リノベーション、やめたほうがいい?|後悔・失敗を招く“理想と現実”のズレと、本質的な価値・選ばれる理由

はじめに|リノベーション、やめたほうがいい?

「古い家をおしゃれに生まれ変わらせたい」「コストを抑えて理想の暮らしを実現したい」
そんな期待を胸に、リノベーションを検討する人は年々増えています。
その一方で、「想像していたのと違った」「結局リフォームレベルで終わってしまった」など、“理想と現実のギャップ”に悩む声も少なくありません。

なぜ、リノベーションで後悔する人がいるのでしょうか。
そもそもリノベーションは「やめたほうがいい」選択肢なのでしょうか?

 

 

この記事では、よくある失敗や誤解の背景を整理しながら、リノベーションの本質的な価値、そして本当に「選ぶべき人・やめたほうがいい人」の違いを建築のプロの視点から解説します。

「なんとなく憧れている」その感覚は、実は、落とし穴かもしれません。
本当に後悔のない選択をするために、まずは“理想と現実のズレ”と向き合うところから、始めましょう。

 

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「リノベーション=お得」は本当?価格高騰と費用の現実|リノベの落とし穴と予算の真実-建築家が徹底解説

 

 

Table of Contents

 

まずは、「リノベーション」とは、そもそも、どういったものなのか?その定義について、掘り下げていきます。

リノベーションという言葉は、曖昧なまま広く使われすぎています。

「古い家を直すこと」「見た目をきれいにすること」「ちょっと間取りを変えること」
それらは本来、“リフォーム”という行為に近いものであり、原状回復や部分的改修を目的とする作業です。

対して、本来「リノベーション」とは、刷新=価値の再構築
ただ古さを活かすのではなく、「何を残し、何を壊し、どう整え直すか」を設計的に問い、空間そのものを機能・関係性・意味のレベルで組み替える行為を指します。

 

 

たとえば、既存の柱や梁を活かしながら、そこに現代の暮らしに必要な断熱・耐震・導線・空間体験を統合する。
あるいは、家族の記憶や風景を引き継ぎながらも、内部の配置やつながり方は“まったく新しく構成し直す”。
そうした設計による再編集こそが、リノベーションの本質なのです。

そして問題は、
多くの人が、この“刷新された家”を期待しているにもかかわらず、実際に提供されているのは、ほとんどが“部分改修的な再生”であるということ。

これが、「期待と現実のズレ」の正体です。
“理想”と”設計者の回答の”の不一致。
これが、刷新を目指したつもりが、結果として「思ってたのと違う」という後悔へつながってしまう根本的な理由です。

では、なぜ「思い描いた理想」が現実には成立しないのか?続けて、その構造的ハードルを見ていきましょう。

 

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多くの人が、リノベーションに対して「自分たちらしい空間を、自由に編集できる」という期待を抱いています。
間取りを変える、吹き抜けをつくる、開放感のあるLDKにする、そんな希望をプランに落とし込もうとすることでしょう。
しかし、いざ設計を始めてみると、さまざまな制限が立ちはだかり、次第に「理想が崩れていく」、そんな経験をされる方が少ないようです。

では、それはなぜなのか?

その理由は、「リノベーションには、新築にはない“構造的ハードル”が存在するから」です。
ここでは特に重要な3つの要因、「構造の制約」・「制度の制約」・「寸法の制約」について解説します。

 

 

1. 構造の制約:変えられない柱・梁・開口が空間を縛る

リノベーションでは、既存の柱や梁、壁の位置など、動かせない構造体が空間の骨格を規定します。
間取り変更の自由度があるように見えても、実際には「ここは取れない」「この梁は残さなければならない」「階段の位置は動かせない」といった制約が多く、理想と現実のズレが発生する大きな原因となってしまうことが多いのです。

