はじめに|「この家、大丈夫?」という“構造の不安”を、正しく解きほぐす
築年数の経った住宅を購入し、間取りを変えて暮らしやすい空間に整える。
リノベーションは、住まいに新しい命を吹き込む手段として多くの支持を集めています。
しかし、見た目や間取りが整っても、構造そのものの安全性に不安が残ることは少なくありません。
とくに、建築の素人である住まい手にとって、構造については「見えない」「分からない」「調べようがない」領域です。

だからこそ、こんな疑問や不安を抱えている方も多いのではないでしょうか?
・築40年の家を買っても、本当に安全なのか?
・「補強すれば大丈夫」って、本当に信じていいの?
・工務店やリフォーム会社は、都合のいいことしか言わないのでは?
そこでこの記事では、建築家の視点から“構造の不安”に向き合う方法を徹底解説。
構造調査・補強設計・法律の制限・設計自由度の限界など、実務的な視点で網羅します。
リノベーションを前向きに検討している方にこそ、「はじめる前に知るべきこと」整理しながら、お読みいただければ幸いです。
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なぜリノベーションでは、”構造” に「不安」が生まれるのか?
リノベーションにおいて、最も多く寄せられる相談のひとつが「この家、本当に大丈夫でしょうか?」というものです。
表面的には美しく仕上がった空間でも、その土台となる構造に不安があると、安心して暮らすことができません。
そこでまずは、なぜリノベーションでは、”構造” に「不安」が生まれるのか?その理由について解説します。

既存の構造を使うことの宿命
新築住宅では、すべての構造をゼロから設計・施工することができます。
一方、リノベーションでは基本的に既存の構造体を残して使うことが前提でものごとは進みます。
しかし、この既存構造こそが、リノベならではの「見えない不安」の正体です。
どれだけ新しく美しい内装を施しても、その背後にある柱・梁・基礎・耐力壁が劣化していたり、強度に問題があれば、地震などの際に危険が伴ってしまいます。
「その構造が、今の基準で安全かどうか」は、見た目では判断できない部分も多いこともリノベならではの障壁だといえるでしょう。

住まい手の“構造への無関心”が危ない
多くの方が、リノベーションの打ち合わせに入るとき、
「キッチンを広くしたい」「吹き抜けをつくりたい」「床は無垢材にしたい」など、空間や素材の話、暮らしへの想いを口にします。
それはとてもいいことですが、そのようなデザインや快適性は、すべて“構造”の上に成り立っているという視点も持つといいかもしれません。

例えば、以下のようなことを見過ごしてはいないでしょうか?
・耐震基準を満たしていない旧耐震の住宅も多数流通している
・基礎にクラックや沈下が見られる中古住宅は少なくない
・柱の太さや梁の断面が、設計的に不足しているケースもある
設計者からすると、まず安全性が確保されていなければ、間取りやデザインの自由度など語る余地はない、というのが正直な本音です。

「何が分からないのかすら分からない」が最大の不安
リノベーションならではの「構造に対する不安」の本質は、「危険だと分かっていること」ではありません。
むしろ、最も危険なのは、「そもそも何が分かっていないのか、分かっていない」という状態です。
・築年数だけで判断してしまう
・リフォーム会社の営業トークをうのみにする
・「何かあればそのとき考えよう」と軽視してしまう
これらは、すべて「構造への無知」と「判断軸の欠如」から生まれる行動です。
そして、その結果として“後悔してしまうリノベ”に突き進んでしまっていないでしょうか?
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構造調査はどこまで可能か?-“見えない不安”を見える化するために
リノベーションにおいて、構造への不安を解消するための最初のステップは、「調査」です。
しかし実際には、「調査をすればすべてが分かる」とは限りません。
調査の手法にも限界があり、事前にすべてを把握することは不可能という前提で、計画を立てる必要があります。
そこで、ここからは、リノベーション前に行われる構造調査の種類と、それぞれで「分かること」「分からないこと」を解説。構造調査について、しっかりと整理していきましょう。

目視調査|もっとも基本的で、もっとも限界のある方法
一般的な中古住宅の購入やリノベーションの相談の際に、まず最初に行われるのが「目視調査」。
建築士や調査員が現地に訪れ、以下のようなポイントを目で確認する簡易的な調査です。
・外壁・基礎にひび割れがないか
・床の傾き・たわみがないか
・柱や梁にシロアリ被害や腐朽が見られないか
・屋根や軒裏に雨漏りの兆候がないか
この調査は、時間も費用も抑えられるのが良いところです。しかし、見える範囲しか判断できないという限界があります。
たとえば、床下や天井裏の中まで確認できるわけではなく、「何かあるかもしれないが、確証はない」という曖昧な結論になってしまう傾向も。

インスペクション(住宅診断)|第三者視点での調査だが…
最近は「ホームインスペクション(住宅診断)」という言葉も浸透してきました。
「ホームインスペクション(住宅診断)」とは、第三者の建築士が客観的に住宅を診断し、報告書を提出するという仕組みです。中古住宅の売買時やリノベーション前に活用されることもあります。
「ホームインスペクション(住宅診断)」にも限界があり、ほとんどの場合は「非破壊調査」にとどまり、構造部の奥深くまで確認することはできません。診断する建築士のスキルや視点によって、「安全か否か」の判断基準がぶれることもあることにも注意しましょう。

