はじめに|リノベでも断熱・省エネ性能は上がるのか?
築年数が古くなるにつれ、「冬は寒くて夏は暑い」「光熱費が高い」といった悩みは増えるのではないでしょうか?そこで注目されるのが、リノベーションによる「断熱性能」と「省エネ性」の向上。
とはいえ、リノベで本当に断熱性や省エネ性は改善できるのでしょうか?
「新築でないと難しいのでは?」「補助金は使えるの?」「どこまで工事が必要?」など、実際に検討を始めると多くの疑問や不安が浮かぶ方も多いと思います。

そこで本記事では、一級建築士の立場から、制度・設計・費用・失敗回避のリアルまで、断熱・省エネリノベの“本質と限界”を徹底解説します。
・カバー工法とスケルトン改修の違い
・建築確認申請が必要な境界線
・法改正の影響と補助金の正しい捉え方
・設計・施工で失敗しないための視点
上記のように、見た目だけではない「性能から整える」リノベーションの全体像をお届けします。
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断熱・省エネリノベの本質的なメリット
断熱リノベーションは、単に“寒さ対策”や“光熱費の削減”だけを目的とするものではありません。正しく設計・施工された断熱リノベーション、つまり、住まいの根本的な性能改善は、「暮らしの質そのものの向上」に直結するものです。
そこでここでは、断熱・省エネリノベの「本質的なメリット」を5つの観点から見ていきましょう。

メリット1. 夏も冬も快適な住環境を実現
高断熱・高気密のリノベは、外気温の影響を受けにくい住環境をつくります。
冬は室内の熱が逃げず、暖房効率が高まり、夏は日射熱や外気熱の侵入を抑えることで冷房効率が向上。季節を問わず、温度差が少なく安定した空間になります。
メリット2. 健康リスクの低減(ヒートショック・結露・カビ)
断熱性能が不足している住宅では、部屋ごとの温度差が激しくなり、ヒートショックによる健康被害(特に高齢者)が発生しやすくなります。また、暖かい室内で冷たい外壁面が露出していると結露が起き、カビやダニの発生原因にも。断熱リノベによって温度のバリアフリー化を図ることや、衛生面に配慮することで、身体への負担や健康リスクを軽減する効果があります。
メリット3. 光熱費の削減(省エネ化による実利効果)
冷暖房効率が改善されることで、電気・ガス代などのエネルギー消費量を削減させることができます。
特に近年はエネルギー価格が高騰しているため、長期的な家計の安定にもつながる現実的なメリットにもなります。
メリット4. 資産価値・流通性の維持と向上
住宅の省エネ性能は、今後の中古住宅市場でも重視されるようになります。
断熱等級や省エネ性能に対応していることで、売却時や賃貸活用時における価値の維持・向上を期待することができます。
メリット5. 心地よさの「質」が変わる(体感的快適性の向上)
高性能住宅でよく語られるのが、「数値では表せない心地よさ」です。室温だけでなく、床・壁・天井の表面温度が均一であること、風の通り方、音の伝わり方などが総合的に整っていると、住宅全体に“やわらかい空気感”が生まれます。リノベでも、その“感覚的な空気感の質”を向上させることは可能です。
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リノベでできる断熱・省エネの施工範囲とは?
ここまで、断熱・省エネ性能をリノベーションで向上させるメリットを解説しました。
実際に、断熱・省エネ性能を高めるには「どこに手を入れるか」が非常に重要です。とはいえ、リノベーションでは新築と異なり、既存の構造・間取り・状態によって施工可能な範囲が制限されるのが実際のところでしょう。
そこでここからは、実際にリノベで性能向上が可能な主要部位と、それぞれの特徴・制約を整理していきます。