たとえば、吹き抜けを作りたくても、上階の構造がそれを許さない。
広いワンルームにしたくても、耐力壁を抜くと構造補強が必要になり、現実的ではなくなる。といったように。

たとえ、可能だったとしても、莫大なコストが必要になり、現実的ではないことも多いのが実際のところです。

そのため、リノベーションでは、空間は“構成要素の自由な組み換え”ではなく、構造との折り合いの中で再編集することを基本的な視点としなければなりません。
これが、刷新としてのリノベを難しくする第一の要因です。

 

 

2. 制度の制約:法改正後は自由に変更できる領域が減っている

2025年現在、住宅のリノベーションは建築基準法や省エネ基準の影響を強く受ける時代になっています。

たとえば、既存不適格(※建てられた当時は合法でも、今の法に合っていない建物)の場合、
一定以上の改変をすると、現行法規に適合させる義務が生じ、補強・断熱・避難経路の確保など、大きな設計変更や追加工事が発生します。

特に注意すべきは「カバー工法か、スケルトンか」という判断。
内部だけを整えるのか、構造まで刷新するのかによって、確認申請や性能要件が大きく変わるのです。

つまり、「ただプランを変える」だけでは済まず、
“どこを変えると制度の適用範囲になるか”という地雷原を見極めながら設計を進める必要がある。
この制度的負荷が、自由な設計を阻む第二の要因です。

 

 

3. 寸法制約:断熱・補強・配管で“使える空間”が削られていく

最後に見落とされがちなのが、「寸法」の制約です。
リノベーションでは、断熱材の充填、構造補強、配管のやり替えなどにより、内側から壁や床、天井の厚みが増すため、空間が縮小されるという現象が起きます。

たとえば、
・天井を断熱する → 天井高が下がる
・外壁内に断熱材を入れる → 室内寸法が狭くなる
・床に断熱+配管+補強 → 床が上がり、段差が生じる

結果として、「平面図上では問題なかったが、実際に空間を立ち上げると圧迫感がある」「開放感が出ない」といった“寸法的なズレ”による理想との乖離が発生してしまいます。

 

 

まとめ|3つの構造的ハードルの”現実”が、”理想”とのギャップを生む

こうした構造・制度・寸法の3点セットの制約が、
「リノベで自由な空間をつくりたい」という理想と、
「実際に設計が成立するかどうか」という現実との間に、深いギャップを生んでいるのです。

では、その制約を前提にしてでも“刷新”を成立させるにはどうすべきなのでしょうか?
続いては、空間を「再編集する」という設計的思考について掘り下げていきます。

 

▼リノベーションの構造については、こちらの記事で解説しています。
【リノベーション×構造】“構造への不安”を解消|調査・補強の限界と実践的アドバイス-建築家・設計事務所が徹底解説

 

 

 

リノベーションには、構造・制度・寸法といったさまざまな制約がつきものです。
それらは一見、理想の住まいづくりを妨げる「壁」に思えますが、実は設計次第で価値に変えられるものでもあります。

重要なのは、「どう壊すか」ではなく、制約を前提に“どう再編集するか”という設計的思考
制約の中にこそ、新しい意味や豊かさが生まれます。

ここからは、そうした制約を活かしながら“刷新”を実現するための設計の視点を、具体的に見ていきましょう。

 

 

間取り変更ではなく、「関係性の再構成」

リノベで最初に求められる要望として多いのは、「間取りを変えたい」というもの。
もちろん、間取りは変えた方が良いかもしれません。しかしながら、刷新設計の本質はそこではない。
大切なのは、空間と空間、空間と人、空間と外部といった“関係性”を整えることです。

たとえば、
・吹き抜けがつくれない → 天井高にメリハリをつけ、空間にリズムをもたらす
・大空間にできない →空間を緩やかにつなぐ
・南面に窓が取れない → 中庭やハイサイドで開放感を演出・光を導く

物理的な制約の中で、空間体験をどう“再構成”するか
これが、刷新の設計思考です。

 