一部解体調査|“確かな判断”を得るための現実的アプローチ
本当に安全性を確認したい場合は、少なくとも「一部解体調査」が必要です。
「一部解体調査」とは、天井の一部や床の一部を剥がし、実際に構造材や接合部を露出させて確認する方法のこと。
・柱・梁の太さや位置関係
・接合金物の有無や劣化状態
・筋交いや構造用合板の配置
・シロアリや雨漏りによる劣化箇所
こういったことを部分的に解体し、実際の状況を調査・確認できて初めて、構造的な補強の要否や安全性の評価が多少なりとも可能になります。

ただし、この調査は施工の手間や費用がかかるうえ、売主の同意がなければ実施できないこともあり、実務上はハードルが高いのも事実です。また、構造は“全体のバランス”で成立しているため、一部の調査だけでは判断しきれない場合も多いです。
設計者としては、状況に応じて必要な範囲の調査を提案しつつ、「確認できた部分」と「確認できない部分」を丁寧に整理し、補強設計へとつなげていく姿勢が求められます。

構造図面の有無|調査の信頼性を左右する最大の要因
構造の安全性を判断するうえで、最も重要な資料は「構造図」です。
しかし、築年数の古い住宅では、以下のようなパターンが多く見られます。
・そもそも図面が存在しない(紛失)
・保存されていても、構造図ではなく“平面図だけ”(図面不十分)
・書かれている内容と現況が一致していない(増改築による変化)
このような場合、現場を見て想像するしかなく、判断には限界があり、不確実性が増してしまうと言えるでしょう。

「調査=安心」ではない。分かったうえで“どう判断するか”が重要
構造調査は、「すべてを白黒つける」ものではありません。
むしろ大切なのは、「何が分かっていて、何が分からないかを整理する」ことです。
・安全性が高いと推定できる要素
・補強が必要な可能性が高い箇所
・解体後にしか分からないグレーゾーン
これらを住まい手と共有し、想定されるリスクを可視化しておくことで、のちの補強設計・間取り設計においても、冷静な判断を支えるといえるでしょう。
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補強はどこまで効くのか?-過信と限界のあいだで考える
構造調査によって現状がある程度把握できたとしても、それはあくまで“出発点”にすぎません。
実際にはそこから「どこまで補強すれば安心できるのか?」という設計上の判断が問われるものです。
そこでここからは、補強設計の現実と限界、そして過信してはいけない理由を解説します。

「補強すれば大丈夫」は、本当に正しいのか?
リノベーションの広告や営業トークでは、「耐震補強で安全性アップ」「性能向上リノベ」など、前向きな言葉が並ぶかもしれません。
たしかに、一定の条件下では補強によって安全性を高めることは可能です。
しかし現実には、次のような条件がそろわない限り、補強だけで「安心」とは言うのは難しいものです。
・構造図または現況調査により、全体の構造把握ができている
・壁量・耐力壁のバランスが合理的に設計されている
・基礎や接合部など、建物全体の“つながり”が確保されている
つまり、「補強=安心」ではない、ということ。
補強の効果を発揮させるためには、構造的な前提条件がそろっていることが不可欠です。

耐震補強の基本3手法
ここからは、住宅における代表的な耐震補強の方法を紹介します。
補強では、構造全体のバランスを意識しながら、要所を的確に強化することが重要です。
中でも基本となるのが、以下の3つの手法です。

【1】耐力壁の補強・追加
最も基本かつ効果の大きい補強が「壁の強化」です。
このカテゴリには、以下の3つの方法があります。どれも「地震に耐える壁をつくる」ことが目的ですが、それぞれに施工方法やデザインへの影響が異なります。
筋交いの追加
壁の強化方法1つ目は、「筋交いの追加」です。これは、既存の壁の内部に斜材(筋交い)を加えることで、水平方向の力(地震力)に対する抵抗性を向上させる方法のこと。
比較的施工はシンプルですが、配置を誤ると建物全体のバランスを崩し、かえって“ねじれ”を生む可能性もあるため注意が必要です。
構造用合板の張り増し
壁の強化方法2つ目は、「構造用合板の張り増し」です。これは、壁の内外に構造用合板を張ることで、面全体で力を受け止める「面材耐力壁」に変える方法のこと。
筋交いと比べて均質な補強効果が得やすく、現在の木造補強では広く使われている代表的な手法です。
新たな耐力壁の設置
壁の強化方法3つ目は、「新たな耐力壁の設置」です。これは、耐力壁自体が不足している場合に、新たに壁を設けることで、建物全体の剛性バランスを改善する方法のこと。
間取りへの影響が大きいため、設計者との丁寧な調整が必要です。筋交いや構造用合板と併用されることもあります。
※上記の3つの方法はどれも、「耐力壁を確保する」ことが目的であり、構造補強としての基本的な考え方は共通しています。
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【2】基礎の補強・一体化
次に紹介する構造の補強方法は、「基礎」の補強です。耐震性の根本は、建物を支える「基礎」にあります。いくら壁を強化しても、基礎が弱ければ補強の効果は限定的ですから、ぜひ基礎にも注目してください。
基礎の補強方法は、次の2つが代表的なものです。
鉄筋コンクリートの増打ち(増し打ち)補強
基礎の補強方法1つ目は、「鉄筋コンクリートの増打ち(増し打ち)補強」です。これは、既存の布基礎の外側に、鉄筋コンクリートを増し打ちして一体化させる方法のこと。
構造的には新旧の基礎がしっかり連結されていることが重要で、ただコンクリートを打つだけでは不十分。鉄筋による定着・アンカー設計など、構造的な判断が不可欠です。
無筋基礎の置換・架け替え
基礎の補強方法2つ目は、「無筋基礎の置換・架け替え」です。
古い木造住宅では、無筋コンクリートや玉石基礎が使われているケースもあります。
この場合は、部分的または全体的に基礎そのものをやり直すことを検討する必要があり、その場合に選ばれる鳳凰が「無筋基礎の置換・架け替え」です。耐震補強というより「構造刷新」に近い対応で、構造全体を支える重要な判断だと言えるでしょう。