1. 窓・開口部まわり(熱損失の約6〜7割)
断熱・省エネリノベーションで、最も優先順位が高いのが「窓まわり」です。なぜなら、住宅の中で最も熱が出入りするのが開口部であり、壁や屋根に比べて断熱性能が圧倒的に低いからです。
リノベでできる対応としては、
・内窓の追加(既存窓の内側に樹脂製サッシを増設)
・窓交換(ガラスやサッシの刷新)
・外付けシャッター・雨戸による遮熱強化
などが代表的です。
特に「内窓の追加」は、比較的費用も手間も抑えられる上に効果が高いため、多くの住宅で有効な選択肢となります。
▼窓の断熱については、こちらの記事で解説しています。
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2.床断熱(1階床下)
次に、断熱・省エネリノベーションで、優先順位が高いのが「床断熱」です。築年数が古い住宅では、床下に断熱材が一切入っていないケースも少なくありません。
冷気が床から直接伝わるため、「足元が冷える」「底冷えする」といった体感の不快さにつながります。
リノベでは、
・床を一度剥がして断熱材を施工する方法
・床下に潜って断熱材を吹き付ける方法
などがあり、構造と下地の状態に応じて適切な手法を選ぶと良いでしょう。

3.天井・屋根の断熱
続いて紹介する、断熱・省エネリノベーションは「天井・屋根の断熱」です。
屋根断熱(屋根面に断熱層を設ける)と、天井断熱(天井裏に断熱材を敷く)は、施工方法も効果も異なります。
・天井断熱:小屋裏スペースがある場合に有効で、比較的施工が容易
・屋根断熱:勾配天井や天井を解体する場合に対応可能。断熱の連続性が得やすい
どちらを選ぶかは、既存の屋根構造や空間構成によって判断しましょう。

4.壁の断熱
4つ目に紹介する断熱・省エネリノベーションは「壁の断熱」です。
壁の断熱は非常に重要ですが、同時にリノベで最も難易度が高い部位でもあります。
壁断熱の方法は「内断熱」・「外断熱」の2つがあります。
それぞれの特徴は、次の通りです。
・内断熱:室内側に断熱層を設ける(カバー工法)
・外断熱:外壁ごと断熱材で包む(耐火・防水の追加検討が必要)
ただし、内部の壁をすべて解体しなければならない場合も多く、費用・工期・構造補強との兼ね合いが重要です。
※詳細は第4章で、法制度との関係も含めて詳しく解説します。

5. 換気・空調・給湯などの設備更新
最後に、「断熱」だけでなく、「エネルギーの使い方」も省エネ性には直結します。
・熱交換型の換気システム(第一種換気)
・高効率のエアコン・床暖房・全館空調
・エコキュートやハイブリッド給湯器など給湯設備の更新
・太陽光・蓄電池の導入による創エネ
上記のような設備の更新は、断熱とは別ジャンルに思われがちですが、断熱性能との整合性を取ることで、トータルの省エネ効果が大きく変わります。
▼設備については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【保存版】注文住宅・設備の選び方|“本当に必要なもの”だけを見極める判断軸と快適性のポイント
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6. 部分改修 or 全体改修?|“壊し方”によってできる範囲は変わる
ここで、少しだけ触れておきたいのが、「壊し方」による施工範囲の違いです。
・表層的に手を加えるだけの部分改修(カバー工法)は、施工範囲や自由度が限定的
・一方、スケルトン改修(フルリノベ)は、構造体まで解体して一から再設計できるため、断熱・気密を高いレベルで確保しやすい特徴があります
この違いは、設計・施工・費用・法制度すべてに影響するテーマであり、次の第4章で本格的に掘り下げていきます。

設計戦略:断熱・省エネ性能を引き出すための考え方
ここまで、リノベーションで性能向上が可能な主要部位について解説しました。
リノベーションで、断熱・省エネ性能を高めるには「どう設計するか」も重要です。
高性能な断熱材や設備を導入しても、設計の方向性が曖昧なままだと、“コストをかけたのにも関わらず、寒い・暑い・光熱費が高い”という残念な結果だけが残ってしまうことも少なくありません。
そこでここからは、性能を引き出すための「設計戦略」を解説します。

