はじめに|名作家具・デザイナーズチェアを選ぶ前に
家づくりを考えていると、家具にもこだわりたくなるものです。
その中でもダイニングチェアは、毎日使うだけでなく、空間の印象を大きく左右する存在。
YチェアやCH33、セブンチェアなど、長く愛されてきた名作椅子に憧れている方も多いのではないでしょうか?
ただし、デザイナーズチェアは「有名だから」「写真で見て美しかったから」という理由だけで選ぶと、意外と後悔することがあります。
椅子は、単体で見るものではありません。
座る人の身体、テーブルの高さ、部屋の広さ、床材、照明、周囲の家具。
そのすべてとの関係によって、使いやすさも美しさも変わります。
そこで今回は、デザイナーズチェアを選ぶときに大切にしたい3つの視点を設計事務所の立場から解説します。
デザイナーズチェアは、見た目だけで選ばない
デザイナーズチェアの一番の魅力は、美しいデザインです。
一脚置くだけで空間の雰囲気が変わるような椅子もあり、長い年月を経ても古さを感じさせない名作も少なくありません。
一方で、椅子は鑑賞するためだけのものではなく、毎日の生活で使う家具でもあります。
写真では魅力的に見えても、実際に座ると身体に合わなかったり、ダイニングテーブルとの高さが合わなかったりすることもあるでしょう。
さらに住宅では、椅子の幅や奥行きによって必要な通路寸法まで変わります。
デザイナーズチェア選びでは「その椅子が美しいか」だけではなく、「その家、その暮らしの中で美しく使えるか」を考えることが大切です。
そのような切り口から、設計事務所が実践する3つの視点を紹介します。
視点1|座り心地ではなく「どう使うか」まで考える
まず考えたいのが、その椅子でどのように過ごすのかということ。
食事の時間だけ座るのか。
食後もダイニングでゆっくり過ごすのか。
仕事や勉強にも使うのか。
使い方によって、求められる座り心地は変わります。
例えば、アームのあるYチェアと、比較的コンパクトなCH33やセブンチェアでは、座ったときの感覚だけでなく、テーブルとの距離感や立ち座りのしやすさも異なります。
より長時間やすらぐためなのか、それとも取り回ししやすさも兼ね備えているのか。
名作家具は、どれも独自のデザインであると同時に、目的もそれぞれ異なります。
名作椅子だから誰にでも合う、というわけではありません。
大切なのは、椅子そのものの評価ではなく、自分たちの暮らし方との相性を見ることです。
視点2|椅子単体ではなく、空間全体とのバランスを見る
デザイナーズチェアを選ぶときは、椅子だけを見て決めないことも大切です。
どれだけ美しい椅子でも、テーブルや床、照明、空間の広さとのバランスが合っていなければ、その魅力を十分に生かせません。
特に確認したいのが、ダイニングテーブルとの関係です。
座面の高さと天板の高さが合っているか。
アーム付きの椅子であれば、テーブルの下に収まるか。
椅子を引いたときに、後ろを人が通れるだけのスペースがあるか。
こうした寸法は、実際の使いやすさに大きく影響します。
また、見た目の印象も椅子によってかなり変わります。
例えばYチェアは、曲木のアームやペーパーコードの座面が印象的で、空間の中でも存在感があります。
一方、CH33は比較的コンパクトで端正な印象。
セブンチェアは細い脚と成形合板の軽やかさがあり、複数脚を並べても空間を重たく見せにくい椅子です。
どれが優れているということではありません。
住宅全体のデザインや、目指している空間の雰囲気によって、合う椅子は変わります。
床材が木なのか、石なのか。
テーブルが無垢材なのか、ガラスや金属なのか。
空間を温かく見せたいのか、すっきりと整えたいのか。
家具まで含めて考えることで、空間全体にまとまりが生まれるでしょう。
住宅設計では、家具は最後に付け足すものではありません。
むしろ、どのような家具を置くかまで想定しながら間取りや素材、照明を考えることで、完成したときの空間は大きく変わります。
視点3|10年、20年使うことまで考えて選ぶ
デザイナーズチェアは、決して安い買い物ではありません。
だからこそ、購入時の価格だけではなく、「どれくらい長く使えるか」という視点も持っておきたいところです。
良い椅子は、使い続けることで傷や色の変化が生まれ、それが少しずつその家らしい表情になっていきます。