【3】接合部の補強(柱脚・柱頭)
最後に紹介する構造の補強方法は、構造材の「接合部」の補強です。地震時には、柱や梁が抜ける・折れるというよりも、「つながり」が壊れることで倒壊が始まります。
特に、柱と土台、柱と梁をつなぐ「接合部」の補強は、地味ながら非常に重要なポイントです。
接合部の代表的な補強方法は、次の2つです。
金物の追加・交換
接合部の補強方法1つ目は、「金物の追加・交換」です。専用の接合金物(ホールダウン金物・筋交いプレート・羽子板ボルトなど)を使い、部材同士をしっかりと連結します。
古い住宅では、そもそも金物が入っていなかったり、規格外の金物が使われていることもあるため、まず現況調査によって“どこが弱点か”を見極めることが重要です。
ボルトの締め直し・補強プレートの設置
接合部の補強方法2つ目は、「ボルトの締め直し・補強プレートの設置」です。既存金物が劣化していたり、緩んでいたりする場合は、増し締めや補強を行います。
小さな作業に見えても、地震時には大きな違いを生むことがあります。
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補強が効かない(もしくはできない)ケースもある
ご紹介した「構造的な補強」は、常に有効とは限りません。
建物の状態や劣化の程度によっては、補強を施しても構造全体の安定性を十分に確保できないケースも存在します。
また、補強が可能であっても、実現には莫大なコストや生活機能の犠牲を伴うこともあります。
たとえば、以下のような状況では、設計上の検討が非常に難航します。
・基礎の劣化や沈下が進行しており、補強しても全体を支えきれない
・柱や梁の断面が極端に小さく、全体として強度不足が著しい
・壁を増やすことで、動線や採光、通風が大きく阻害されてしまう
・接合部や構造の要所が隠蔽されており、安全性を合理的に判断できない

このような場合、たとえ「補強案」を提示できたとしても、その効果や合理性が限定的である可能性が高くなります。
「補強しないよりはマシ」といった精神論に頼るのではなく、コストや将来性を含めて、リノベーション自体の可否を一度立ち止まって検討することも必要です。
設計者としては、補強の“可能性”だけでなく、“実効性”と“合理性”を併せて判断する姿勢が求められます。

「耐震性を上げる=壁を増やす」ではない
補強と聞くと、多くの人が「壁を増やせばいい」と思うかもしれません。
しかし実際には、壁量の増加だけでは不十分で、それ以上に「耐力バランス」が極めて重要だと覚えておきましょう。
たとえば、東西方向の壁が多くても、南北方向に壁が少なければ、地震時に建物が“ひねれて倒れる”こともあります。
耐震性とは、「数」ではなく「配置と構造」で決まるもの。
これは、一般の住まい手には理解しづらく、現場で軽視されやすい部分でもあります。

建築家が行う「構造補強の読みと設計」
設計事務所では、リノベの設計時に構造専門の設計者と連携し、既存構造の強度バランスと補強の必要性を判断します。
・力の流れ(地震時の揺れの伝わり方)を把握
・耐力壁の位置・量を調整
・基礎補強が可能かを検討
・壁や梁を新設する場合、構造と意匠の整合を取る
このような判断は、現場調査×設計技術×実務経験の掛け算で導き出されるもの。
営業マンやパッケージプランでは対応できない領域です。
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リノベーションで、間取り・空間デザインは、どこまで自由にできる?|構造の制約と“希望のすり合わせ”
リノベーションの計画段階で、もっとも高揚感が高まるのが「間取り」や「空間演出」の検討でしょう。
壁を抜いて広いLDK、吹き抜けをつくって明るい空間、中庭や大開口のある家-など。
こうした希望が、暮らしのイメージとともにあふれてくるのは自然なことです。
しかし、実際、リノベーションでは「構造が邪魔をする」ことが少なくありません。
ここでは、リノベーションでは、どこまでが自由にできて、どこからが“構造上できない”のかを整理しながら、設計の現場でどのように希望と制約をすり合わせていくのかを解説します。

スケルトンリノベ=自由自在ではない
「スケルトンリノベーション」とは、内装や設備をすべて解体し、構造体だけを残して再設計する方法です。
スケルトンリノベーションは、「何でもできる」「まっさらな状態になる」と誤解されがちですが、実際には構造体そのものの位置・強度・制約は変えられないという限界があります。
たとえば、
・柱を抜くことはできない
・梁の高さや方向は制限がある
・耐力壁の移動には補強設計が必要
・基礎の範囲を変えることは難しい
つまり、スケルトンであってもなくても、「自由に間取りをつくれる」のではなく、「制約の中で最善を探る」というのがリノベーションにおける「構造」との正しい向き合い方です。

「抜きたい壁が抜けない」現実
空間を広くしたい、視線を抜きたい、回遊性をつくりたい、など。
このような要望に応えるには、しばしば壁を撤去する必要があります。
しかし、次のような壁は、簡単に抜くことはできません。
・耐力壁(地震時に揺れを支える壁)
・筋交いや構造用合板が組まれている壁
・梁や柱と一体になっている構造壁
こうした壁を無理に撤去すると、耐震性の低下につながってしまいます。
構造的な役割を持つ壁とどう向き合うかは、リノベーションの間取り設計で避けて通れない課題だといえるかもしれません。
空間の自由度と安全性のバランスをどう取るかが、設計の腕の見せどころです。

