「リノベーション=お得」は本当?価格高騰と費用の現実|リノベの落とし穴と予算の真実-建築家が徹底解説

「注文住宅は高い。だからリノベーションにすれば、安く済むだろう」
そんなふうに考えたことはありませんか?
実際、多くの人が「リノベ=お得」というイメージを持っています。中古住宅を購入してフルリノベすれば、理想の間取りや内装に変えられて、コストも抑えられる……。そのような情報がネットやSNSにあふれているのも事実です。

 

 

しかし、現場のプロである建築家から見ると、そのような良い面だけを切り取った情報では、大きな誤解が生まれてしまいかねません
特に近年では、リノベーションの設計や工事費が年々高騰し、「リノベの方が高くついた」「新築と変わらないか、むしろオーバーした」というケースも少なくないのが実際のところのようです。

 

 

そこでこの記事では、「なぜリノベーションはお得と思われがちなのか?」という背景から始まり、実際にかかる費用構造や、高額になる理由、理想を求めすぎたときの代償、そして本当にリノベが成立する条件まで、建築家の視点で論理的に解説していきます。

後悔しない家づくりのために、まずは“価格のリアル”を、この記事でしっかりと見極めてください。

 

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リノベーションで“理想の空間”を叶える7つの工夫|建築家のいる設計事務所が実践するシンプルモダン×機能美のデザイン術
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Table of Contents

 

まずは、「リノベーションは“安く済む”」という価格神話がなぜ生まれたのか、解体していきます。

「リノベ=安価」というイメージは、どのように社会に刷り込まれたのでしょうか。答えは簡単。広告・SNS・メディアによって、繰り返し発信されてきたからです。

 

 

SNSと動画メディアによる“都合のいい事例”の切り取り

InstagramやYouTubeでは、低予算でおしゃれに仕上げたリノベーションの映像や写真が日々拡散されています。
「築50年の団地が北欧風カフェに」「予算1000万円で夢のLDKに」そんな事例は魅力的でしょう。

しかし、その魅力溢れる事例の多くは、膨大な数のリノベーション事例の中から、条件の良いものだけを選び、さらに“映える部分”だけをピックアップして編集された情報にすぎません。
・躯体の劣化が少なかった
・間取り変更が最小限で済んだ
・設計・施工のプロが身近にいた
といった特殊で恵まれた条件が揃っていた事例です。

 

 

つまり拡散されているのは、実は「成功例」ですらなく、“条件のよい一部のケースの、美味しいところだけ”を切り取った情報です。いわば、その寄せ集めで構成されたショーケース。
そして、それらが自分の家にそのまま当てはまる可能性は、正直、かなり低いと考えるべきです。

にもかかわらず、それらが繰り返し目に触れ、発信され、編集されるうちに、気づけば「リノベは安くできるらしい」というイメージだけが、“常識”として定着してしまったのではないでしょうか?

 

 

ハウスメーカーや不動産業界のマーケティング構造

もうひとつの要因は、不動産業界やハウスメーカーの広告構造です。
リノベーションは「中古物件 × 工事費」で成立するビジネスモデルのため、新築と比べて価格を安く見せやすい構造になっています。

よく見かける「中古+リノベ=月々◯万円〜」という広告。
一見するととてもリーズナブルですが、よく見ると以下のようなカラクリが含まれていることも少なくありません。

・建物価格が相場より大幅に安い(築古・条件付き)
・リノベ費用が「最低限の工事内容」のみ
・設計料・諸経費・追加補強費は含まれていない

つまり、「最低スペック・最低費用で見せた金額」が前提であることが多く、実際に自分の要望を盛り込もうとすると、簡単に大きく超えてしまうのです。

 

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【完全ガイド】注文住宅は何から始める?|後悔しないための最初の一歩と正しい順番・注意点まとめ
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「坪単価」で語られるリノベ費用の落とし穴

リノベーションでも「坪単価いくらでできましたか?」という質問がよくあります。
しかし、リノベーションにおいてはこの比較は非常に危険です。

なぜならリノベの場合、「建物の構造は既存」で、「費用は内部中心」になるため、坪単価を計算する際の、分母と分子はプロジェクトごとに大幅にずれるからです。
例えば、30坪の家をフルリノベして900万円かかったとしましょう。

