はじめに|リノベーションこそ「設計」が重要になる
リノベーションを検討するとき、
「工務店と設計事務所、どちらに頼めばいい?」
「設計事務所に依頼するメリットは何だろう?」
と迷う方も多いのではないでしょうか。
リノベーションは、古くなった内装や設備を新しくするだけの工事ではありません。
既存の建物を読み解きながら、これからの暮らしに合わせて空間を再設計すること。
そこに、リノベーションの大きな価値があります。
そして実は、この「既存建物を生かしながら考える」という特徴こそ、リノベーションと設計事務所・建築家の相性がいい理由です。
新築であれば、基本的には何もない状態から設計を始められます。
一方、リノベーションでは、次のように建物ごとに異なる条件があります。
・既存の柱や梁
・既存建物の劣化状況
・既存の配管や設備の位置
・既存の断熱や耐震性能
・法規上の制約
・予算 など
つまり、同じ広さ・同じ築年数の建物でも、できることは一棟ごとに違うのが、リノベーションです。
だからこそ重要になるのが、既存建物の状態を読み取り、制約の中から可能性を見つける「設計力」。
そこで本記事では建築家の視点から、
・設計事務所でリノベーションするメリット
・自由設計だからこそ実現できること
こちらの2点を中心に、リノベーションを設計事務所・建築家に依頼する意義を解説していきます。
リノベーションは新築以上に「個別性」が高い
まずはじめに、リノベーションの特徴を整理しておきましょう。
リノベーションの大きな特徴は、建物によって条件が大きく異なることです。
築20年の木造住宅と、築50年の住宅では、当然ながら検討すべき内容は違います。
マンションと戸建てでも、構造や設備、工事できる範囲は変わり、
同じ築50年の木造住宅でも、これまでの維持管理や増改築の履歴、劣化状態は異なります。
そのため、
「このプランなら、この金額」
と単純にパッケージ化しにくいのが、リノベーションです。
大切なのは、最初から答えを当てはめることではありません。
まず建物を見て、何を残せるのか。
何を変えるべきなのか。
そして、どこに費用をかけると、暮らしの価値を高められるのか。
一つひとつ整理していくことが、リノベーション設計の出発点になります。
設計事務所の「自由設計」とは、何でも自由にすることではない
設計事務所に依頼するメリットとして、よく挙げられるのが「自由設計」です。
ただし、ここでいう自由とは、
「好きな間取りにできる」
「好きな素材を何でも使える」
という意味だけではありません。
特にリノベーションには、構造や法規、既存設備、予算など、様々な制約があるものです。
例えば、撤去したい壁が構造上重要な場合もあれば、
水まわりを希望する位置へ移動できないケースもあるでしょう。
マンションであれば、管理規約によって工事内容が制限される。
つまり、リノベーションにおいて、完全に制約のない設計は存在しません。
では、自由設計とは何なのでしょうか。
私たちは、制約を正しく理解した上で、その中から最適な答えをつくることだと考えています。
できないことを無理に実現するのではなく、条件を整理しながら別の可能性を探していく。
場合によっては、当初考えていた方法よりも、暮らしやすく、美しく、コスト面でも合理的な案が見つかることがあります。
制約をデザインの下地へと変換する設計力と提案力。
それこそが、設計事務所によるリノベーションの大きな魅力です。
間取りだけではない|建物全体を一体として設計できる
リノベーションというと、間取り変更や内装デザインを思い浮かべる方も多いでしょう。
しかし、本来の設計は、それだけではありません。
・断熱性能をどう改善するのか。
・耐震性に問題はないか。
・光や風をどう取り込むのか。
・家具や収納をどこに配置するのか。
・照明や設備をどのように納めるのか。
こうした要素は、それぞれ独立しているように見えて、実際には密接につながっています。
例えば、大きなLDKをつくるために、壁を取り払えばよいとは限りません。
構造を確認しながら、光の入り方や動線、空調効率まで考える必要があります。
キッチンの位置を変える場合も同様です。