吹き抜け・大開口・天井高など|実現の鍵は「構造形式」にある
住宅設計において、「吹き抜け」「大きな窓」「高い天井」「中庭のあるプラン」といった空間提案は、多くの人が憧れる要素でしょう。
しかし、これらを実現するには、単なるデザインではなく構造形式(木造・鉄骨造・RC造など)と設計上の工夫が不可欠です。
そこで、下の表に、よくある要望と、それに伴う構造的ハードル、そして実現に向けた設計上の工夫の一例をまとめました。
要望 | 構造上の課題 | 設計上の工夫例 |
---|---|---|
吹き抜け空間 | 耐力壁や梁の配置に制約がある | 耐力壁の再配置、ブレース補強、構造バランスの再設計 |
大開口の窓 | 柱が視界や開口の妨げになる | 鉄骨フレームの採用、梁補強、開口部周辺の構造補強 |
高い天井 | 梁の高さが制限となる | 梁をあらわしにして見せる設計、天井面の段差による高さ操作 |
中庭のあるプラン | 柱・梁の連結が複雑化、構造バランスが崩れやすい | 四周の壁量調整、スパンバランスの再設計、構造計画の最適化 |
このように整理すると、どれも一筋縄ではいかない設計課題のように見えるかもしれませんね。
だからといって「できません」と即答するのではなく、どうすれば実現できるかを構造から考えるのが、建築家の役割。構造的に困難な条件こそ、「設計の力」が問われます。
デザインと構造の両立。それは決して“感覚”ではなく、“論理”と“技術”の積み重ねなのです。
▼吹き抜け・大開口の構造については、こちらの記事で詳しく解説しています。
“大開口の家”を叶える構造設計|美しく、地震に強い窓のつくり方-注文住宅の構造補強ガイド(大開口編)
▶https://studio-tabi.jp/large-opening-house-structure/
吹き抜けは本当に危ないのか?|注文住宅で失敗しないための構造設計と補強の考え方(吹き抜け編)
▶https://studio-tabi.jp/structure-double-height/

工法によって変わる「空間の自由度」
リノベーションの可能性は、建物の“構造形式”によって大きく左右されます。
どんな空間をつくるかを考える前に、そもそも「どんな工法の建物をリノベーションするのか」を知り、設計自由度を整理しましょう。
それぞれの構造形式による特性と制約を、以下のとおりです。
工法・構造形式 | 自由度の特徴 |
---|---|
在来木造(軸組工法) | 柱と梁で構成されるため、壁を抜いたり移動する柔軟性が高い。ただし、耐力バランスの再調整が不可欠。 |
2×4(枠組壁工法) | 壁そのものが構造体の役割を担っているため、間取り変更に大きな制限がかかる。 |
鉄骨造(S造) | スパンを飛ばせる構造のため、大空間や開放感のある設計に向いている。ただし改修費用は高くなりやすい。 |
RC造(鉄筋コンクリート造) | 構造壁が多く配置されており、壁を抜く・間取りを大きく変更することは非常に困難。 |
つまり、「どんな空間をつくりたいか」という要望はもちろん大切ですが、それ以前に「どんな構造の建物をリノベーションするのか」が、設計の自由度と制限を決める起点となります。
だからこそ、物件探しの段階から「構造的な適性」を意識しておくことが、理想のリノベーションを叶える第一歩です。
▼工法・構造については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【木造構造の入門ガイド】軸組工法 vs ツーバイフォー|注文住宅で後悔しない構造の選び方・工期・費用とは?
▶https://studio-tabi.jp/structure_framework/
【建築構造入門】鉄筋コンクリート造・鉄骨造・木造(RC/S/W造)の特徴・耐震性・コスト・工期|注文住宅に最適な構造は?
▶https://studio-tabi.jp/structure_rc_s_w/

“デザインの自由”は、構造によって支えられている
構造設計は、意匠設計にとって「制約」ではありません。
むしろ、安全を前提にしてはじめて、本当の意味での自由なデザインが成立します。
つまり、構造とは「可能性の土台」です。
建築の世界には、こんな設計思想があります。
・「構造は、自由を担保する技術である」
・「安全な構造の上にこそ、美しい空間は成立する」
・「制約があるからこそ、設計には意味が生まれる」
これらはいずれも、構造とデザインを対立軸ではなく、相互に支え合う関係として捉える視点です。
構造を“足かせ”と考えるのではなく、“創造の起点”と捉えること。
それが、建築家としての設計姿勢であり、自由で豊かな空間を実現するための根本的な思考です。
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建築家とつくる「完全自由設計」の注文住宅|制約を活かす家づくりの工夫-設計事務所が導く“自由へのプロセス”
▶https://studio-tabi.jp/free-home-design/

構造リノベと「法制度」の現実|耐震基準・建築確認の壁
構造リノベーションを計画する際、多くの方が見落としがちなのが「法制度による制限」です。
間取りやデザインの希望をふくらませていても、建築基準法や各種制度に照らして“できない”ことが突然判明する。このようなケースは決して珍しい話ではありません。
そこでここからは、リノベーションにおける法制度の基本的な仕組みと、その構造的影響を整理します。