表面的には「坪30万円」となりますが、もし使っていない部屋が多い場合や、1階しか工事していなければ、それは実質的には「坪50万以上」とも言えます。
さらに、新築とは異なり、解体・確認・補強・現場対応といった「余計なコスト」が裏に含まれていることが多いため、坪単価比較だけで「安い」とするのは正確な判断とは、とても言えません。

こうして、“安く見える仕掛け”が無意識に蓄積され、「リノベ=お得」という認識が一般化しました。

 

▼こちらの記事も参考にしてください。

坪単価の「落とし穴」とは?|比較で後悔する前に知るべき“相場のウソと本質”
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次の章では、リノベーションの見えにくいコストの全体像を深く分解。表に出てこないリノベーションのコストの正体を解説していきます。

 

 

 

表面的には「安く済みそう」と思われがちなリノベーション。しかし実際には、表に出にくいコストが多く含まれています
ここからは、そうした「見積もりには現れにくい費用構造」を分解しながら、なぜリノベが“意外と高くなる”ことがあるのか?その全体像を見ていきます。

 

 

法適合のための工事費用

築年数が古い住宅では、「今の建築基準法に適合させるための追加工事」が必要になるケースが多々あります。

たとえば、
・耐震補強(筋交い・金物の追加)
・火打梁や小屋組の強化
・屋根や外壁の構造的補修
・接道条件や防火性能の是正
など、既存建物を“合法的に使い続ける”ための修正・補強工事が発生する場合には、リノベーションの金額はその分追加の費用がかかります。

 

 

加えて、近年の建築制度の改正・義務化の流れも無視できなくなってきます。

・2025年からは「省エネ基準の適合」が原則義務化され、断熱材の追加や窓・玄関の性能向上が避けられない。
・また、自治体によっては、確認申請の有無に関わらず耐震診断・改修を事実上義務づける運用が始まっている。

これまでであれば「気づかれずに済んだ」部分にも、明確な対応が求められるようになり、結果として制度対応のためのコストが上乗せされるようになっています。

 

 

解体・確認・調査費用という“前提コスト”

リノベでは、「中身がどうなっているか」は解体してみないと分からないというリスクもあります。

たとえば、
・壁を壊してみたら柱が腐っていた
・床下を開けたらシロアリ被害があった
・天井裏に断熱材が入っていなかった

こうした事態が判明すれば、その場で設計変更・追加工事が必要です。
つまり、「やってみないと分からない」ことが費用に直結してしまうのが、リノベならではの構造。

中には、耐震診断・省エネ性能評価・構造確認などのために事前調査費用がかかることも多く、これらも当初見積もりには含まれていない場合もあるため、注意しましょう。

 

 

インフラ・配管の総入れ替え費用

築30〜50年の住宅では、給排水・電気・ガスなどのライフラインが劣化していることも少なくありません。

内装を綺麗にしても、設備が古いままでは安心して暮らせないため、多くのリノベ現場では以下のような“見えない部分の刷新”が必要になります。

たとえば、
・給水・排水管の交換(ルート変更含む)
・電気配線・分電盤の更新
・ガス管の再配置、給湯設備の見直し
・換気・エコキュートなどの設置調整

このようなインフラ・配管は解体後に問題が発覚し、しかも高コストの追加費用が発生するという、リノベ特有の“裏コスト”の代表です。

 

 

補修・下地づくりの「不可視コスト」

さらに注意したいのは、リノベーションは単に「壊して新しくつくればいい」という話ではない点です。
多くの場合、「古いものを“使える状態”に戻す」ための作業が発生し、これが想像以上にお金と手間を要すると認識してください。

「壊すより、活かす方が高くつく」:それがリノベーションの現実です。

たとえば、以下のような補修・調整作業が必要になることがあります。
・傾いた壁やゆがんだ床の修正、不陸調整
・建具やサッシの歪み補正、枠の調整
・古い下地の補強、断熱材の再構成・追加施工

これらの工事は新築ではそもそも発生しないため、リノベーション特有の“隠れコスト”と言えます。
しかも、既存の状態に“合わせて整える”ための手間は、新しくゼロからつくるよりも複雑で、結果的にコストが膨らみやすい。多くは仕上がりの上ではわかりにくいこともあり、「この金額でこれ?」と感じるケースも少なくありません。