また、長く販売されている定番の椅子には、将来的に修理や張り替えができるものもあります。
座面を交換する。
傷んだ部分を補修する。
必要になったときに同じ椅子を買い足す。
こうしたことができれば、家具を短い周期で買い替える必要もありません。
住宅と同じように、家具も初期費用だけで価値を判断するものではないでしょう。
10年、20年という時間の中で使い続けられるかまで考えることが、結果として後悔しにくい選び方につながります。
Yチェア・CH33・セブンチェアが選ばれる理由
私たちの住宅設計では、YチェアやCH33、セブンチェアが選ばれることがあります。
この3脚に共通しているのは、いずれもデンマークを代表する北欧デザインの名作であること。
YチェアとCH33はハンス・J・ウェグナー、セブンチェアはアルネ・ヤコブセンによってデザインされた椅子です。
北欧家具には、華美な装飾で存在感を出すというよりも、素材や構造、使いやすさを丁寧に整えながら、美しい形へと導いていくものが多くあります。
その考え方は、私たちが住宅を設計するときに大切にしていることともよく似ています。
必要以上にデザインを加えるのではなく、暮らしや機能、素材を整理した先に、美しい空間をつくること。
そのため、木や自然素材を使ったシンプルな住宅、余白を大切にした空間には、北欧のデザイナーズチェアがとても自然に馴染むのです。。
Yチェアは、背からアームへと続く美しい曲線とペーパーコードの座面が特徴的。木の質感が感じられ、空間の中でもほどよい存在感をつくってくれます。
CH33は、よりコンパクトで端正な印象です。曲線を持ちながらも主張しすぎず、木を基調とした住宅にも合わせやすい椅子。
セブンチェアは、成形合板による軽やかなフォルムが魅力です。細い脚によって視線が抜けるため、複数脚を並べても空間を重たく見せません。
もちろん、この3脚がすべての住宅に合うわけではありません。
ただ、シンプルでありながら素材感があり、機能と美しさが無理なく両立している北欧家具は、私たちのような設計事務所がつくる住宅との相性がとても良いと感じています。
名作家具だから選ぶのではなく、その家の建築や暮らしに自然と馴染むから選ぶ。
それが、私たちの住宅でYチェアやCH33、セブンチェアが選ばれる理由のひとつです。
椅子が決まると、ダイニングの設計も変わる
実は、椅子選びは家具だけの話ではありません。
例えば、Yチェアを4脚置くのか、セブンチェアを6脚並べるのかによって、必要なダイニングテーブルの大きさは変わります。
テーブルの大きさが変われば、ダイニングに必要な広さも変わるでしょう。
さらに、ペンダント照明の位置、コンセントの位置、周囲の通路幅、窓との関係まで影響してきます。
椅子一脚の選択は、間取りにもつながっているのです。
家が完成してから家具を当てはめるのではなく、使いたい家具があるなら、最初から設計に組み込んでしまう。
その方が、家具にも建築にも無理がありません。
実際、好きな椅子やテーブルがすでに決まっている場合は、それを起点に住宅を設計することもあります。
「このYチェアを置きたい」
そんな小さな希望から、ダイニングの大きさや窓の位置、照明、床材まで展開していくことも、住宅設計の面白さだと思います。
まとめ|デザイナーズチェアは、暮らしと空間に合う一脚を選ぶ
デザイナーズチェアを選ぶときは、見た目の美しさだけで決めるのではなく、
どう使うのか。
空間全体に合っているか。
10年、20年と長く使えるか。
この3つの視点から考えることが大切です。
Yチェア、CH33、セブンチェアのような北欧デザインの名作家具は、機能性と美しさが無理なく両立しており、シンプルで素材感を大切にした住宅ともよく馴染みます。
ただし、名作家具を置けば、それだけで美しい住まいになるわけではありません。
大切なのは、その椅子が自分たちの暮らしに合い、テーブルや床材、照明、間取りと自然につながっていること。
椅子一脚から住宅全体を考えることもできます。
家具を最後に選ぶのではなく、設計の段階から建築と家具を一緒に考えることで、暮らしやすさと美しさの両方が整った住まいにつながっていくでしょう。
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