リノベには“適用される法律”がある
住宅の新築に限らず、リノベーションでも「建築基準法」や「条例」が適用されることになるので、あらかじめ注意しておきましょう。
とくに構造を変更する場合には、次のようなルールに従う必要があります。
・耐震性能の確保(旧耐震→新耐震への対応)
・建ぺい率・容積率・斜線制限などの守備義務
・建築確認申請の要否(大規模な改修・増築)
つまり、リノベーションであれば、「自由に改修できる・法に縛られない」ではなく、「法制度の枠内・可能な範囲で自由を実現する」という考え方が重要です。
▼建ぺい率・容積率については、こちらの記事で詳しく解説しています。
建ぺい率・容積率とは?|土地選びで後悔しないための法規制の基本・計算方法と注意点
▶https://studio-tabi.jp/coverage_floorarea_ratio/

築年数と「耐震基準」の関係を知らないと危険
住宅の耐震性能という側面でリノベーションに大きく影響するのが、1981年の「新耐震基準」施行です。
この年を境に、構造の基準が大きく変わり、それ以前の住宅は「旧耐震」と呼ばれます。
旧耐震(1981年6月以前)
→ 大地震への想定が弱く、耐力壁が不足しているケースが多い
新耐震(1981年6月以降)
→ 建築確認時に最低限の耐震性が求められるようになる
さらに、2000年にも構造規定の強化が行われており、築20〜40年の木造住宅の多くが「構造的に不利な時代」に建てられていることになります。
そのため、たとえ見た目がしっかりしていても、構造の補強は必須と考えるべきです。
そして、その補強計画が法制度に適合しているかどうかを判断する必要があります。

建築確認が必要になるケースとは?
すべてのリノベーションで確認申請が必要になるわけではありませんが、以下のような工事を伴う場合には、「建築確認申請」が必要になります。
ケース | 確認申請が必要になる理由 |
---|---|
建物の用途変更 | 住宅→店舗などに用途が変わる |
床面積の増加(増築) | 建ぺい率・容積率の制限が関係 |
構造的な変更 | 耐力壁や梁・柱の変更を含む |
大規模な改修(既存不適格含む) | 一部でも“違反”が是正される可能性あり |
建築確認が必要になると、構造計算書や詳細な図面が求められ、ハードルが一気に上がることに。
また、既存不適格(昔の基準では合法だったが、今は違反)となっている物件では、確認申請の提出がきっかけで“法的に実現不可能”ということが発覚するリスクもあるため、注意が必要です。

法制度の“盲点”に要注意
制度に適合することは大前提ですが、現実の設計では「法制度がカバーしきれない部分」もあります。
・補強箇所が法的には“OK”でも、実際には不安が残る
・数値上はクリアでも、建物全体のバランスが悪い
・条文の解釈次第で、行政判断がブレることもある
このような制度の限界と実務のギャップは、実際の設計者でなければ読み解けません。
つまり、「制度でOKが出た=安全・安心」ではなく、制度+構造知識+経験を掛け合わせて判断する必要があるのです。

「補助金があるからやる」では危険
近年では、リノベーションに対する補助金制度も増えています。
耐震改修や長期優良住宅化、省エネ改修など、制度によって条件はさまざまです。
しかし、補助金を得るために設計を歪めてしまうのは本末転倒です。
・実際には不要な工事まで行う
・空間の自由度を犠牲にする
・書類対応や認定手続きでコスト増になる
本当に優先すべきは、「制度に乗ること」ではなく、住まいとして本当に必要な改修が何かを見極めることです。
補助金は、計画の“結果として利用する”くらいの距離感で捉えるべきでしょう。
▼リノベーションの補助金については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【2025年最新版】リノベーション補助金・減税制度まとめ|対象条件・金額・申請方法・注意点を完全ガイド
▶https://studio-tabi.jp/renovation-subsidy-guide/

建築家が読み解く「法制度と設計のちょうどいい距離感」
構造補強を含むリノベーションでは、制度を守ることだけが目的ではありません。
大切なのは、「法に適合しているか」と同時に、「その設計が本当に暮らしに適しているか」という視点です。
特に、建築家は、法と現実のあいだにある“ちょうどいい距離感”を見極めることに長けています。
・法に適合しながらも、過剰にならない設計にとどめる
・耐力バランスや許容応力度を踏まえ、補強を必要最小限に抑える
・条文の趣旨を読み取り、制度のなかで柔軟に対応する
制度をただ守るだけでは、本当の安心は生まれません。
暮らしに即した構造と設計、その両方を成立させるのが、建築家の視点と判断です。
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【建築基準法 × 注文住宅】後悔しない家づくりのために|“自由な設計を叶える”ための基本ルール
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構造に不安があるとき、設計者はどう判断・対応しているか?|リノベの“GO”と“STOP”を分けるプロの思考
建築家や設計事務所がリノベーションに関わるとき、もっとも慎重に扱うのが「構造の不確実性」です。
とくに、既存建物の築年数が古く、図面や情報も乏しい場合、プロでも判断を誤れば重大なリスクを招くことになります。
それでも、すべてを“建て替え”で解決するのではなく、可能な限り「残す」方向で模索するのがリノベ設計の醍醐味。
そこでここからは、構造に不安があるとき、実際に設計者がどう判断し、どんな対応を取っているのかを解説します。