 

 

まとめ|リノベーションが、“安く見える” のは、実態を知らないから。

リノベーションは、“表面の仕上げ”よりも、“中身と制度対応”に多くのコストがかかってしまうのが現実です。

一見安そうに見えても、いざ設計・施工を始めると、法改正・劣化・インフラ・補強など、見えない費用の累積で当初の予算を大きく超えてしまうケースも珍しくありません。

 

▼こちらの記事もおすすめです。

【完全ガイド】リノベーション費用の内訳と予算配分の戦略‐“後悔しない・失敗しない”ための判断基準とは?
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ここまで「リノベーションでは、最初は見えなかったコストが積み上がっていく」という話をしました。
ここからは、さらに一歩踏み込み、「実際にリノベの方が新築より高くなってしまう典型パターン」を5つ、具体的に紹介していきます。

 

パターン①|築40年以上の住宅は“修復ありき”の世界

築40年を超えるような住宅、特に木造住宅では、単純に古いというだけでなく、構造やインフラに“想定外”の修復要素が山ほど潜んでいます。

・シロアリや雨漏りなど、長年の蓄積ダメージ
・基礎のひび割れ・鉄筋の腐食・床下の湿気問題
・電気・ガス・水道といったライフラインの劣化

これらをすべて是正しようとすれば、新築同等、もしくはそれ以上にコストがかかることも珍しくありません。
特に、既存図面がなかったり、補修履歴が不明な場合は、調査費用+補修費用のダブルパンチになります。

 

 

パターン②|建築基準法に“違反”している既存建物

パターン②|建築基準法に“違反”している既存建物

また、現行の建築基準法に適合していない既存住宅にも注意が必要です。
「うちは大丈夫だろう」と感じる方もいるかもしれませんが、築年数が古い住宅のほとんどは、現行法とは何らかの点で不適合となっています。

これは違法建築という意味ではなく、法改正のたびに基準が厳しくなってきた結果、いまの基準に合っていない=“既存不適格”な状態が多く存在するということです。

 

 

たとえば、
・建築確認を取らずに増築された過去がある
・接道義務を満たしていない
・建ぺい率や容積率を超過している
・高さ制限や斜線制限に抵触している
といった法的グレーゾーンは、外から見ただけではまったく分かりません。

こうした建物では、
・確認申請が通らない
・補助金が使えない
・売却時に資産価値が評価されにくい
・増築・減築による“強制適合工事”が発生する
といった形で、法的な対応や是正工事が求められることになり、予想外の費用が加算されていきます。

リノベーションは「見える部分」だけで判断してはいけません。
特に築古住宅では、“法的に成立させるための工事”が大きなコスト要因になるケースがあるのです。

 

 

パターン③|断熱・耐震の“性能格差”を埋める工事

近年は省エネ・耐震性能が“当たり前の基準”になりつつあるため、古い家を今の水準に引き上げるには、大規模な性能改修が必要です。

たとえば、
・断熱材が入っていない壁・天井の全面改修
・基礎・壁・梁への補強プレート・構造金物の追加
・開口部を断熱サッシに変更、外皮性能の底上げ

これらは住まいの快適性や命の安全を確保するためには不可欠な工事ですが、費用面では大きな負担になってしまいます。

新築では最初から設計に盛り込める内容でも、リノベでは「既存との整合をとりながら、性能だけを上げる」という高難度工事になるため、費用も跳ね上がりやすいのです。

 

▼リノベーションの構造については、こちらの記事で解説しています。

【リノベーション×構造】“構造への不安”を解消|調査・補強の限界と実践的アドバイス-建築家・設計事務所が徹底解説
https://studio-tabi.jp/renovation-structure-reinforcement/

 

 

パターン④|間取り・構造変更が大規模になるケース

間取り変更を希望する場合、その自由度は既存構造で決まります。

・水回りの移動にともなう床の解体・配管再設計
・壁を抜くための梁補強・鉄骨フレームの追加
・開口部変更による耐力壁の再設計・構造計算

間取りの変更の際に、このような変更が伴う場合、設計変更・構造補強・インフラ調整の連鎖が起こり、工事の手間とコストが加速度的に膨らんでいきます。

 

