かればいいですが、軟弱な地盤であった場合には、適切な方法で「地盤改良工事」を行う必要があります。

「地盤改良工事」が必要な軟弱な地盤であった場合には、たとえ「地盤改良工事」を行うとしても、耐震性能はできるだけ上げておいた方がいいと考えた方が無難だと考えています。
なぜなら、地盤改良工事の範囲に対して、地盤は規模があまりに大きく、比較になりません。
地盤が軟弱であれば、大規模の範囲で大きく揺れますから、「地盤改良工事」を行っていても、現実的には建物に被害が出る可能性は強固な地盤に比べ高くなると考えているからです。
地盤については、こちら↓の記事で詳しく解説しています。
【地盤調査は必要?スウェーデン式とは?調査方法、費用、注意点などの基礎知識を解説。】
【地盤改良工事とは?表層改良・柱状改良・鋼管杭の特徴・メリット・デメリット、費用を解説。】

2.基礎を十分に強くする。
2つ目のポイントは「基礎を十分に強くする」です。
木造の基礎は、一般的には、素材は、コンクリートと鉄筋の組み合わせで構成され、形状としては「立ち上がり」と「地中梁」と「スラブ」で構成されます。
基礎の構造設計の際は、強度に十分な余裕を持たせるように、この素材と形状を決めます。
例えば、
・コンクリートの設計基準強度を高くする。
・鉄筋の径を大きくし、ピッチを細かく配筋する。
・立ち上がりの区画を小さくする。
・スラブの厚くする。
などです。

各パートの構造を総合的に、調和させるように設計する
ここで注意して頂きたいことは、「各パートの構造を総合的に、調和させるように設計すること」は最も重要なことの一つだということ。
木造の構造は大きく分類すると、「地盤」「基礎」「木の骨組み」のパートで分類されます。構造設計の際には、これらのパートを個々に考えるだけではなく、総合的に調和させるように設計する必要があります。
「基礎」であれば、「地盤」と「木の骨組み」をつなぐものであり、相互に応じて設計されなければなりません。

例えば、「地盤」の状態や改良工事の内容に応じた「基礎」設計であるべきで、また、柱や壁の位置といった「木の骨組み」に応じた「基礎」設計であるべきです。
当然、全てがバラバラに設計されていては、チグハグで、上手く力が伝達・負担されることにはなりません。

「地盤」は地盤の会社、「基礎」は基礎の会社、「木の骨組み」は木加工の会社、それぞれバラバラに設計されていては、相互の関係に問題があったとしても、そのままでは見つけることはできないでしょう。
この問題は構造計算の範疇ではなく、構造計算が問題ないから問題ないというものでもないのです。
当然、全てを総合的に調和させるように設計・調整役としての「専門家」が必要で、その専門家がチェックするしかありません。

建築会社に注文住宅を依頼する際は、信頼して任せられる「設計士」「専門家」が担当者になるのか、しっかりと確認してから依頼しましょう。
建築家・設計事務所であれば、構造は全て、建築家・設計士が責任をもって設計しますので、安心です。

3.梁・柱・垂木などの寸法に余裕をみる。
3つ目のポイントは「梁・柱・垂木などの寸法に余裕をみる」です。
「木の骨組み」では、まずは、各部材の寸法に余裕を持たせましょう。
逆に言えば、各部材の寸法に余裕を持たせれば、特に問題無く、大きな窓や、無柱の大空間、大きな庇をつくる、といったことも可能です。

梁・柱・垂木などの部材に関しては、寸法に余裕をみるだけでなく「量を増やす」のも良いでしょう。
例えば、梁や垂木を増やす・ピッチを上げる、柱の量を増やせば、その分、構造的に強くなります。
各部材の名称や役割などについては、こちら↓の記事でも詳しく解説しています。
【木造軸組工法とは?メリット・デメリット、梁・筋交などの名称、家の構造について解説。】