「危ない家」を見抜くために、まず確認すべき3つのこと
リノベーションを検討する際、最初に優先すべきなのは「希望のプランを考えること」ではありません。
そもそも、その建物がリノベーションに適しているかどうかを見極める必要があります。
そのために、設計者は以下の3点を最初にチェックします。
1.構造図の有無
→ 柱・梁・耐力壁など、構造の情報が正確に把握できるかどうか
2.現地調査での劣化状況
→ 基礎や柱、梁、床下などに、腐食・傾き・シロアリ被害がないか
3.過去の改修・増築履歴
→ 増改築によって構造バランスが崩れていないかどうか
これらの情報が揃っていなかったり、明らかに状態が悪かったりする場合は、希望の間取りや仕様を優先するのではなく、「そもそもこの建物で計画が成り立つか」を冷静に判断するところから始めましょう。

不安がある場合の対応パターンは、大きく3つ
構造に対する不安や懸念がある場合、次の3つの選択肢のいずれかで進めていくと良いでしょう。
【1】補強設計を前提に、計画を進める
構造に不安がある場合でも、設計や施工の工夫によって、リスクを抑えながら進めていけるケースは少なくありません。
たとえば、壁量の見直しや金物による接合部の補強、部分的な基礎補強などを行うことで、建物全体の安定性を高めることが可能です。
間取りの自由度にはある程度の制限がかかるものの、それでも全体として合理的に成り立つ計画であれば、問題なく成立するでしょう。
実際にも、多くのリノベーションがこのような形で実現されており、設計者と構造設計者が協力しながら、構造と暮らしのバランスを丁寧に整えていく流れが一般的です。

【2】希望を制限し、構造優先でプランを再設計
吹き抜けや壁の撤去、大開口といった要望があっても、構造上のリスクが高いと判断される場合には、あえてそれらのプランを見送り、安全性を優先した設計に切り替えることもあるかもしれません。
特に、耐震性への影響が大きいと想定される場合には、構造バランスも考慮した提案が求められます。住まい手と設計士で対話を重ねながら、納得できる落としどころを一緒に探っていきましょう。
「やりたいこと」を叶えるだけでなく、「安心して暮らせる家」であることも優先して考えることが大切です。

【3】抜本的に計画を見直す(最悪は中止)
・解体調査によって、重大な劣化や構造的な欠陥が明らかになった場合
・設計上、どうしても補強が難しい箇所が複数見つかった場合
・長期的な視点で「この家に住み続けることは現実的にリスクが高すぎる」と判断される場合
このような状況では、リノベーションの継続を前提とせず、「撤退」という選択肢についても話し合いが必要になります。
「どこまでできるか」を見極めるだけでなく、「やるべきではない」と判断することも大切です。

判断の基準は「数値」だけではありません
構造の安全性を判断するうえで、耐震等級や壁量計算といった数値的な根拠はもちろん大切です。
ただし、実際の設計や現場では、それだけで安心とは言い切れないことも多くあります。
たとえば、
・計算上は基準を満たしていても、全体のバランスが悪い
・耐力壁の配置に偏りがあり、ねじれのリスクがある
・雨漏りやシロアリ被害など、構造以外の要素が絡んでいる
こうした点を踏まえると、「数字」だけで判断するのではなく、現場を見て、状況を読み解く“設計者の目”が欠かせません。数値に頼りすぎず、全体の整合性を丁寧に確認することが設計士には求められます。

プロとしての誠実な判断
どれだけ魅力的なプランであっても、構造上の不安が残るまま工事を進めることは適切ではありません。
希望の間取りやデザインがあっても、安全性に懸念がある場合には、その実現を見送るという選択肢も、住宅設計においてはごく自然な判断のひとつだといえます。
リノベーションでは、「できるかどうか」ではなく、「安心して暮らし続けられるかどうか」が何よりも重要です。
設計の役割は、美しさを形にするだけでなく、安全性や構造的な信頼性を含めて、長く快適に暮らせる住まいを成立させること。
そのため、ときには「このまま進めるのは避けたほうがよい」という判断が必要になる場面もあります。それは後ろ向きな決断ではなく、住まい手の将来を見据えた、誠実で責任ある姿勢といえるでしょう。
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構造の見極めは誰に任せるべきか?|“安心できるリノベ”は、正しいプロ選びから始まる
リノベーションで構造に対する不安を解消するには、正確な調査と冷静な判断、そして適切な補強設計が不可欠です。けれども、それらは住まい手自身が担える領域ではありません。
だからこそ、信頼できる“専門家の力”を借りることが、リノベ成功の第一歩になります。
では、どのようなプロに相談すればいいのでしょうか?
ここでは、構造判断をめぐる役割とその違いを整理します。

設計事務所・工務店・リフォーム会社|リノベーションを支える3つの立場と役割のちがい
リノベーションを進める際には、さまざまな専門家が関わります。その中でも中心的な役割を果たすのが「設計事務所」「工務店」「リフォーム会社」の3者です。それぞれの役割や得意分野を理解することで、計画段階から判断を誤らずに進めることができます。

設計事務所(建築家)は“リノベ全体の頭脳”
設計事務所は、単に間取りやデザインを描くだけの存在ではありません。
構造の安全性を担保しながら、美しさや心地よさまで含めて空間全体を構想する、いわば“リノベーションの頭脳”ともいえる立場です。
現地調査の手配や、耐震補強の検討、建築基準法との整合性確認まで、建物の前提条件をひとつひとつ丁寧に整理しながら進めていきます。
構造設計士や耐震診断士との連携も密に行われ、設計と安全性が分断されることはありません。
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工務店|図面を“かたち”に変える実行力の要
工務店は、設計された内容を現場でかたちにしていくプロフェッショナルです。
補強工事の施工、使用する工法の選定、解体後の対応、すべてが工務店の判断と技術に委ねられます。
とくにリノベーションでは、解体してはじめて分かる事実も多いため、臨機応変に判断できる現場力が求められることに。設計図に忠実でありながら、現場に即した柔軟な調整ができる工務店との連携が、成功の鍵となります。