 

好きなように間取りを変えるということは、結果として“既存の構造を壊す行為”そのものになりがちです。
特に、構造壁を抜く、開口部を増やす、水回りを大きく移動するといった変更は、既存の構造システム全体を崩し、再構成する作業につながります。

これは設計者の立場から見ると、もとの家の“バランスで保たれていた構造”を一度壊し、それでも安全に成り立つように再構築するという、とても複雑で神経を使う設計・施工行為です。

条件によっては、新築よりもはるかに難易度が高くなることすらあり、結果として「新築のほうが安かった」というケースは、決して珍しくありません。

 

 

パターン⑤|施工条件が悪く、工事コストが膨張

既存住宅によっては、「施工性が非常に悪い」というハンデを抱えていることもあります。

たとえば、
・隣地との距離が極端に狭く、足場が組めない
・駐車スペースがなく、資材搬入に人手と時間がかかる
・既存設備の撤去が特殊で、通常より人件費がかかる

このような“施工の難易度が上がる条件”は、施工時間の長期化・人件費の増加・管理コストの上昇につながり、大幅に追加費用がかかってしまうことがあります。

 

 

まとめ:“高くなる要素”が満載なリノベーションも多い。

リノベーションが高くなってしまうのであれば、それは運が悪いからではなく、そもそもリノベーションというものが「構造・法規・性能・現場条件」という複雑な要素に支配されているからです。

悪条件が重なれば、新築より高くなるのは、実は、ごく自然な流れ

逆に言えば、こうした要因を設計前にどれだけ把握できるかが、成功と失敗の分かれ道です。

リノベーションにしましょう!ではなく、新築と、どちらが適切かを見極めることが大切です。

 

▼こちらの記事もおすすめです。

【建て替え・新築 vs リノベーション】どちらが正解?判断基準・費用・寿命・価値の比較|見極めチェックリスト付
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リノベーションを検討している方の中には、「どうせ工事をするなら、内装も間取りもこだわりたい」「せっかくなら理想の住まいに近づけたい」と考える方が多いはずです。
もちろんその気持ちはとても自然なものです。しかし、“理想の追求”すると、リノベーションならではの問題で、費用が跳ね上がる大きな要因になってしまうことも、知っておく必要があります。

 

 

理想のプランが“既存の構造”とぶつかる

たとえば、「開放的なLDKにしたい」「吹き抜けを設けたい」「アイランドキッチンを中央に置きたい」といった要望が出たとき、既存の梁・柱・耐力壁の位置がネックになるケースは多くあります。

・壁を抜くために、梁補強や鉄骨フレームが必要になる
・水回りの位置変更に伴い、床構造の全面調整が必要になる
・窓の位置を変えるだけで、外壁下地・耐力壁の補強が発生する

こうした“壊して整える”設計は、実は新築よりコストがかかることもあるのです。
基本的には「既存を活かす」これがリノベならではの設計条件です。

 

 

美しい納まりは、既存の“歪み”との戦い

リノベーションでは、「ミリ単位の調整」が至るところで求められます。
たとえば、造作家具を壁にぴったり納めようとしても、既存の壁が歪んでいる・垂直が出ていない・天井が下がっているといった“現実”が立ちはだかることも。

・無垢材や左官材を採用する際、下地粗さ・不均一さに対する下地処理
・古い建具と新しい家具の高さ・厚みの調整
・梁や床の傾きを吸収するため造作側での調整

リノベーションでは“精度の高い設計と現場対応力”が求められ、このような既存の歪みに対する、きめ細かな配慮が必要です。ただしそのぶん、調整工程や大工の施工時間が増え、コストが静かに積み上がってしまうことも。

 

 

理想を追うほど、古い性能や設備が足を引っ張る

「明るい空間にしたい」「視線の抜けをつくりたい」といった空間的な理想を目指すと、断熱・気密・換気など“目に見えない性能部分”がボトルネックになってしまうことも。

・開放的にした途端、冷暖房効率が落ちる
・大きな開口部を増やすと、断熱補強が必須になる
・換気計画が崩れ、機械換気や熱交換の再設計が必要になる

空間の質を追うことで「見えない性能補強」も必要となり、費用が二重構造で膨らむこともあります。
新築なら全体を組み直せば済む話でも、リノベでは“限られた構造の中で整える”という高難度のコスト調整が求められます。