 

記憶や場所性を“機能と感性”で編み直す

リノベーションでは、単なる機能回復以上に「場所の記憶」や「家族の歴史」が残っていることが多いもの。
刷新の設計とは、それらを“感情的に残す”のではなく、空間構成に意味として統合し直すことです。

・昔の土間空間を、今の家族の集い場に変換する
・北側の小窓を活かして、落ち着いた書斎をつくる
・素材として残せる梁や柱に、新しい設計的機能を持たせる

素材・構成・歴史が“役割を変えながら引き継がれる”設計へ。
“再生”ではなく、新たな意味へ“刷新”していきましょう。

 

 

意匠・性能・法制度を“整合”させる設計力

もう一つ、刷新を成立させるために不可欠なのが、設計力そのものです。

・意匠性を追求しすぎて性能が崩れる
・性能を優先しすぎて空間が犠牲になる
・制度に合わせすぎて暮らしに合わなくなる

これでは、本末転倒、甚だしい。

こうしたズレを乗り越えるためには、意匠・性能・制度を同時に整合させる「編集力としての設計」が必要になります。

刷新とは、すべてを叶えることではありません。
整合するかたちに“編集し直すこと”こそが、刷新の成立条件です。

 

 

まとめ|「リノベありき」ではなく、「刷新を成立させられるか」から考える

リノベーションは、“やること前提”で進めるものではありません。
重要なのは、「この空間に、制約を活かして新しい意味を与える余地があるかどうか」という視点です。

たとえ制約が多くても、
たとえ構造や制度に自由度がなくても、
設計によって“再編集”できる可能性があるなら、そこには、リノベの本質的な意義が生まれます。

刷新とは、条件をゼロに戻すことではなく、既存を読み替え、新たな価値を再構築する行為です。
「できるか/できないか」ではなく、「どう設計すれば成立するか」
その問いから始めることこそが、後悔しないリノベーションへの第一歩です。

 

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リノベーションで“理想の空間”を叶える7つの工夫|建築家のいる設計事務所が実践するシンプルモダン×機能美のデザイン術

 

 

 

リノベーションという言葉が先行して、「とりあえず今ある建物を活かしたい」と考えている方も多いのではないでしょうか?
たしかに設計次第で、制約を活かした“刷新”は多くのケースで可能です。

しかし、「刷新は成立するけれど、それでもやめたほうがいい」と判断する場面にも直面します。
たとえば、将来的なリスクやコスト、法規制、構造の汎用性のなさなど、空間の可能性とは別軸の要素が決定打になることもあるのです。

刷新が成立するかどうかと、プロジェクトとして“やるべきかどうか”は別問題です。
ここでは、そうした判断に至る代表的な4つのパターンをご紹介します。

 

 

1. 空間構造として「整える意味が薄い」

刷新の設計操作自体は可能でも、それに見合う価値が得られない、そんな構造条件があります。

・梁や柱が空間全体に干渉しているなど、抜本的にコストがかかりすぎる
・階段や水回りが建物の中心に固定されており、動線計画を整え直しても効果が限定的
・天井高や床下空間が極端に小さく、断熱改修や性能向上がほぼ不可能

このような条件でも、刷新は可能です。しかしながら、どうしてもコストが跳ね上がり、「新築にした方が賢い選択になる」という結果になってしまうことも。
刷新の手応えが設計者にも施主にも届かない、そのようなケースでのリノベーションは、おすすめしません。

 

 

2. 図面・構造情報が一切残っていない

どれだけ刷新プランを描けても、“施工で実現できるか”が見えなければ、設計は成立しません。

・図面がなく、解体調査からスタート=着工前に数十〜百万円規模のコストが発生
・構造体の位置や仕様が“目視と勘”に頼るしかなく、設計と施工に常にズレが生じる
・現場が始まってから大規模な仕様変更や手戻りが発生しやすい

