はじめに|丁寧な設計・家づくりは時間が必要
家づくりを考え始めたとき、
「どれくらいで決まるのか」
「いつ完成するのか」
このような時間の問題も気になるところではないでしょうか?
できるだけ早く決めたい。
できるだけスムーズに進めたい。
そう思うのは、とても自然な感覚です。

実際、
“短期間でプランがまとまり、打合せも最小限で進む。”
そんな家づくりの仕組みも数多く存在します。
分かりやすく、効率的で、
安心感があるように感じてしまうかもしれません。
一方、
設計事務所や建築家に家づくりは、
・打合せの回数が多い。
・設計にかかる期間は長くなる。
というのが一般的です。

設計事務所・建築家は、
「なぜ、そんなに時間がかかるのだろう」
「もっと早く決められないのだろうか」
そう感じたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、家づくりにおいては一概に、
「時間がかかる」という点は、デメリットだとは言えません。
むしろ、
家づくりを丁寧に行えば、
時間をかけた設計検討が必要になる、
というのが設計士としての意見です。
計画する時間に比べれば、
建築がその先の暮らしを受け止める時間は、
あまりにも長いからです。

そこで本記事では、
設計事務所・建築家が家づくりで大切にする視点、
「時間をかける設計の考え方」について解説します。
具体的には、
・なぜ設計事務所は、長い時間を前提として進めるのか?
・建築家が設計内容をすぐに決めず、「熟成」させる理由
・打合せを重ねることで、設計の精度がどのように高まるのか
・早く決める注文住宅で起こりやすいリスクと、その背景
など、設計の実務と思想の両面から整理していきます。
これから家づくりを考えている方にとって、
「なぜ設計を急いではいけないのか」
を理解する判断材料になれば幸いです。
執筆者・設計事務所は、以下のページでご紹介しています。
▶ トップページ:Tabi タビ|愛知県名古屋市の設計事務所

設計事務所の家づくりが「時間前提」になる理由
設計事務所の家づくりでは、最初から、
「ある程度の時間がかかる」ことを前提に進められます。
作業が遅さや非効率が原因ではありません。
急がないこと自体を設計の一部としているからです。

一般的な注文住宅では、
あらかじめ用意されたプランや仕様をベースに、
選択と調整を加え、家づくりの計画が終わります。
そのため、
決断することが少なく、全体の流れも分かりやすい。
一方、設計事務所の家づくりには、
最初から「形」が用意されているわけではありません。

設計事務所・建築家との家づくりは、
・敷地の条件、周囲の環境
・家族構成や暮らし方
・予算の考え方や価値観
一つひとつ丁寧にヒアリング・整理し、
編集するところから設計が始まります。
すぐに図面を描くことが正解とは限りません。
むしろ、
「描かない時間が出発点であり、最も大切なフェーズ」
というのが設計事務所・建築家の考えです。

具体的な暮らしのイメージを描き、
要望・条件を整理しなければ、
どこかで無理が生じてしまいます。
間取り・デザインの問題として表面化することもあれば、
暮らし始めてからの違和感として現れることもあるかもしれません。
設計事務所が設計前にも時間をかけるのは、
「後から修正できない部分」を事前に整えるためです。
時間をかけること自体が目的なのではありません。
拙速に決めないことで、
家づくり全体の精度を高めているのです。

「熟成」という設計思考
設計事務所・建築家の家づくりでは、
一度考えた案をそのまま最終形にすることは、
実は、ほとんどありません。
一度まとめた考えをいったん疑い、
時間を置き、その後、別の視点から見直す。
見ないところでは、
このような工程を何度も繰り返しています。
これは、「熟成」という設計思考です。

多くの方が勘違いしていますが、
設計とは、要素を足していく作業ではありません。
敷地条件、 要望、 予算、 構造、 法規。
全ての課題に対して、
個別的に取り扱い、満たそうとすれば、
複雑で、重たくなります。
全体を統合する、シンプルな解決策が必要です。

だからこそ、
一度組み立てた案を見直し、
本当に必要なものだけを残していく。
削る。
整える。
余分なものを手放す。
これが設計の本質。
言うなれば、
価値の最大化・意味の最適化。
この過程には、どうしても、
「熟成」という時間が必要になります。

これは、設計士の立場からだけでなく、
施主の立場からも必要な時間です。
時間をかけることで、
最初は気づかなかった違和感・必要なことが見えてくる。
この動線は、本当に暮らしに合っているか。
この広さが、本当に理想的なのか?
このデザインは、数年後も愛着を持てるだろうか。
そうした問いは、
一度の打合せや、短期間の検討では
なかなか浮かび上がってきません。

設計を熟成させるとは、
考えを深めると同時に、違和感をあぶり出す作業。
打合せを重ねるほど、設計は静かに強くなる。
打合せの回数が増えると、
要望が増えていくように思われてしまうかもしれませんが、
設計事務所の場合は、逆が起こることが多くある。
本来は、それが理想的な打ち合わせです。

話し合いを重ねるほど、
何が大切で、
何がなくても成立するのかが、
少しずつ明確になっていく。
それが本来、打ち合わせのあるべき姿。
結果として、
説明しなくても納得できる設計に近づいていきます。
設計事務所が時間をかけるのは、
迷わせるためではありません。
最終的に、
説得力のあるデザインへと導くためなのです。

施工にも時間が必要になる理由
設計事務所の家づくりでは、
設計が終わった時点で全て完全に確定する、
という考え方はあまり取りません。
それは、設計が未完成だからではなく、
設計の意図を、現場で正しく成立させるためです。