1. 部位ごとの断熱材の選定と厚みのバランス
まずおさえておきたのは、考え方のスタンスです。断熱性能を考える際、「とにかく高性能な材料を使えばいい」という発想では、費用対効果が崩れてしまいます。
たとえば、次のことに注意しましょう。
・屋根(天井)からの熱流入・流出が最も大きいため、屋根断熱の優先度は高い。
・窓と床も重要。外気温との接点が多い箇所です。
・壁の断熱は施工が難しい分、設計上の連続性や気密性を意識する必要があります。
ポイントは「どの部位をどれだけやるか」です。
断熱材の種類(性能)× 厚み(量)× 接合部の精度を、設計段階で計画する必要があります。

2. 窓まわりの設計:開口部の性能を決めるのは“ガラス”だけではない
次におさえておきたいのは、窓の設計です。
窓は、熱の出入りが最も多く、断熱リノベの成否を左右する要素。
▼特に次のことに注意しましょう。
・ガラスの種類(Low-E複層/トリプル/アルゴンガス封入など)
・サッシの材質(アルミ・樹脂・木製)
・窓のサイズや配置(方位・日射取得)
単に「内窓を付ければ良い」ではなく、窓の“役割”に応じた設計が重要です。
日射を取り入れたい南面は開け、北側はできるだけ閉じる。
また、外との関係性(風景・プライバシー)と性能のバランスも考慮すると良いでしょう。

3. 換気と気密:空気の“質”と“経路”をどう整えるか?
3つ目に紹介するのは、換気と気密について。
断熱性能ばかりを追いかけてしまうと、見落とされがちなのが換気と気密の関係です。
▼たとえば、次のことには注意が必要です。
・気密が悪いと、せっかくの断熱層から熱が漏れる
・換気が不十分だと、CO₂や湿気がこもり、空気環境が悪化
・気密と換気は「セット」で考える必要がある
昨今では、第一種換気(熱交換型)に関心がある方も増えたようですが、導入する場合は、気密測定によって性能が発揮されるか確認することを前提に採用してください。
また、間取りの変化に応じて換気経路も最適化する必要があることにも注意しましょう。

4. 設備との整合性:設計を“設備頼み”にしない
続いておさえておきたいのは、設備についてです。
エアコン・床暖房・給湯器・太陽光などの設備は、省エネ性能を高める有効なツールですが、断熱・気密と分離した設計では十分な効果を発揮できません。
▼たとえば、次のことに注意しましょう。
・熱が逃げやすい家で、高性能エアコンを使っても省エネにはならない
・設備更新の前に、「その設備が本当に必要か」を見極める
・断熱・日射制御・自然通風をうまく設計すれば、“設備依存度”を下げることができる
性能リノベにおいて重要なのは、設備ではなく“建物そのものの器”を整えることです。
▼風通しについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
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5. パッシブ設計と数値だけでは測れない快適性
最後に、紹介するのは、パッシブデザインについてです。
最近では断熱等性能等級や一次エネルギー消費量など、性能を数値で示す基準が増えています。もちろんそれらは一定の指標になりますが、実際の暮らしにとって重要なのは、「どう感じるか」=体感的快適性ではないでしょうか?
そこで注目したいのが、次のような“パッシブデザイン”です。
日射制御・日射遮蔽:日射を取り入れる窓と、遮蔽する庇の設計
自然通風・通風計画:熱がこもらない風の通り道を計画
蓄熱・放熱:熱容量の大きい素材を採用した土間と薪ストーブなど
パッシブデザインで、機械的な数値だけでなく、建築的な工夫と美意識で快適性を底上げしましょう。
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法改正と「2つの断熱リノベ」|制度・設計・手続きの分岐点
ここまで、断熱・省エネのリノベーションについての設計戦略を解説しました。
しかし、実際のリノベーションでは、設計戦略には「法規制」も関わってきます。
特に、2025年4月の法改正(建築基準法・建築物省エネ法)は、リノベーションにも大きな影響を与えています。
「断熱・省エネ性能を高めるリノベーション」を検討する場合、施工の深さ(どこまで壊すか)によって、法律上の扱いが大きく変わることを理解しておくことは必須となりました。
そこでここからは、法改正の要点を整理しつつ、「カバー工法」と「スケルトン改修」の違いとその分岐点を明確にしていきます。