刷新のデザインは描けます。また、調査によって、全て導き出すことも可能です。
しかしながら、莫大なコストがかかってしまい、現実的ではありません。

 

 

3. 法制度の制約で、刷新の合理性が失われる

法制度と対立しながらのリノベは、“刷新”を超えて“戦い”になります。

・接道義務を満たしておらず、建築行為そのものが許可されない
・スケルトン化すると新築並みの性能が求められ、補強・申請コストが非現実的
・既存不適格の扱いとなり、設計はできても許可が下りない

制度に対して「刷新を成立させる」ことはできても、
そのために数百万〜数千万円の余分な投資が必要なら、果たして“選ぶ意味”がありますか?

そこに納得できて、はじめて、スタート地点に立つことができます。

 

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4. 暮らしとの接続点がなく、“刷新の意味”が生まれない

空間を刷新するということは、単に形を整えるだけではなく、そこに「暮らしの意味」を宿すことでもあります。

たとえば、
家族構成やライフスタイルが、既存の骨格とまったく噛み合っていない。
譲れない要望が多く、建物に合わせる気持ちがない。
そんなとき、設計の力で空間を整えることはできても、暮らしとの接点が生まれないまま、計画だけが空回りしていきます。

刷新の設計は可能です。
けれど、設計思想と暮らしのリアリティが噛み合わないと、プロジェクトは迷走しやすくなります。
その兆しを感じたときは、無理に進めず、別の方法を選んだ方が結果的に満足度が高くなる
それもまた、設計の大切な判断です。

 

 

まとめ|“意味が持てる刷新かどうか”で判断する

本当に大切なのは、「できるかどうか」ではなく、その刷新に“意味が宿るか”を見極めること
リノベーションとは、設計の力で空間を整え直し、暮らしと丁寧につなげていく行為です。

だからこそ、すべての物件に無理にあてはめるのではなく、
ときには「やらない」という選択も、建築的には誠実な判断だと考えています。

 

 

 

ここまでお伝えしてきたように、リノベーションでは、構造・制度・寸法・空間といった、避けられない制約があるものです。
そして、実際の設計現場では、「やめた方がいい」と判断せざるを得ないケースも確かに存在します。

しかしながら、それでもなお、空間と暮らしが“刷新”された時、新築でも中古でも得られない、唯一無二の価値を生み出す、それがリノベーション。

ここからは、私たちが実務の中で出会ってきた「リノベだからこそ成立した住まい」について、“あえてリノベを選ぶ理由”とその背景にある魅力をお伝えします。

 

 

空間の文脈がある家は、整えることで“意味が深まる”

リノベーションには、あらかじめ空間の「文脈」が存在しています。
たとえば、家族が育った場所の風景や音、使い込まれた素材の質感、外とのつながり方など。
これらは新築には存在しない、「時間を積み重ねた空間」が持つ固有性です。

刷新とは、それらを感傷的に残すのではなく、現代の暮らしにふさわしい意味へと“整え直す”こと
文脈を読み、選び、編集することで、ただ美しいだけではない「物語のある住まい」が生まれます

 

 

型にハマらない“必然性あるデザイン”ができる

新築ではどうしても、土地の形状や法規に合わせて“ある程度パターン化された設計”に収束しがちです。
それに対して、既存建物を刷新するリノベーションでは、前提条件そのものがイレギュラーであるため、唯一の解答を導き出すことになります

・この柱をどう活かすか
・この光の入り方をどう整えるか
・この狭さをどう意味ある居場所に変えるか

このような思考の積み重ねは、汎用性のない“必然性あるデザイン”を生みます
これは、「選ばれた条件を引き受けた結果としての設計」であり、だからこそ、新築以上に強い説得力を持つ空間が生まれるのです。

 

 