設計事務所の図面には、
一般的な住宅よりも多くの情報が込められています。
寸法や仕様だけでなく、
空間のつながり方、
素材の使い方、
光の入り方や視線の抜け、など。
それらは、図面だけをなぞれば自動的に完成するものではありません。
現場で実際に立ち上がる構造や下地を見ながら、
設計意図を確認し、必要に応じて微調整を重ねていく。
この工程があるからこそ、
空間が想定通りの質で実現されるのです。

設計事務所の現場では、
一棟ごとに納まりが異なる部分があり、
仕様などは、案件ごとに変わります。
そのため、施工というフェーズは
「決められた手順をなぞる作業」ではなく、
確認・検討を重ねながら進める工程になります。
ここで重要なのは、
施工が遅いわけではない、ということです。
現場で立ち止まり、
設計士が確認し、より良い納まりを選び直す。
その「最後に止まって考える時間」こそが、
期待通りのクオリティを積み重ねていくのです。

重要なことは、
「設計と施工は、分断された別工程ではない」
ということ。
設計が施工を理解し、
施工が設計意図を理解する。
その相互理解の往復こそ、
図面上の理想が、現実の建築として無理なく成立する
必須条件なのです。
このやり取りを省けば、工程は短くなります。
しかし同時に、設計の質も確実に削られていきます。

このように、
設計事務所の家づくりに時間がかかるのは、
設計と施工のどちらかが原因なのではありません。
両者を切り離さず、
最後まで整え続ける前提で進めているからです。

早く決める注文住宅で起こりやすいリスク
家づくりを早く進めること自体が、
必ずしも悪いわけではありません。
すべての家づくりに、長い時間が必要なわけではないでしょう。
ただし、
「早く決めること」が前提の家づくりには、
起こりやすいリスクがある
それも事実です。
ここからは、その中でも、
特に注意したい“3つのリスク”をご紹介します。

ひとつ目は、
前提条件が整理されないまま形が決まってしまうことです。
限られた打合せ回数の中では、
要望を一通り出すことはできても、
その優先順位まで掘り下げるのは難しい。
結果として、
「全部入っているけれど、どこか落ち着かない」
そんな住まいになってしまうことがあります。

ふたつ目は、
設計と施工が分断されやすいことです。
仕様や納まりが標準化されている場合、
施工は効率的に進みます。
その反面、現場で立ち止まって考える余地は少なくなります。
設計意図よりも、工程やルールが優先される。
そうしたズレは、完成後には見えにくい形で残ります。

三つ目は、
暮らし始めてから違和感が表面化しやすいことです。
収納の位置。
動線の長さ。
光の入り方。
音や視線の抜け。
一つひとつは小さな違和感でも、
日常の中で、確実に積み重なっていく不満。
「住めば慣れる」と言われることもありますが、
家づくりには、多額のお金をかけるのです。
慣れる必要のない違和感は取り除くべきではないでしょうか?

早く決める家づくりでは、
このような違和感を「仕方のないもの」
として扱うことが多いのかもしれません。
しかし、それらの多くは、
設計や施工で、その都度、立ち止まれば、
避けられたリスクでもあります。
だからこそ、
「熟成」のための時間が必要なのです。
設計事務所が時間をかけるのは、
完成を遅らせるためではありません。
暮らし始めてから、
「考えておいてよかった」と思える余地を
できるだけ多く残すためです。

まとめ|家づくりの本質は「早さ」ではなく「耐えうる設計」
設計事務所の家づくりに時間がかかるのは、
特別なことをしているからではありません。
前提条件を丁寧に整理し、
すぐに形を決めず、
設計を熟成させる時間を取っている。
施工の段階でも、
図面どおりにつくるだけで終わらせず、
設計意図を現場で確かめ、
必要に応じて立ち止まり、整え直している。
その積み重ねが、結果として
「時間がかかる家づくり」になります。

一方で、
早く決める家づくりが全て間違っているわけではありません。
効率的で、分かりやすく、
一定の品質を短期間で実現できる。
そこには、メリットもあるのかもしれません。
ただし、その仕組みの中では、
立ち止まって考える時間、
違和感を取り除くための余白は少なくなります。

設計事務所・建築家は、
「早く完成する家」を目指しません。
暮らし始めてから、
何年、何十年と時間が経っても、
大きな無理なく受け止め続けられる住まいを目指します。
流行や一時の判断に左右されず、
生活の変化にも、静かに対応できること。
説明しなくても、自然と馴染むこと。
そうした耐えうる設計を成立させるには、
どうしても時間が必要です。

本当に大切なことは
「どれだけ早く決めれたか」ではないはずです。
どれだけ立ち止まり、どれだけ考え抜いたか。
それは、満足と納得の積み重ねること。
住まいの質として、
暮らしの中に残り続けるものなのです。

家づくりは、
何かを早く決めることよりも、
どこで立ち止まり、何を考えるかによって、
その後の暮らしの質が大きく変わります。
もし今、
・家づくりを急ぐべきか迷っている
・この判断で本当に良いのか不安がある
・要望はあるが、整理しきれていない
そんな状態であれば、
一度、設計事務所・建築家の視点に触れてみるのも
ひとつの選択です。

私たちは、
すぐに答えを出すことよりも、
前提条件や違和感を一緒に整理することを
大切にしています。
相談したからといって、
家づくりを進めなければならないわけではありません。
考えを整えるための時間として、
気軽に活用していただければと思います。
家づくりを、
「急いで決めるもの」ではなく、
「納得して進めるもの」にするために。

私たちの設計の考え方や、
これまでの取り組みについては、
以下のページでご紹介しています。
初回のご相談・ご提案は無料です。
住まいづくりを検討されている方は、
どうぞお気軽にご相談ください。