 

 

まとめ|リノベーションでも、理想は実現できる。でも、その“代償”とは向き合うべき。

リノベーションにおいて、理想を追求すること自体は何も悪くありません。
ただし、「既存を活かす」という前提の中で理想を追わずに、自由に計画していては、必ずどこかで構造や性能との“衝突”が起こり、費用にも跳ね返ってくる
これがリノベならではの現実です。

だからこそ、
・どこにこだわるか
・どこで調整するか
・予算と整合させる優先順位は何か
このような調整を設計段階で冷静に見極めることが、リノベ成功の鍵だといえるでしょう。

 

▼こちらの記事も参考にしてください。

リノベーション、やめたほうがいい?|後悔・失敗を招く“理想と現実”のズレと、本質的な価値・選ばれる理由
https://studio-tabi.jp/renovation-fundamental-meaning/

 

 

 

「結局、リノベって高くつくこともあるって話ばっかりじゃないか」
「じゃあ、“お得なリノベーション”って、幻想なのか?」
そんなふうに感じる方もいらっしゃるかもしれません。

けれど実際には、「お得に成立しているリノベーション事例」も、もちろん存在します。
ただし、それは、たまたまそうなったのではなく「整った条件」と「冷静な見極め」が揃ったうえで初めて成立しているのです。

ここからは、“現実的に成立する”お得なリノベの条件を整理しておきましょう。

 

  

条件①|築年数が比較的浅い(20年〜30年以内)

まず、建物の築年数は重要な判断軸です。
築20〜30年程度までの物件であれば、構造体や設備配管がある程度現代仕様で設計されており、「調査・補修・是正」のコストが最小限で済む可能性が高くなります。

・耐震補強が不要、または軽度で済む
・配管や断熱材の再施工が限定的
・サッシが比較的新しく、交換不要で済む

これらはすべて、「壊して直す」コストが圧縮されることを意味します。
築40年、50年を超えるような古屋と比べて、費用対効果のバランスが良くなりやすいのです。

 

 

条件②|構造の状態が明確かつ健全である

築年数が浅くても、施工品質が悪ければ元も子もありません。
お得なリノベが成立するかどうかは、「構造の安全性」が明らかで、補強不要または最小限で済む状態であるかが大前提になります。

・新耐震基準以降の建物(1981年6月以降の建築確認)
・シロアリ・雨漏り・腐食等のダメージがない
・既存図面がある、確認申請が取得されている

これらが揃っていれば、解体時の“想定外”リスクが激減し、コストの予測精度も高まります。
“お得”という言葉は、想定通りに収まることで初めて意味を持つと考えると良いでしょう。

 

 

条件③|ライフラインの引き直しが不要

リノベーションでは、電気・水道・ガス・排水などのライフライン再構築が、想像以上のコスト要因になります。

・水まわりの移動で床下・配管・勾配の全面見直しが必要
・古い電気配線が使えず、分電盤から全面引き直し
・給湯設備が古く、号数アップや設置変更が必要

といった追加工事・追加費用が発生すると、かなりのコストアップにつながります。逆に、設備配管の再構築が必要ない・最小限で済むケースは、構造的な負担が減り、「お得に成立しやすい」条件が揃うと言えます。

 

 

条件④|法的グレーゾーンが少ない

・接道義務を満たしている
・確認申請済みの建物である
・違法増築や建ぺい率オーバーがない

このような条件が揃っていると、確認申請や補助金活用、将来の資産価値にも影響が出にくいです。
結果として、想定外の“合法化コスト”が発生せず、トータルで合理的に成立しやすくなります。

 

 

条件⑤|プランの自由度と要望のバランスが取れている

“お得なリノベ”を成立させる最後の鍵は、理想の追求とコスト現実の調整力です。

・既存構造に配慮した間取り変更(壁の位置を生かす等)
・水回りを動かさず、造作や内装で個性を出す
・使用可能な設備や素材は活用する(選別と取捨選択)