「壊さず、整え直す」からこそ、暮らしと建築がつながる

リノベーションには、すでに存在するものと向き合う行為が内在します。
真っ白な紙に描くのではなく、既存の骨格や痕跡、制限と対話しながら、それらと共に新しい住まいを構築する

それは、暮らしをゼロから設計するのではなく、
「これまでの暮らしを読み解き、これからの暮らしに編み直す」という、時間軸を含んだ設計です。

だからこそ、リノベーションには完成した時の“納得感”が非常に深い
ただ“つくった”のではなく、“つながった”という感覚。
建築が暮らしに追いつき、暮らしが建築を受け入れるような整合性による心地よさが生まれることになります

 

▼こちらの記事もおすすめです。
【必読】中古住宅×リノベーションで“買ってはいけない家”を見抜く方法|建物・土地・書類で判断する購入前チェックリスト

 

 

 

リノベーションで後悔が生まれるのは、単なる判断ミスではありません。
多くの後悔は、「リノベーション=刷新」という本質を見落としたことから生まれます。

ここでは、実務の中で実際に見られる「刷新の勘違い」からくる4つの典型例をご紹介します。

 

 

1. 「新築の感覚」で間取りを考えてしまった

「自由に間取りを考えられる」と思い込み、広いLDKや吹き抜け、高天井を当然のように要望する方が多いです。

けれど実際には、
・構造壁は動かせない
・梁の位置で天井が下がる
・サッシは既製品しか使えない
このような制約を無視した理想像が前提になると、プランは破綻し、予算も膨らみます。

刷新とは、「変えられる部分」と「変えてはならない部分」を見極め、その間で価値を最大化する設計行為です。
新築と同じ感覚では、整わないのは当然なのです。

 

 

2. 解体してから“できないこと”に気づいた

「とりあえずプランだけ進めて、解体後に本設計」
こうした流れでスタートしてしまうと、後から次々と現実にぶつかります。

・想定より断熱が入らない
・補強が必要で予算が跳ね上がる
・設備更新に伴い、間取りが大幅に崩れる

実は、これらは解体してみなければ分からないこと…ではありません。
設計するのであれば、最初の段階から“何ができて、何ができないか”をある程度の精度を持って、読み切っておくことが前提としなければならないものです。

だからこそ、リノベーションこそ、信頼できる設計士に依頼しましょう。

 

▼リノベーションの断熱については、こちらの記事で解説しています。
【リノベーション×断熱】失敗しない“リノベーション”で断熱・省エネ性能を高める方法|制度・設計・費用を徹底解説

 

 

3. 機能を足すほど、心地よさが失われた

断熱・補強・収納・配管更新など。
すべて合理的な要望ですが、それらを積み上げるだけでは、空間はどんどん重く・小さくなっていきます。

・壁が厚くなって室内が狭くなる
・床が上がって天井が低くなる
・動線が不自由になる

機能と快適性のバランスが取れなければ、リノベーションは、刷新ではなく“詰め込み”に変わってしまいます。
刷新とは、足すだけでなく、削ぎ落としながら整えることでもあるのです。

 

 

4. 何も壊せなかった‐「残したい気持ち」だけが空間全体を支配してしまった

「祖父が建てた家だから」
「この壁にだけは思い入れがある」
リノベーションでは、そうした気持ちは、むしろ設計の出発点として大切にしたいものです。

しかしながら、どこもかしこも“残したい”となってしまい、空間全体として刷新の設計が成立しなくなってしまえば、それは問題になってしまいます
すべてを守ろうとすると、暮らしの改善や性能向上が犠牲になり、結果的に「何も変えられなかった」「暮らしは不便なまま」という後悔が残ってしまうかもしれません。

私たちがめざすのは、「思い入れを尊重しながら、それ以外をどう整えるか」というバランスの設計です。
残すべき場所は、しっかり残す。壊すべき場所は、きちんと壊す。
その整理と選択こそが、空間に“意味のある記憶”を宿らせる鍵。