2025年の法改正で「リノベでも建築確認が必要」に
2025年の建築基準法改正により、これまで適用されていた「4号特例」が縮小されます。
これにより、木造2階建ての戸建て住宅でも、一定のリノベーションでは建築確認申請が必要となりました。
とくに、以下のようなケースでは要注意です。
・増築をともなう工事
・スケルトンリノベーション(構造に手を加える場合)
あわせて、省エネ法の改正により、断熱性能や一次エネルギー消費量といった基準への適合も義務化されました。
これまでは「説明」で済んでいた省エネ対応も、今後は数値による適合証明が必須となり、建築士による設計・申請対応が前提となります。

性能向上リノベは「カバー工法」と「スケルトン改修」の2種類
断熱性能や快適性を高めるリノベーションには、大きく分けて2つのアプローチがあります。
それが「カバー工法」と「スケルトン改修」です。
【カバー工法】既存の上から断熱材を足す方法
カバー工法は、既存の内装や外装を残したまま、その上から断熱材や内窓を追加する工法です。
▼カバー工法の特徴
・躯体(柱・梁・壁構造)に手を加えないため、建築確認は原則不要
・工期が短く、費用も比較的抑えやすい
・補助金の対象になりやすく、申請もシンプル
ただし、構造に触れない分、断熱性能には限界があります。
また、納まりの工夫が不十分だと、結露や空気のたまりによる不快感が生じることもあるため、施工の質が求められることにも注意しましょう。

【スケルトン改修】構造を露出し、断熱・間取りを一新
一方、スケルトン改修では、壁・床・天井をすべて解体し、構造体をむき出しにして再構成します。
▼スケルトン改修の特徴
・躯体に手を加えるため、建築確認+省エネ基準の適合が必須
・設計段階で、UA値・一次エネルギー消費量・気密性の検討が必要
・断熱等性能等級5〜6相当の高性能住宅も実現可能
そのぶん、設計・施工・申請を一貫して担えるチーム体制が必要で、費用や工期は大きくなる傾向。
ただし、補助金の額も大きく、制度を上手に活用すれば高性能な住まいが実現できます。

どちらを選ぶべきか?違いを比較して見極める
「カバー工法」と「スケルトン改修」では、手続き・性能・コスト・自由度など、あらゆる面で違いがあります。
選択を誤ると、費用や設計に大きなズレが生じるため、初期段階での判断が非常に重要です。
以下の比較表に、主な違いをまとめました。
比較項目 | カバー工法(表層改修) | スケルトン改修(全面再構築) |
---|---|---|
建築確認 | 原則不要 | 原則必要(法改正により必須化) |
省エネ基準適合 | 対象外または一部適用 | 対象(断熱・一次エネの数値適合) |
設計自由度 | 間取りは基本的に現状維持 | 間取り・断熱・構造すべて自由に設計可 |
施工費用 | 比較的安価に抑えやすい | 割高になりやすい(構造・性能の対応が必要) |
補助金 | 小規模でも申請しやすい | 高額補助の対象/申請はやや複雑 |
性能の上限 | 一定の限界あり | 高断熱・高気密も実現可能 |
適したケース | 築浅・費用重視・断熱改善のみ | 築古・耐震補強・間取り変更あり |
この比較を踏まえたうえで、次の節では、どちらの方式を選ぶべきかの判断基準を解説します。
設計者としては、「予算」や「性能」だけでなく、制度・補助金・施工体制までを一体で考えることが重要です。