こうした設計と希望の“擦り合わせ”が的確であるほど、リノベのパフォーマンスは上がります。

 

 

まとめ|“お得なリノベ”は「条件×設計力」でしか実現しない

「お得なリノベは本当にあるのか?」
答えは、“ある”、です。ただし、それは偶然の産物ではありません。

その裏側には、
・物件選定の慎重な判断
・設計者との密なプランニング
・施工リスクの事前排除
・希望と予算の調整設計

このような“多層的な準備と判断”が必要です。

「安くなるらしいからリノベ」ではなく、
“この物件なら、この理想を、この費用で実現できる”という明確な裏付けがあるとき、はじめてリノベーションは本当に“価値ある選択肢”になるのです。

 

▼こちらの記事も参考にしてください。

【必読】中古住宅×リノベーションで“買ってはいけない家”を見抜く方法|建物・土地・書類で判断する購入前チェックリスト
https://studio-tabi.jp/used-house-checklist/

 

 

 

「古い家をリノベすれば、お得に理想の暮らしが手に入る」そう思っていたのに、いざ見積もりを取ると「新築より高い」という逆転現象が起きることも少なくありません。
ここからは、現実的にコストを抑えるために知っておくべき“6つの視点”を紹介します。

 

 

視点①|“カバー工法”でリノベーション

リノベーションには、「既存の状態にカバーする(表層リノベーション:仕上げを重ねる)」方法と、「骨組みに到達するまで解体して作り直す(フルスケルトンリノベーション)」の2つの方法があります。

問題は、後者=構造に手を加えるリノベは、ほぼ確実に“法適合義務”が発生するという点です。

たとえば、
・再建築不可(接道義務を満たしていない)
・建蔽率・容積率をオーバーしている
・防火地域で、サッシ交換が認定品限定になる
・増築歴や確認済証が存在しない、違法建築状態

これらの建物に対して「間取りを変えたい」「壁を抜きたい」「窓を変えたい」といった工事をしようとすると、現行法に適合させるための大規模工事が必要です。

中途半端なリノベーションでは、
・建築確認が下りない
・補助金が使えない
・増築ができない
・場合によってはリノベ不可
という状況になってしまうことが多く、現実的ではない莫大な費用が必要となります。
つまり、“詰み”の状態に追い込まれることに。

こうした場合、構造には手をつけず、表層に重ねて施工する内装リノベーション「カバー工法」で整えるのが、唯一の合法かつ低コストな選択肢です。

 

 

視点②|「設備更新型」のリノベーション

続いて紹介する視点は、設備更新型のリノベーションでコストを削減する方法です。

・壁・床・天井の内装仕上げを張り替える
・水回り設備を交換する(位置変更なし)
・断熱材を既存壁内に追い充填する
・建具やサッシをカバー枠で刷新する

こうした「機能改善・設備刷新」であれば、建築確認不要・現行法適合義務なしで施工可能です・
“最低限の工事で快適性を上げる”という設計戦略が取れます。

 

 

視点③|“空間の使い方”を再設計するだけで、暮らしの質は変わる

間取りを大きく変えなくても、暮らしの快適性は“設計”で改善できます

たとえば、
・収納の位置と容量を調整し、片づけやすくする
・造作家具で空間をゾーニングして、個室化せずに用途を分ける
・視線の抜けや光の通り方を再構成することで、狭さを感じにくくする
・天井の高さや仕上げを変えるだけで、空間の印象が一変する

これは、「壊す」ことではなく、「どう使うか」を再設計するという思想です。
リノベーションにおいては、物理的変更よりも“暮らしのリデザイン”に軸を置くことが、費用対満足度を最大化する鍵となります。

 

 

視点④|“一部だけ”の刷新でも、印象は劇的に変わる

フルリノベーションを前提にすると、どうしても「全部変えないと満足できないのでは?」という心理が生まれてしまうかもしれません。
しかし実際には、視覚・触覚に直結するパーツだけ変えるだけで印象は大きく変わるのです。

たとえば
・床と天井だけを無垢材+左官で仕上げ直す
・既存の建具に突板や塗装を施してリメイクする
・照明を間接照明中心に組み直して、空間演出を再構成する
・「抜け」「奥行き」「対角線」を意識して家具配置を設計する