できないことはない。
余談ですが、住宅の規模では、あまりにも極端な要望でない限り、出来ないことはありません。
しかしながら、大きな窓、無柱の大空間、大きな庇など、少しでも特殊なことを要望すれば、多くの工務店・ハウスメーカーから「それは出来ません」と言われることも多いと思います。
注意して欲しいのは、多くの場合、その本当の意味は、「力不足です」あるいは「やりたくありません」であり、建築会社側の都合だということです。

鵜呑みにして、簡単に諦め、建築会社の都合に合わせてしまうから、家づくりで後悔する方が多いのでしょう。
きっと、工務店・ハウスメーカー、他社に「出来ない」と言われたことでも、建築家・設計事務所であれば可能になることは多いと思います。
つくり手がつくりやすい家ではなく、自分たちが本当に暮らしたいと思える家づくりを楽しみましょう。
間違いなく、一発で理想の家づくりができる!それが、建築家・設計事務所に依頼するメリットの一つです。

4.使用する木材の材種にこだわる。
4つ目のポイントは「使用する木材の材種にこだわる。」です。
実は、木材の材種によって、それぞれ特徴が違います。
例えば、構造には、杉・米松・桧・ホワイトウッド・米栂などがよく使われますが、それぞれ特徴やストロングポイントが異なります。
適材適所で使いわけ、特徴やストロングポイントを活かすようなこだわりは、耐震性を高めるのに有効です。

また、大きく開放的な空間を望む方や大きな窓、ガレージなどを求めている方は、「EW(エンジニアドウッド)」の存在もチェックしておきましょう。
「EW(エンジニアドウッド)」は、体育館・集会場・ドーム・木橋などの大型木造構造物でも採用されている構造部材・木材製品です。

「EW(エンジニアドウッド)」は天然の木材とは違い、人工的につくられているので、強度にムラが無く、強度性能が計算・評価・保証されています。
大きく開放的な空間・大きな窓・ガレージなどを無柱でつくるためには、大きな梁が必要になりますが、「EW(エンジニアドウッド)」であれば、問題無く設計可能です。

土台
木造建築の骨組みの最下部にあって、柱を受け、その根本をつなぐ横材・建物の荷重を基礎に伝える構造材を「土台」といいます。
一般的には、この土台には「米栂」という樹種がつかわれます。
「湿気に弱く、シロアリ被害の多い木材になりますが、防腐、防蟻の薬剤を注入し土台としての耐朽性を高めているので、問題はありません。なにしろ安価です。」というのが一般的な理由でしょう。

さて、防腐、防蟻の薬剤の有効期限は何年か知っていますか?
答えは、5年程度です。
つまり、メンテナスしなければ、たったの5年で、土台がただのシロアリ被害の多い木材になってしまいます。
たったの5年で、シロアリ被害の可能性の高い構造になる。
これでは、耐震等級などにこだわっていても、無駄になってしまうかもしれません。
気に入った建築会社は、土台や柱には、防腐、防蟻の薬剤だけに頼るのではなく、そもそもシロアリに強い木材を採用しているでしょうか?ぜひ、確認してみることをおすすめします。

5.壁の量を増やす。
5つ目のポイントは「壁の量を増やす。」です。
際限なく増やしても、コストがかかるばかりですから、必要な量の1.5~2.0倍程度あれば安心だと言えます。
それくらいの量をバランス良く配置しましょう。
建物の形状が複雑であっても、バランスよく配置すれば、問題はありません。

また、構造計算においては、壁については次の2つの方法で耐震性を高めることになります。
・壁の量を増やす方法
・合板などで壁を強くする・強い壁をつくる方法
どちらか一方ではなく、どちらも同時に採用することが出来ます。

けれども、できることなら、「壁の量を増やす」方向性に重きを置いた方が好ましいでしょう。
理由は、「合板などで壁を強くする・強い壁をつくる」と負担する力が集中するからです。
短期的かつ単発の震災であれば、それでも問題ないと思いますが、長期的かつ複数回続く大きな震災が実際に起きています。
負担する力は出来るだけ分散させ、それぞれ十分な余裕をみた設計をするのがいいでしょう。