「建築確認が必要かどうか」は設計の初期で判断を
どちらのリノベーション手法を選ぶべきかは、設計のごく初期段階で明確にしておくことが不可欠です。
なぜなら、解体範囲・構造補強・断熱性能・補助金申請など、あらゆる判断がこの分岐で変わってくるからです。
たとえば以下のような場合は、スケルトン改修に該当します。
・間取りを大きく変更したい
・構造の補強が必要になりそう
・床・壁・天井をすべて壊して一新したい
・高断熱・高気密な住宅を目指したい
これらは、建築確認申請+省エネ基準適合義務の対象となります。制度対応を見据えた設計・施工が前提になり、その分、コストもかかります。

逆に、以下のようなケースであれば、カバー工法が現実的な選択肢となります。
・現在の間取りを活かしながら、断熱性能だけを改善したい
・費用を抑えながら、見た目や快適性を少し整えたい
・補助金を活用しつつ、工期も短くしたい
こちらは、確認申請不要+補助金対応がスムーズというメリットがあります。

ポイントは、制度・設計・予算を「別々に考えない」ことです。
最終的な間取りや仕様だけで判断するのではなく、制度の要件や補助金の条件も含めて、最初から全体で判断できる体制をつくることが、失敗しないリノベーションにつながります。
▼補助金については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【2025年最新版】リノベーション補助金・減税制度まとめ|対象条件・金額・申請方法・注意点を完全ガイド
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費用感と補助金の活用法|金額でなく“設計の意図”で判断する
「断熱・省エネ性能を上げたい」と思ったとき、多くの方が最初に気にするのが「いくらかかるのか?」という点ではないでしょうか?
ただ、断熱リノベの費用は“相場”で判断できるものではなく、設計の方向性・施工の深さ・建物の状態によって大きく変動します。
そこでここからは、「何にお金がかかり、どう考えるべきか」についての判断軸をご紹介します。

「やる範囲」次第で、リノベ費用の構造は大きく変わる
断熱リノベーションにかかる費用は、「どこまで手を加えるか」によって大きく変わります。
たとえば、窓だけ、床だけ、あるいは壁の表層だけといった部分的な改修であれば、費用は比較的コンパクトに収まります。
一方で、床・壁・屋根の断熱、換気設備や給湯器まで一体で整えるような改修では、当然ながら総額は大きくなります。ただそのぶん、家全体を“最適化”できるという大きな価値も生まれます。

特に分かれ目となるのは、「表層リフォーム」か「スケルトン改修」かという点です。
「表層リフォーム」・「スケルトン改修」の違いによって、
・建築確認などの法的手続き
・設計にかかる期間や調査の範囲
・解体後の下地調整や補修費
・断熱と耐震、構造補強が絡む複合コスト
このような単なる材料費では見えない“背景となるコスト”が積み上がっていきます。
だからこそ、「見積金額」だけでなく、設計の深さや制度対応も含めて考える必要があるのです。

「いくらかかるか」ではなく「何を叶えるか」で費用を考える
断熱リノベの費用を検討するとき、どうしても「高い or 安い」という金額の大小に目が行きがちです。
しかし本当に大切なのは、そのお金で“何が実現できるのか”という視点です。
たとえば、
・夏も冬も、家の中を快適に保てること
・空気の質や流れが心地よく整っていること
・結露やヒートショックの不安がなくなること
・エアコンに頼りすぎず、自然な環境で暮らせること
・家族の健康を支える「空間の質」が底上げされること
このような本質的な目的が設計にきちんと組み込まれていれば、たとえ費用がある程度かかっても、それは意味のある投資になることでしょう。
逆に、「とりあえず安く」「補助金が出るから」といった曖昧な理由で決めてしまうと、期待したほどの効果が得られず、「結局、もったいなかった」と感じてしまうこともあります。
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「リノベーション=お得」は本当?価格高騰と費用の現実|リノベの落とし穴と予算の真実-建築家が徹底解説
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補助金は“目的を叶えるための手段”であるべき
断熱や省エネに関するリノベーションでは、国や自治体からの補助制度を活用できることがあります。
たとえば、年度によっては以下のような制度が利用可能です。
・先進的窓リノベ事業
・長期優良住宅化リフォーム推進事業
・住宅省エネキャンペーン(複数制度が統合された大型補助)
ただし、ここで重要なのは、「補助金を使うためにリノベする」ような本末転倒の選び方をしないことです。
本当に必要な設計が補助対象であれば活用すればよいですが、仮に補助金の対象外だったとしても、それが暮らしの質に直結するものであれば、自費で実行すべき価値があるかどうかを考えるべきです。
それを判断するのが、設計者の大事な役割です。
補助金はあくまで“助成”であり、設計そのものを変える理由にはなりません。
制度に合わせて無理にプランをねじ曲げてしまえば、本来実現したかった暮らしが遠のいてしまうこともあります。