こうした“手数を絞った戦略的刷新”で、低コストでの劇的変化を生み出すことも可能です。
予算が限られていても、「どこを変えるか」を設計者と詰めれば、満足度は十分に引き出せます。

 

 

視点⑤|リノベは「減築」も選択肢に入る

“安くしたい”というときに、多くの人が「なるべく既存を活かす」方向で考えがちですが、あえて“減らす”ことでコストを抑え、質を高めるという戦略もあります。

たとえば、
・使っていない離れ・物置・増築部分を撤去し、メンテコストを減らす
・吹き抜けや土間をつくることで、床面積を縮小しながら空間の質を上げる
・屋根形状を簡略化して、外皮性能や施工費用を抑える

こうした“削ぎ落とすリノベ”は、設計力と意志がなければ実現しませんが、本当に必要な空間だけに整えることで、住まいがシンプルに研ぎ澄まされていきます。

 

 

視点⑥|「暮らしの変化に寄り添う設計」で、将来的な出費も抑える

リノベで大事なのは「今だけ良い」ではなく、変化を許容する柔軟性です。
予算を抑える設計とは、将来的なリフォーム・住み替え・ライフステージの変化に強い構成をつくることでもあります。

たとえば、
・水回りを1ヶ所に集約し、配管距離と将来コストを最小化
・間仕切りを最小限にし、あとから家族構成に応じて部屋を増減できる構成
・設備は最小限に抑え、性能より“交換性”や“分離性”を重視して設計する
・再販しやすい間取り・意匠とすることで、資産価値の下落を抑える

目先の価格だけでなく、10年・20年の視野で設計された住まいは、結果的に「安くつく」のです。

 

 

 

ここでは、「リノベーションは本当にお得なの?」「どこまでできるの?」といった、よくある質問に対して、建築家の視点から答えていきます。

 

Q1|「中古+リノベ」の方が新築より安く済みますか?

A.必ずしもそうではありません。

たとえば、築古物件を購入してフルリノベーションを検討した場合、
・解体調査の結果、基礎補修や柱の入れ替えが必要
・耐震や断熱の適合工事で追加費用が発生
・間取りの変更に伴って構造補強が必要

といった条件が重なると、新築より高くなるケースも現実に多くあります

つまり、「リノベは安い」という前提で予算を組むのではなく、状態の良い物件を見極める力と、改修範囲の見極めが必要不可欠です。

 

▼こちらの記事も参考にしてください。

中古住宅購入+リノベーションの流れ・落とし穴|物件選び・スケジュール・ローン・予算-“見えないリスク”を徹底解説
https://studio-tabi.jp/house-renovation-flow/

 

 

Q2|リノベーションでも補助金は使えますか?

A.はい、使えるケースもありますが、法適合が前提条件になることがほとんどです。

・耐震改修補助金
・断熱改修補助金(こどもエコすまい、長期優良リフォーム等)
・バリアフリー改修の助成

このような補助金が代表例ですが、既存建物が違法建築だったり、建築確認が取れていないと使えないことがほとんどなので注意しましょう。

特に「建ぺい率オーバー」「接道義務違反」「増築部分の無申請」などがあると、“補助金の対象から外れる”どころか、合法化のために高額な是正工事が発生することもあります。

 

▼リノベーションの補助金については、こちらの記事で詳しく解説しています。

【2025年最新版】リノベーション補助金・減税制度まとめ|対象条件・金額・申請方法・注意点を完全ガイド
https://studio-tabi.jp/renovation-subsidy-guide/

 

 

Q3|「理想の間取り」はリノベでも叶いますか?

構造次第です。

たとえば、鉄骨造やRC造のマンションでは、構造壁が抜けないため、大幅な間取り変更ができないことがあります。

一方、木造戸建でも、耐力壁や柱・梁が主要構造に組み込まれている場合、「ここを抜いて広くしたい」が、安全上どうしても不可能という判断になることも。

つまり、“理想の間取り”を叶えるには、構造調査と建築士の構造的判断に基づいた「再構成」ができるかどうかが前提となります。

 

 

Q4|将来的に資産価値はどうなりますか?