刷新とは、過去を否定することではなく、過去と今をつなぐ新しい編集です。

 

 

 

ここからは、私たちがリノベーションの相談を受ける中で、特によくある「疑問」「誤解」「思い込み」「盲点」に対して、一級建築士の立場から率直にお答えします

 

Q1|「リノベーションって、自由に設計できるんですよね?」

A:いいえ。自由に“見える範囲”はあっても、実際は制約だらけです。

リノベーションは、新築のように白紙からの設計ではありません。
既存の柱・梁・壁・階段・配管・天井高・法制度など、変えられない・変えにくい前提が数多くあります。
その制約をひとつひとつ“どう再構成するか”がリノベーションに求められる設計であり、完全な自由ではなく、“編集可能な部分を見極める力”が問われる行為です。

 

 

Q2|「古いけど見た目はしっかりしてるから、構造も大丈夫ですよね?」

A:いいえ。リノベは“中身”がすべて。見た目では判断できません。

壁や床がきれいに見えても、中の柱が腐っていたり、構造金物が基準を満たしていなかったりすることは珍しくありません。

刷新する=構造的にも再構成する、という前提に立つなら、見た目ではなく“中身”を調査・把握・判断する設計的調査が不可欠です。

 

 

Q3|「性能(断熱・耐震)は、新築並みにできますよね?」

A:物理的には可能ですが、“空間や費用を犠牲にする”覚悟が必要です。

断熱や耐震性能を新築と同等に引き上げるには、壁を厚くし、構造を補強し、設備を更新し、仕上げを一新する必要があります。

その結果、
・床・壁・天井の寸法が小さくなる
・補強のために希望の間取りが崩れる
・見た目がスッキリしない
・追加費用がかさむ
となってしまうことも。

性能を上げる=スペースとコストを削るという設計的トレードオフが常に生じます。
つまり、「新築と同等」にするには、新築以上の調整力と判断力が必要なのです。

 

 

Q4|「建物が古くても、リノベってできますよね?」

A:できます。ただし、“現実的な条件で成立する家かどうか”が前提です。

築年数が古くても、構造がしっかりしていて、設計的に再構成できる余地があれば、リノベは成立します。
逆に、築浅でも構造や法制度と整合が取れない場合は、刷新は可能ですが、困難でもあります。

つまり、築年数や見た目ではなく、「合理的に再構成できる骨格かどうか」が判断軸
やるかどうかではなく、やる意味があるか・コスト面などでも成立するかを見極めることが重要です。

 

 

Q5|「結局、新築とリノベ、どっちがいいんですか?」

A:どちらが正解かではなく、“その建物でリノベーションをやる価値があるか”で判断します。

設計的には、ほとんどの建物でリノベーション=刷新は可能です。
ただしそれが、コスト面・制度対応・暮らしとの整合といった現実的な条件と釣り合うかどうかは別の話です。

・構造や法制度のハードルが高すぎる
・暮らしの要望と既存の骨格がまったく噛み合わない
・無理をしてまで残す合理性がない

そんなときは、たとえ刷新が可能でも、新築を選ぶ方が納得できる結果になることもあります。

だからこそ、判断軸は、「リノベできるかどうか」ではなく、“この建物で、無理なく・意味ある刷新ができるか”どうか。

それを一緒に見極めるのが、私たち設計者の役割です。

 

 

 

リノベーションには、「構造が壊せない」「制度で制限される」「設備が自由にならない」といった多くの制約がつきものです。
その現実を見ずに、「理想の空間を自由に作れる」と思い込んで進めてしまうと、思っていたのと違う・満足できない・コストばかりかかるという後悔につながってしまいます。

しかし、そうした制約を“限界”ではなく、“意味を再構成する起点”ととらえる視点こそが、リノベーションを「刷新」として成立させる鍵になるのです。

 

 