「回収できるか?」ではなく「暮らしが変わるか?」で考える
省エネリノベは、たしかに光熱費の削減によって10年〜20年かけて投資を回収できるとも言われています。
しかし、実際にはエネルギー価格の変動や設備の寿命、家族構成の変化など、さまざまな要因が絡みます。
つまり、数字だけで損得を判断するのは難しいということです。
それよりも、リノベ後に得られる“あたりまえの快適さ”がどれだけ確かなものかで判断すべきです。
・冬でも素足で過ごせる
・家じゅうに温度差がなく、ヒヤッとする空間がない
・結露やカビに悩まされない
・エアコンを最小限にしながら快適に暮らせる
こうした実感こそが、断熱リノベの本当の価値ではないでしょうか?
「お金をかけてよかった」と思えるかどうかは、数字よりも体感の変化にある。それが、建築家として私たちが大切にしている視点です。
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【完全ガイド】リノベーション費用の内訳と予算配分の戦略‐“後悔しない・失敗しない”ための判断基準とは?
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“やったつもり”のリノベーションで終わらないために|よくある失敗と建築家の視点
断熱・省エネリノベーションは、「やったつもり」になりやすい領域です。
材料を変えた、設備を新しくした・・・それでも「なぜか寒い・暑い・効かない」といった声は、決して少なくありません。
そこでここからは、リノベで起こりがちな失敗例を5つ紹介し、建築家の視点からその原因と回避策を解説します。

【失敗1】床に断熱材を入れたのに、足元が寒いまま
よくあるのが、「床下に断熱材を入れたのに、足元が冷えるまま」というケース。
これは、壁や窓からの冷気の侵入が続いている状態であることが原因となっていることが多いです。
断熱は“部分”ではなく“全体の連続性”が重要だということ。
床だけやっても、他の部位との断熱ラインが分断されていれば、熱は別ルートから逃げてしまいます。

【失敗2】内窓をつけたのに結露が止まらない
内窓追加は断熱リノベで定番ですが、「思ったより結露が改善されなかった」という声もあります。
その多くは、次のことが原因となっています。
・気密性が不十分
・既存窓の性能差が大きすぎる
・室内の湿度管理が不適切
開口部の断熱・気密は、サッシだけでなく“設置の精度”が決定打になります。
また、空気が動かないことで“空気だまり”が生じると結露の発生源にもなるため、注意しましょう。

【失敗3】高性能エアコンに変えたのに、効きが悪い
設備だけ更新しても、「全然効かない」と感じるのはよくある失敗です。
原因は単純で、建物本体がその性能を活かせる構造になっていないためです。
・断熱性が不十分
・気密性が取れていない
・通気がコントロールされていない
このような構造になってしまっています。これは、「建築的な断熱」と「設備的な省エネ」が切り離されている典型例。どちらも揃って初めて、性能は発揮されるものなのです。