これは、立地と建物の評価のされ方次第です。

中古住宅を購入しフルリノベしても、
・築年数がリセットされるわけではない
・リノベ費用がそのまま評価に加算されることは少ない
・構造が旧耐震基準なら、資産価値は限定的

という前提があります。

ただし、
・合法な増築や減築により、建ぺい率・容積率を適正化
・長期優良リフォームなどの認定取得
・再販時の市場価値を見据えた“間取りと仕上げ”の選定

を行えば、「築年数以上の価値をつける」ことは可能です。

 

 

Q5|“なるべく費用を抑えたい”ときは、どこに相談すべき?

まずは、建築士や設計事務所に相談することをおすすめします

工務店や施工業者では、どうしても「施工前提」の発想になりがちですが、建築士であれば、「費用を抑えるために“柔軟に提案を変える”」というアプローチができます。

また、予算に合わせて設計範囲を調整したり、最初から「カバー工法」や「用途限定リノベ」などで全体を組むことも可能です。

施工の前に、まずは“設計”の段階でコストダウンの選択肢を探る。
これが、“リノベの方が割高”という結末を避けるための第一歩になります。

 

▼こちらの記事もおすすめです。

【注文住宅】最もコストパフォーマンスに優れるのは”建築家”?|設計料と費用の真実
https://studio-tabi.jp/architect_cost/

 

 

 

「リノベーションは安い」というイメージは、すでに“常識”として浸透しているかもしれません。
けれど、現場ではその“常識”が通用しないケースも少なくないのが、実際のところです。

リノベでコストが高くなる5つの典型パターンでも触れたように、

・解体後に構造補強や是正工事が必要になる
・確認申請が通らず補助金対象外となる
・法適合のために大幅な設計変更が必要になる
・間取り変更が構造的に成立せず、結果的に費用が跳ね上がる
・理想を追いすぎた結果、フルスケルトン新築と同等になる

このような現象が現実には頻発しています。

 

 

とはいえ、「リノベ=損」と言いたいわけではありません。

リノベーションには、建て替えでは得られない価値があります。
思い出の継承、素材の再活用、構造の再評価、そして場所を変えずに暮らしを再設計すること、それらは、単なる費用対効果では測れない“暮らしの哲学”に近いものです。

 

 

ただし、だからこそ重要なのは、「費用を抑えるためにリノベを選ぶ」という発想だけで突き進まないこと。

・法的・構造的な制約
・確認申請の有無と補助金の可否
・既存の性能と目指す水準のギャップ
・工事が可能な実現性とその難易度

このような現実的な条件整理こそが、“お得なリノベ”を成立させるための絶対条件です。

 

 

私たちのような設計事務所は、そうした“前提条件”から設計します。
つまり、「できる・できない」「コストが跳ね上がる要因がどこにあるのか」を、プラン以前の段階で見極めることができるのです。

「費用を抑えたリノベをしたい」
「でも、無理のない計画にしたい」

そう考える方こそ、ぜひ一度、建築家にご相談ください。
リノベだけでなく、新築・建て替えとのコスト比較も含めて、最初の段階から中立的にアドバイスいたします。

▼私たちの【設計実例】は、以下からご覧いただけます。

 

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▼こちらの記事もおすすめです。

中古住宅購入+リノベーションの流れ・落とし穴|物件選び・スケジュール・ローン・予算-“見えないリスク”を徹底解説
https://studio-tabi.jp/house-renovation-flow/

 

参考資料・公的機関リンク一覧(リノベーション関連)

国土交通省 住宅局住宅生産課|一般社団法人 住宅性能評価・表示協会
既存住宅の住宅性能表示制度ガイド

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001594050.pdf

国土交通省|土地・建設産業局、住宅局
既存住宅流通市場の活性化

https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/hyouka/content/001313273.pdf

国土交通省
令和7年度長期優良住宅化リフォーム推進事業

https://r07.choki-reform.mlit.go.jp/

一般社団法人 住宅リフォーム推進協議会
https://www.j-reform.com/

住宅金融支援機構|フラット35リノベ
https://www.flat35.com/loan/reno/index.html

国税庁
マイホームを増改築等したとき|住宅特定改修特別税額控除など

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_2.htm

国税庁
No.1216 増改築等をした場合(住宅借入金等特別控除)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1216.htm

 

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