見た目だけではなく、給排水や換気、床下や天井裏の納まりまで含めて、検討しなければなりません。
設計事務所では、こうした建築全体の関係を整理しながら、一つの空間としてまとめていきます。
建築とインテリア。
デザインと性能。
使いやすさと美しさ。
それらを分けて考えるのではなく、全体を一つの設計として整えていくこと。
そこにも、設計事務所へリノベーションを依頼する意味があります。
「残す」という判断も、リノベーション設計の大切な仕事
リノベーションでは、新しくすることばかりに目が向きがちです。
しかし、すべてを壊して、新しくすればよいとは限りません。
既存の柱や梁。
長く使われてきた素材。
特徴的な窓や建具。
その土地ならではの景色や、建物が持つ時間の積み重ね。
そこに価値があれば、あえて残すという選択肢もあります。
さらに、既存部分を適切に生かすことで、工事費を抑えながら空間の魅力を高められるケースもあります。
何を壊すかだけではなく、何を残すか。
そして、残したものを新しい暮らしへ、どうつなげるか。
この判断もまた、リノベーションにおける設計の重要な役割です。
設計次第で、同じ予算でもできることは変わる
リノベーションでは、予算の使い方も大きなポイントです。
限られた予算の中で、すべてを同じように新しくする必要はありません。
例えば、構造や断熱にはしっかり費用をかける。
一方で、まだ使える部分は残す。
設備のグレードを抑えながら、空間全体の質を高める。
このように、どこに費用をかけ、どこを抑えるのか。
その判断によって、同じ予算でも完成する空間は大きく変わります。
設計事務所の役割は、単に希望を図面にすることではありません。
暮らし方や建物の状態、予算の優先順位まで整理しながら、
「この建物なら、どこにお金を使うべきか」
を考えていくこと。
結果として、すべてを新しくするよりも、必要な部分へ重点的に費用を配分した方が、満足度の高いリノベーションになることもあります。
安くすることだけが、コスト設計ではありません。
限られた予算の中で、価値を最大化すること。
そこにも設計の力が表れます。
難しい条件ほど、設計事務所の力が生きる
リノベーションでは、必ずしも条件の良い建物ばかりではありません。
築年数が古い。
間取りが細かく分かれている。
採光が取りにくい。
構造上、壁を簡単に動かせない。
こうした条件があると、
「希望する暮らしは難しいのでは?」
と感じるかもしれません。
しかし、制約があるからこそ、設計の工夫が生きる場面もあります。
壁をなくせないのであれば、別の方法で視線の抜けをつくる。
窓を増やせないのであれば、光の取り込み方や反射のさせ方を考える。
構造上残す必要のある柱も、空間の特徴として生かせるかもしれません。
設計とは、制約を消すことではありません。
条件を読み解き、その中にある可能性を見つけていくこと。
必要に応じて構造設計者や設備の専門家とも連携しながら、実現できる方法を探していきます。
だからこそ、難しい条件の建物ほど、設計事務所に相談する価値は大きくなると言えるでしょう。
まとめ|自由設計とは、その建物だけの最適解をつくること
リノベーションは、新築以上に建物ごとの個別性が高い仕事です。
構造、劣化状況、法規、設備、予算。
さまざまな条件が重なり、できることも一棟ごとに変わります。
だからこそ、最初から決められた答えを当てはめるのではなく、
建物を読み、暮らしを考え、条件を整理しながら答えをつくる。
プロセスこそが重要です。
設計事務所の「自由設計」とは、何でも自由にできることではありません。
制約を理解した上で、その中から最も納得できる形を導くこと。
そして、その建物にしかない価値を見つけることです。
何を壊すのか。何を残すのか。
どこに費用をかけるのか。
どんな暮らしをつくるのか。
一つひとつ丁寧に考えることで、リノベーションの可能性は大きく広がります。
既存建物だからこそ生まれる魅力を、新しい暮らしへつなげていく。
それが、私たちが考えるリノベーション設計の本質です。
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