【失敗4】断熱したら逆に空気がこもって不快になった
高気密化が進むと、空気の流れが悪くなり、「なんとなく息苦しい」「空気がこもる」といった現象が発生することも。
これは、換気設計が断熱計画と連動していないことが原因です。
断熱リノベには、“空気の設計”もセットで求められます。
第一種換気/第三種換気の選定や、排気・吸気のレイアウトを「間取りと一緒に」計画しましょう。

【失敗5】断熱材を入れたはずなのに、体感的に寒い
これは、表面温度の差が原因であることが多いです。
壁や床が冷たければ、室温が20℃あっても体感温度は17〜18℃にしか感じられないことがあります。
エアコンだけで空気を温めても、床や壁が熱を持っていなければ、体感では空間は冷えたままだということです。
体感的な快適性を上げるには、“空気”よりも“素材の温度”を整える断熱設計をこころがけると良いでしょう。

まとめ|「部分」ではなく「全体」を見ること
ここで紹介した失敗例に共通しているのは、“部分的な改修”で全体の性能を変えようとしていることです。
断熱・省エネ性能を本当に引き出すためには、躯体・断熱・開口部・通気・換気・設備といった各要素を部分的に扱うのではなく、住宅全体の関係性の中で設計として一体的に整える視点が欠かせません。
特にリノベーションにおいては、既存建物の状態を正確に把握し、性能向上の効果とリスクを冷静に見極めた上で、制度との整合も含めて設計を構築できることが、成功の鍵になります。
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リノベーション、やめたほうがいい?|後悔・失敗を招く“理想と現実”のズレと、本質的な価値・選ばれる理由
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Q&A|断熱・省エネリノベーションに関するよくある質問
ここからは、断熱リノベーションを検討されている方から、実際によくいただくご質問をQ&A形式でご紹介します。
制度・設計・施工の基本から、誤解されがちなポイントまで、一級建築士の視点でお答えします。

Q1|築40年以上の家でも断熱性能は上げられますか?
A.可能です。ただし“どこまで性能を上げるか”で手法が変わります。
築古住宅でも、断熱材の追加や開口部の見直し、設備の更新によって、快適性や省エネ性は大きく改善できます。
ただし、躯体の劣化状態や構造的な制約もあるため、建物診断を前提に「どの程度の性能向上が現実的か」を見極める必要があります。
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Q2|マンションでも断熱リノベはできますか?
A.できます。ただし“外部構造体”には触れられないという制約があります。
マンションの場合、共用部(外壁・サッシなど)は変更不可なため、室内側からの断熱(内窓・床断熱・天井断熱)と設備更新が中心となります。
それでも、
・足元の冷え改善
・空気の流れの最適化
・音環境の改善(防音性向上)
といった効果は期待できます。

Q3|断熱リノベをすると建築確認申請は必ず必要になりますか?
A.「どこまで壊すか」で決まります。
表層の断熱追加(カバー工法)のみであれば、確認申請は不要なことが多いです。
一方、壁・床・天井を解体し、構造に触れるスケルトン改修を伴う場合は、建築確認が必要になります(2025年改正以降は明確に義務化)。
「断熱リノベ=確認申請が要る」とは限りませんが、設計初期段階での判断が重要です。

Q4|補助金は誰でも使えますか?
A.使える可能性はありますが、必ず使えるわけではありません。
補助金には、次のような制約があります。
・工事内容の要件
・断熱等性能などの数値的な条件
・登録事業者による施工
・完成後の報告義務
また、年度ごとに制度・対象・金額が変動するため、設計者との連携が不可欠です。補助金ありきではなく、「制度が使える範囲で活かす」姿勢が現実的だと考えた方が良いかもしれません。

Q5|断熱だけでなく、気密測定はやるべきですか?
A.理想的には「やるべき」です。特に全体を改修する場合には。
断熱材をしっかり入れても、気密性が低ければ、熱のロスや換気の不調が起こりやすくなります。
気密測定を実施すれば、
・換気計画が機能するか
・室内の温熱環境が安定するか
といった点が設計通りに仕上がっているか確認できるため、性能向上リノベでは非常に有効です。