6.屋根を軽くする。
6つ目のポイントは、「屋根を軽くする。」です。
最上階や屋根が軽いと、地震で建物が揺れた際にかかる力は小さなものになります。
そのため、重い瓦屋根よりも、軽い金属板の方が耐震性の面では有利だといえます。
瓦に特別な想いがなければ、軽い金属板の方がおすすめです。

7.補強をする。
7つ目のポイントは、「補強をする」です。
本当に自由な建築計画で、地震に強い、耐震性の高い家をつくろうとすると、どうしても木造だけでは限界が見えることがあります。
けれども、メインとなる構造に木造を採用していたとしても、木造だけに固執する必要はありません。
適切な設計をすれば、一部に鉄筋コンクリート造の壁を採用する、鉄骨造の梁や柱を採用する、などの補強としての異種構造を組み合わせることも可能です。

また、部分的に補強する、という方法もあります。オリジナルで各所、鉄板の補強プレートを別途製作し、梁・柱・垂木に取り付けるなどして補強することも可能です。
要するに、構造の設計力・応用力・計算力があれば、基本的には、何でも出来るのです。

制震ダンパー
おすすめな補強材として、「制震ダンパー」というものもあります。
制振ダンパーとは、制震装置の一種で、「ダンパー」と呼ばれる装置が地震の揺れに合わせて変形することによって、その振動エネルギーを吸収し、揺れを減衰させて建物の構造にダメージが伝わることを防ぎます。
ダンパーには複数の種類があり、ゴムや樹脂系、金属系、油圧系など素材や、筋交いダンパー、仕口ダンパーなど形状や取付方法によって異なります。
いずれも揺れに対して変形することで作用し、地震エネルギーを吸収してくれるという効果は同じです。
どうしても不安だという方には、おすすめです。

まとめ
今回は、木造で地震に強い家をつくるには、どうしたらいいのか?を解説。
耐震性を高めるための7つのポイントや、間取り・形状の注意点も詳しく紹介しました。

本記事の内容は、耐震等級のための構造計算には反映されない内容も多いです。
つまり、数値に反映されるものではありません。
木造で、地震に強く耐震性の高い家をつくるためには、数値に反映されない、専門家・スペシャリストとしての善意も必要なのです。

木造のメリット・デメリットについては、こちら↓の記事でも詳しく解説しています。
【鉄筋コンクリート造・RC造、鉄骨造・S造、木造、建築構造の特徴、メリット・デメリット。】
その他の構造に関する記事は、こちら↓にまとめましたので、ぜひ、参考にして下さい。
その他に分からないことなどあれば、お気軽に建築会社に相談してみましょう。

私たちの設計事務所では、ご相談・間取りなどの提案は無料です。もちろん、土地探しからのご相談も歓迎です。
施工をしない・建築家の家づくりは、工務店・ハウスメーカーなどとは大きく違います。
少しでも家づくりにこだわりたい気持ちがあり、建売などではなく注文住宅を採用されるのであれば、まずは建築家に相談してみること、それから色々と考えるのがおすすめです。
その際、私たちのような、機能・デザイン・コストなど全方位でバランスの良い住まいを目指す建築家であれば、より相談できることは多いことでしょう。
建築家の仕事に距離は関係ありません。私も全国から依頼を承っております。
遠方の方でも距離を気にせずに、建築のことであれば何でもお気軽にお問い合わせ頂けると幸いです。

最後に。
住宅設計は、人生のデザイン。
住まいは、生涯の大半を過ごすであろう空間です。
皆様が妥協・後悔・失敗することなく、豊かな暮らしを送れますように。
夢の実現を全力でサポートする、良きパートナー・建築会社が見つかることを願っています。
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