リフォーム会社|提案力はあるが、構造判断は不得手な側面も
リフォーム会社は、営業主導で進行することが多く、提案のスピード感や価格の分かりやすさは大きなメリットです。
あらかじめ用意されたパッケージプランや標準仕様の中から選べるため、リノベの全体像を早期に把握しやすい点も魅力のひとつといえるでしょう。
ただし、設計は外注や社内の設計担当に任せるケースが多く、構造に関する判断が表層的になる傾向があります。
「見た目は良いけれど、本当に大丈夫?」という不安が残る場合は、早めに専門家の意見を仰いだほうが安心です。

まとめ|見た目の提案だけでなく「土台の信頼性」まで見極める
どれほど魅力的なリノベーションの提案であっても、構造や法制度との整合性が取れていなければ、将来的に大きなリスクにつながることがあります。
そこで、設計事務所・工務店・リフォーム会社それぞれの役割と特徴について、下の表に整理しました。立場によって得意な領域も異なり、どこまで構造に踏み込めるかには明確な差があります。
見た目や価格だけで判断せず、「どこまで本質的に安心できるか」という視点でパートナーを選ぶことが、後悔のない家づくりへの第一歩になるはずです。
項目 | 設計事務所(建築家) | 工務店(施工会社) | リフォーム会社(営業主導型) |
---|---|---|---|
主な役割 | 空間と構造の整合を考えながら全体を設計する | 設計内容をもとに実際の工事を行う | パッケージ提案をもとに営業・手配を行う |
強み | デザインと構造を両立させた提案ができる 制度や法規への理解が深い | 現場経験が豊富で、解体後の変化にも柔軟に対応 | 提案や手続きがスピーディー 価格の目安もわかりやすい |
弱み | 設計に一定の時間と費用がかかることがある | 設計力は基本的に外部依存になる | 構造面への理解が浅くなりやすい傾向がある |
関わり方 | 最初から全体像を構想し、構造設計者とも連携しながら進める | 設計に沿って正確に施工し、必要に応じて補強も担う | 多くの場合、設計は外注で、工事も下請け手配が中心となる |
向いている人 | 意匠性・構造・性能のバランスを重視する人 | 信頼できる設計がある前提で、確実な施工を求める人 | デザインや細部よりも、手軽さやスピードを優先したい人 |

「インスペクション」だけでは足りない理由
最近では「インスペクション(住宅診断)」を依頼する人も増えていますが、あくまでこれは目視と簡易測定に基づく一次的な評価に過ぎません。
詳細な構造判断や補強設計の検討には至らず、安心材料としては不十分です。
▼インスペクションの限界
・天井裏や床下の詳細確認は基本的に行われない
・構造計算や耐震補強の可否までは判断できない
・結果は形式的な報告書にまとめられるのみ
本当に安心できるリノベを目指すなら、“診断”ではなく“設計”が必要です。

構造設計者との連携があるか ─ ここが分かれ道
信頼できる設計者は、自身の感覚だけで構造を判断しません。
構造設計士との連携を前提に、補強計画を論理的に組み立てます。
・補強の必要性を判断するための調査・ヒアリング
・必要な補強箇所や方法の構造計算・図面化
・耐力壁・金物・基礎補強の実行性・コストバランスの評価
これらを自社で完結できるのか、それとも専門家と連携して対応するのか。
あるいは、そもそも構造に触れないのか。
その違いが、設計の本質的な力を見極める分かれ道になります。

「無料相談」よりも、“信頼できる相手”を選ぶ
無料相談や相見積もりで設計者を比べる。
短期的には合理的に見えますが、構造のように“目に見えないリスク”を扱うリノベでは、むしろこうした姿勢が将来的なトラブルの火種になることも少なくありません。
・表面的なプランに流され、構造上の問題を見落とす
・相見積もり前提の姿勢で、設計者との信頼関係が築けない
・本気の調査や補強提案を依頼できず、後から追加費用や工期の遅れが発生
本質的なリノベーションは、「設計者を選び、すべてを任せる」ことから始まります。
比較のための依頼ではなく、信頼を前提としたパートナーシップこそが成功の鍵だといえるでしょう。

“構造がわかる建築家”こそ、リノベの要
建築家といっても、その構造に対する姿勢や知識はさまざまです。
見た目のデザインだけでなく、構造の制約を理解し、それを設計に昇華できるかどうか。
そこにこそ、設計者としての哲学と実力が表れます。
構造リノベで頼るべき設計者は、次のような視点と態度を持っています。
・無理を通さず、リスクを正直に伝える
・安全性に対して妥協しない
・法制度や施工手法まで深く理解している
・構造設計士など専門家との連携体制がある
・「意匠と構造は一体」と考えている
こうした設計者に出会えたなら、構造リノベの成功は半分以上、約束されたようなものです。
本当に安心できるリノベーションは、「誰とつくるか」で決まります。

よくある質問(Q&A)──構造リノベに関する不安と疑問に答えます
リノベーションに関する構造の問題は、誰にとっても不透明で不安の多い領域です。
ここでは、実際に多くの住まい手から寄せられる代表的な質問に対して、建築家の視点から明快にお答えしていきます。