本記事では、建築家の視点からリノベーションの実態と本質を解説。
・なぜ「やめたほうがいい」リノベが存在するのか
・なぜそれでも、リノベが唯一無二の価値を生むことがあるのか
・成立するプロジェクトには、どんな整合があるのか
このようなテーマを掘り下げてきました。

 

 

リノベで「できること」と「できないこと」を、最初に読み解く

刷新としてのリノベーションは、ただ間取りを変える行為ではありません。
既存の空間構造・制度・感情・意味を読み直し、整え直す設計的行為です。

・変えられない構造を、活かす設計に
・制約の中で、空間の“体感”を再構成する
・使いづらさや古さの原因を、意味ある形に読み替える

このような「再構築」は、設計者の知識と技術だけでなく、その建物と暮らしに“向き合う姿勢”があってこそ、成立します。

 

 

リノベか、新築か?‐その判断に、正解はありません

「新築の方が良かったかも…」という後悔を抱える方も少なくないようです。
けれども、それは設計の問題だけでなく、「プロジェクトの前提」が整っていなかったことが原因であることが多いのが実際のところでしょう。

・感情や思い出に引っ張られすぎて、整合を失った
・無理な性能追求で、空間が破綻した
・法規制や構造制限を甘く見て、後から後悔した

これらはすべて、「刷新が成立しない状態で無理に進めた結果」です。

 

 

それでも、意味のある“整え直し”は、人生に深く届く

構造・制度・寸法・感情など。
あらゆる制約を超えて、空間として、暮らしとして、意味が整合する瞬間
それが、「リノベでしか成立しない価値」です。

新築では生まれない“背景のある空間”を、どう整えるか。
それが、刷新としてのリノベーションの価値であり、単なる再生ではなく、「新しい暮らしをつくる選択肢」なのです。

 

 

「この家を、もう一度“意味ある場所”として生まれ変わらせたい」
「壊すのではなく、整え直して暮らしを再構築したい」
そう感じた時が、“理想のリノベ”のスタートラインです。

私たちは、ただ見た目を整えるのではなく、構造・制度・空間・予算すべてに「納得と意味」が通った設計を大切にしています。

 

 

「この建物で、本当にリノベが成立するのか知りたい」
「リノベと新築、どちらが正しい選択かを中立的に判断したい」
「できること/できないことを、プロに整理してもらいたい」

そんな方は、どうぞお気軽にご相談ください。

法規・補助金・制度から空間設計まで、“無理のないリノベ”をともに構築していきます。
新築・建て替えとの比較も含めて、価値ある選択をサポートします。

 

▼ 私たちの【設計実例】は、以下からご覧いただけます。

 

HPhttps://studio-tabi.jp/

資料請求・イベントhttps://studio-tabi.jp/project/event/

YouTubehttps://studio-tabi.jp/project/youtube/

Instagramhttps://www.instagram.com/tawks.tabi/

 

 

▼こちらの記事もおすすめです。

【2025年最新版】リノベーション補助金・減税制度まとめ|対象条件・金額・申請方法・注意点を完全ガイド

 

参考資料・公的機関リンク一覧(リノベーション関連)

国土交通省 住宅局住宅生産課|一般社団法人 住宅性能評価・表示協会
既存住宅の住宅性能表示制度ガイド

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001594050.pdf

国土交通省|土地・建設産業局、住宅局
既存住宅流通市場の活性化

https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/hyouka/content/001313273.pdf

国土交通省
令和7年度長期優良住宅化リフォーム推進事業

https://r07.choki-reform.mlit.go.jp/

一般社団法人 住宅リフォーム推進協議会
https://www.j-reform.com/

住宅金融支援機構|フラット35リノベ
https://www.flat35.com/loan/reno/index.html

国税庁
マイホームを増改築等したとき|住宅特定改修特別税額控除など

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_2.htm

国税庁
No.1216 増改築等をした場合(住宅借入金等特別控除)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1216.htm

 

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