はじめに|デザインは目的ではなく手段である
家を建てるなら、できるだけ美しい家にしたい。
そう考える方は多いでしょう。
住宅のデザインは、暮らしの満足度にも大きく関わるものです。
しかし、「美しいカタチをつくること」そのものが、住宅設計の目的になっていませんか?
見た目のデザインだけが先に立ち、本来そこにあるはずの暮らしや敷地との関係が置き去りになってしまっていませんか?
住宅には、その土地ならではの条件があり、住む人それぞれの暮らしがあります。
それらを丁寧に読み解き、必要なものを考え続ける。
その結果としてカタチが生まれ、やがて住宅全体の美しさにつながっていく、というのが住宅設計の本質です。
そこで今回は、住宅デザイン・住宅設計において「カタチ」には意味が必要な理由について、設計事務所・建築家の視点からお話しします。
美しい家をつくることだけが、住宅設計の目的ではない
住宅雑誌やSNSを見ていると、印象的な外観や大きな窓、特徴的な屋根など、目を引く住宅が数多くあります。
もちろん、美しい建築を目指すことは大切です。
しかし、「格好いいから、このカタチにする」という順番には、少し注意が必要でしょう。
住宅は、見るためだけのものではありません。
毎日そこで生活し、季節を過ごし、何十年という時間を積み重ねていく場所です。
だからこそ、まず考えるべきなのは、その家族がどのように暮らしたいのか。
どこから光が入り、どこに視線が抜け、外部とどのようにつながるのか。
敷地や周辺環境、構造、予算についても同時に考える必要があります。
美しいカタチを最初につくり、そこへ暮らしを当てはめるのではありません。
暮らしや土地に対する答えを探した先に、結果として美しい建築が生まれる。
その順番が、住宅設計ではとても重要だと思います。
デザインは、目的ではなく結果として生まれる
私たちが設計するとき、「どんなカタチにしようか」だけを考えているわけではありません。
むしろ最初に考えるのは、「なぜ、そうする必要があるのか」ということです。
たとえば、窓を一つ設ける場合でも、単に大きな窓が格好いいから採用するのではありません。
庭を眺めたいのか。
朝の光を取り込みたいのか。
外からの視線を避けながら空だけを見せたいのか。
目的によって、必要な窓の位置も、大きさも、カタチも変わってきます。
建築のあるべき姿は、見た目や形が先立つのではなく、さまざまな問いに答えていった結果として、少しずつ現れてくるものだと考えています。
「なぜ、このカタチなのか」を考える
住宅のカタチには、できるだけ理由があったほうがいいと考えています。
たとえば、深い庇をつくる場合。
単に外観を印象的に見せるためではなく、夏の強い日差しを遮り、雨から外壁や窓を守りながら、室内と庭の間に居場所をつくる。
そうした複数の意味が重なることで、庇そのものが建築の特徴になっていきます。
壁も同じです。
視線を遮るための壁が、構造を支える役割も担い、同時に空間の奥行きを生み出すこともあるでしょう。
一つのカタチが、一つの目的だけを解決するとは限りません。
むしろ住宅設計のおもしろさは、いくつもの条件に対して、一つの答えを見つけていくところにあります。
「なぜ、このカタチなのか」
その問いに対して、暮らしや敷地、構造、環境など、いくつもの理由を重ねて説明できる。
そうした建築には、見た目だけではない説得力が生まれてくると思います。
カタチを先につくると、建築に無理が生まれることがある
一方で、デザインを先につくり、そのカタチを成立させるために後から条件を合わせていくと、どこかに無理が生まれることがあります。
複雑な形状にしたことで構造が難しくなる。
防水の納まりが増える。
施工費が高くなる。など
もちろん、複雑な建築や特徴的な外観そのものが悪いわけではありません。
そのカタチにする必要があるなら、複雑になることにも意味があるでしょう。
大切なのは、必要だから特徴的になった建築と、特徴的に見せるためにつくられた建築は違うということです。
住宅デザインでは、見た目の新しさや派手さよりも、そのカタチがそこで暮らす人にとって本当に必要なのかを考えることが重要だと思います。
建築は、一つの答えだけでできているわけではない
「意味が必要」というのは、機能だけを優先すればよいという話でもありません。
住宅には、簡単には一つに決められない条件がたくさんあります。
光を入れたいけれど、外からは見られたくない。
広い空間にしたいけれど、構造的な安定性も必要になる。
建築費は抑えたい一方で、長く使う部分には十分な質を持たせたい。
このような、ときには相反する条件を一つずつ整理し、全体としてバランスの取れた答えを探していくことが住宅設計です。
単純な正解があるわけではありません。
だからこそ、その人、その土地、その予算に合わせて考え続ける必要があります。
合理性を突き詰めた先に、建築美が立ち現れる
私の言う、合理性とは、単に安くつくることでも、効率だけを優先することでもありません。
暮らしやすさ、構造、施工性、コスト、耐久性、光、風、素材、将来の変化。
住宅には、さまざまな要素があります。
その一つだけを優先するのではなく、建築全体として何が最も良いのかを考えることが大切です。
たとえば、少しコストが上がったとしても、そのことで暮らしやすさや耐久性が大きく向上するのであれば、長い目で見れば合理的な判断になることもあります。
逆に、見た目のためだけに複雑な納まりを増やし、建築費や将来の維持管理まで大きくしてしまえば、本当に必要なデザインなのかを考え直したほうがよい場合もあるでしょう。
住宅設計では、目の前の効率だけではなく、建築全体を通して考える必要があります。
そうして一つひとつの条件を整理し、必要なものを残し、不要なものを取り除いていく。
その先に、その建築にしかないカタチが現れてきます。
美しさを直接つくろうとするのではありません。
設計を突き詰めた結果として、自然に建築美が立ち現れる。
私たちは、そんな住宅が強く、美しいのではないかと考えています。
美しい家には、美しくなるだけの理由がある
長く魅力を感じる住宅には、見た目だけでは説明できない理由があります。
光がきれいに入ることにも理由がある。
窓の位置が心地よく感じられることにも理由がある。
外観のプロポーションが整って見えることにも、その背景には設計上の判断があります。
一つひとつの選択がばらばらに存在するのではなく、それぞれが関係しながら一つの建築をつくっていく。
だからこそ、意味のあるカタチには、無理のない美しさが生まれます。
「美しいから、このカタチにした」のではない。
その人、その土地、その条件にとって必要な答えを考え続けた結果として、そのカタチになった。
その違いは、完成した建築にも表れてくると思います。
建築家の仕事は、カタチをつくることではなく、答えを探すこと
建築家というと、特徴的なカタチを考える人という印象を持たれることもあります。
しかし、本来の仕事は、単に自分の好きなデザインを当てはめることではありません。
住む人の話を聞き、土地を読み、予算や構造、施工方法まで含めて条件を整理する。
そして、「なぜ、こうするのか」を何度も問いながら、その人にとっての答えを探していく。
その積み重ねの結果として、間取りが生まれ、カタチが生まれ、建築になります。
デザインすること自体を目的にしない。
目的を突き詰めた結果として、デザインが生まれる。
そして、その先に建築美が立ち現れる。
私たちは、そんな住宅設計を大切にしています。
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