Q1. 築40年の木造住宅でも、構造補強すれば安心して住めますか?
A. 状態次第ですが、必ずしも「安心できる」とは限りません。
築40年というだけでNGではありませんが、
・基礎の劣化
・接合部の状態
・耐力壁のバランス
このような見えない構造が健全かどうかを慎重に確認する必要があります。
また、旧耐震(1981年以前)の建物であれば、基本的には補強を前提にすべきです。
一部には「構造的にどうにもならない」と判断されるケースもあります。

Q2. インスペクションだけで構造の安全性は判断できますか?
A. 判断材料にはなりますが、それだけでは不十分です。
インスペクションはあくまで“簡易的な健康診断”のようなものです。
目視中心で、床下・天井裏・構造接合部の詳細までは確認できないことが多く、
・壁の中の構造
・金物の有無
・雨漏りや劣化の進行度
このような重要な情報が抜け落ちる可能性があります。
本格的な構造判断には、設計者や構造の専門家による調査・設計が必要です。

Q3. 壁を全部抜いて、ワンルームのような大空間にしたいのですが可能ですか?
A. 既存の構造次第では可能ですが、非常に慎重な設計と補強が必要です。
耐力壁(地震時に建物を支える壁)を撤去するには、
・代替となる補強(別の壁やフレーム)
・梁の補強・金物追加
・床・基礎の補強
このような設計で、構造のバランスを崩さないようにすることが絶対条件です。
むしろ「どこまで抜けるか」を見極めながら、空間設計を進めるのが現実的なアプローチだといえます。

Q4. リノベーションでも「耐震等級」って取れるんですか?
A. 理論上は可能ですが、現実的には取得は難しいケースが多いです。
耐震等級(1〜3)は新築時の構造設計・確認申請を前提とした制度であり、
既存住宅のリノベでは以下の課題があります。
・既存構造の不明点が多い
・基礎・柱の断面確認が困難
・必要書類の整備がされていない
そのため、等級の取得よりも、補強設計をしっかり行って構造性能を実質的に確保することが現実的で有効です。

Q5. 家族から「もう建て替えた方がいい」と言われています。それでもリノベの可能性はありますか?
A. 一度、設計者に調査・判断してもらうことをおすすめします。
感覚的に「古いから危ない」「リノベは無理そう」と判断するのは早計です。
プロの目から見れば、補強や設計の工夫で十分に再生可能な住宅も多く存在します。
逆に、建て替えの方が合理的と判断されるケースもあります。
重要なのは「構造の可否を根拠を持って判断すること」であり、感情や先入観ではなく、調査+設計者のアドバイスをもとに冷静に判断することが必要です。

まとめ|構造とリノベーションの“本質的な判断軸”とは?
リノベーションという選択肢には、新築では得られない豊かな価値があります。
それは単なるコストの安さではなく、「既存の住まいをどう活かし、どう整えるか」という設計と判断の積み重ねによってこそ実現するものです。
しかし、構造という“見えない部分”に問題があれば、どれほど美しい空間も安心にはつながりません。
とくに築年数の古い住宅では、構造補強・法適合・性能ギャップといった「目には見えないリスク」が数多く潜んでいるため、注意が必要です。

リノベ成功のカギは、“構造を見極める力”にある
設計者の役割は、単に間取りやデザインを整えることではありません。
構造的に「何ができて、何ができないのか」を正確に判断し、無理のない提案に落とし込むことが求められます。
・安全性に疑問がある建物は、最初の段階で“NO”と言う勇気
・補強の可否を“数字”だけでなく“全体バランス”で判断する技術
・法制度や補助金の活用を、“目的”ではなく“結果”として捉える姿勢
こうした“誠実な設計”こそが、安心して暮らせる住まいをつくる土台になります。

「費用が抑えられる」だけでは、リノベを選ぶ理由にならない
リノベーションは安くできることもありますが、それは結果論に過ぎません。
実際には、構造補強・法適合・性能向上などにより、建て替えと同等のコストがかかるケースも多々あります。
大切なのは「費用を抑える」ことではなく、「納得できるコストで、本当に安心して住み続けられる家を実現する」こと。
そのためには、“コストの中身”と“実現の難易度”を最初に整理する必要があります。

設計事務所にできること|私たちは「判断軸」を提供します
私たち建築家は、リノベーションの“設計”を通じて、単なる空間デザインだけでなく、構造の安全性や法的整合性、費用対効果までを包括的に見極めることができます。
・構造の安全性と、空間の自由度のバランスを調整
・補強の要否を実務視点で整理
・法制度や補助金制度を加味した、無理のない設計提案
「この家、本当に大丈夫?」
「リノベで大空間は実現できるの?」
「新築とどちらが合理的?」
そんな疑問がある方こそ、建築家にご相談ください。
リノベか新築かの判断から、安心して暮らせる住まいの実現まで、最初から伴走します。
▼私たちの【設計実例】は、以下からご覧いただけます。
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参考資料・公的機関リンク一覧(リノベーション関連)
国土交通省 住宅局住宅生産課|一般社団法人 住宅性能評価・表示協会
既存住宅の住宅性能表示制度ガイド
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001594050.pdf
国土交通省|土地・建設産業局、住宅局
既存住宅流通市場の活性化
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/hyouka/content/001313273.pdf
国土交通省
令和7年度長期優良住宅化リフォーム推進事業
https://r07.choki-reform.mlit.go.jp/
一般社団法人 住宅リフォーム推進協議会
https://www.j-reform.com/
住宅金融支援機構|フラット35リノベ
https://www.flat35.com/loan/reno/index.html
国税庁
マイホームを増改築等したとき|住宅特定改修特別税額控除など
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_2.htm
国税庁
No.1216 増改築等をした場合(住宅借入金等特別控除)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1216.htm