Q6|断熱リノベって、結局は「どれくらい快適になる」んですか?
A.見た目以上に“体感の質”が変わります。
・エアコン1台でも家全体が快適になる
・床の冷えがなくなり、スリッパが不要に
・部屋ごとの温度差がなくなり、ヒートショックリスクも軽減
・カビや結露がなくなり、空気が澄んだ印象に
つまり、室温や光熱費の変化だけでなく、「暮らしのストレスがなくなる」ことが最大の効果です。

まとめ|断熱・省エネリノベーションの“本質的な判断軸”とは?
断熱や省エネ性能の向上は、単なる「快適性アップ」や「光熱費削減」のためだけに行うものではありません。
これから何十年も住み続ける住まいの“質”を根本から整える行為であり、「どう暮らすか」を問い直す選択でもあります。
断熱リノベーションの価値は、見えない部分を整える誠実かつ堅実な設計にこそ宿ります。
床が冷えない、部屋の温度差がない、空気が澄んでいる、など。
このような“当たり前の快適さ”を確実に実現するには、構造・断熱・設備・換気のすべてを一体で捉える視点が欠かせません。

リノベ成功のカギは、“全体を整える設計力”にある
設計者の仕事は、断熱材の種類を選ぶことでも、サッシのスペックを比べることでもありません。
本質的に問うべきは、「この建物の状態で、何をどう整えるべきか」という判断の連続です。
・部分的な施工で済ませるべきか、構造から一新すべきか
・設備に頼らず、建築的に快適性を整える方法はあるか
・補助金に振り回されず、本当に必要な設計が何かを見極めること
断熱リノベは、“選択肢”の問題ではなく、“判断軸”の問題です。
だからこそ、費用・制度・素材の前に「価値観」が問われることになります。

「安く済ませる」ではなく、「納得して住み続けられる」を基準に
断熱リノベーションは、結果として新築と同程度のコストがかかることも珍しくありません。
ただそれは、“無駄に高い”のではなく、住まいの本質を整えるために必要なコストです。
重要なのは、「いくらかかるか」ではなく、
「何のために、どこに、どうお金をかけるか」を明確にすること。
そのためには、見積書の数字だけでなく、「性能」「制度」「将来性」まで含めた“トータルの整合性”が必要です。

設計事務所にできること|私たちは「整える設計」で支えます
私たち建築家は、単に素材や工法を選ぶのではなく、建物全体の性能・使い勝手・制度的な整合性までを、総合的に設計する存在です。
・躯体と設備を分けずに整える「全体設計」
・設計段階で補助金の活用可能性まで見通す「制度との整合」
・快適性とコストの両立を目指す「機能美としての設計」

「断熱リノベって、実際どうなの?」
「うちの家でもやる価値あるの?」
「補助金って本当に使えるの?」
このような迷いのある方こそ、一度建築家にご相談ください。
性能を整えることで、暮らしの質を根本から変える。
それが、私たちが考える“断熱・省エネリノベーション”です。
▼私たちの【設計実例】は、以下からご覧いただけます。
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参考資料・公的機関リンク一覧(リノベーション関連)
国土交通省 住宅局住宅生産課|一般社団法人 住宅性能評価・表示協会
既存住宅の住宅性能表示制度ガイド
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001594050.pdf
国土交通省|土地・建設産業局、住宅局
既存住宅流通市場の活性化
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/hyouka/content/001313273.pdf
国土交通省
令和7年度長期優良住宅化リフォーム推進事業
https://r07.choki-reform.mlit.go.jp/
一般社団法人 住宅リフォーム推進協議会
https://www.j-reform.com/
住宅金融支援機構|フラット35リノベ
https://www.flat35.com/loan/reno/index.html
国税庁
マイホームを増改築等したとき|住宅特定改修特別税額控除など
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_2.htm
国税庁
No.1216 増改築等をした場合(住宅借入金等特別控除)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1216.htm
